第11話 新たな里
俺達は、獣人へ国を明け渡す準備を着々と進めている。
「リカールスは仕事の引き継ぎ、進んでいるか」
「ええ、なんとか」
「内政に外交と仕事量が多いからな、大変だろう」
「まあ、それはいいんですけど……魔王様、聞いてくださいよ。メディカントったら最近は冒険者ギルドに入り浸っていて、冒険者仲間と遊び回っているんですよ」
「まあ、いいじゃないか。そういやあいつ、ドラゴンを見つけに行きたいとか言っていたな」
仕事以外に夢を持つことはいい事だ。この後の自分の人生は、自由に生きてほしいものだな。
俺達、眷属の里の準備も進んでいる。風光明媚な場所で他の町からも近い交通の便のいい所だ。前のように他の者から隠れて暮らす必要もない自分達だけの里。
「ピキュリアは、今どうしてる」
「新しい里の建設で、現地に行ってます。眷属の半数以上が里への移住を希望していますよ」
「ピキュリアには、頑張ってもらって早く里に行けるといいな」
「はい、そうですね」
リカールスは、今までにない明るい笑顔をくれた。
さて、俺も残った仕事を片付けるか。
国を移譲する準備も進み、ついに王位継承の日となった。王宮の前に住民を集め、テラスの上より高らかに演説を行なう。
「皆の者。前皇国は滅び、この地は魔族の国となった。あまねく国民が平和で豊かな暮らしができるのも、我ら魔族の支配の
この五年で統治機構の整備も進み、汚職やワイロと言ったものを排除してきた。獣人を平等に扱い、真面目に働けば誰であれちゃんと収入が得られるようになった。
「今後は我の代わりに獣人の王を据える。自らの力で国を運営し、さらに発展させよ」
新しい獣人の王を紹介し、今後はこの王に従うようにと命令する。新たな王は国民の前で、今日よりこの国をアルメイヤ王国として建国すると宣言した。
「国の移譲は、我ら魔族の恩情である。今後もしこの恩義を忘れ、魔族に対して危害を加える事あらば、この魔王自ら
これだけ言っておけば、この国に残る眷属達に危害が及ぶこともあるまい。
この後は戴冠式やパレード、夜の祝賀会が終われば俺の仕事も終わりだ。
「お疲れ様でした、魔王様」
「ご苦労だったな。みんなも疲れただろう。だがこれで明日からは自由だ」
祝賀会の後、側近の三人と集まってお互いの労をねぎらう。みんな晴れ晴れした顔をしているな。俺も重い肩の荷が下りた感じだ。
「メディカントは明日早々に旅立つそうだな」
「ああ、他の三人の仲間も早く旅に出たいと言ってますから」
「餞別代りと言っては何だが、俺の血を乾燥させて固めた錠剤をお前に渡そう。万能の治癒薬になる」
「ええっ、いいんですか。これはありがたい」
時間をかけてうまく乾燥させないと効果がなくなるため、製造が難しく大量には作れないが、小瓶に入れた錠剤を獣人の冒険仲間三人分も合わせて渡す。
ピキュリア達からも冒険の旅に役立つ物をもらったようだな。
「ところで、魔王様。オレは公爵位となるようだが、世界を旅している間この王宮に来ることもできねえ。爵位を外してくれんか」
「まあ、爵位があっても邪魔にはならんだろう。日頃は普通の冒険者と名乗っていればいいんじゃないか」
給金も要らないと言うから、職責は無くして王宮に呼ぶことはないと言っておいた。まあ、退職金代わりの金は渡してある。城が一つ持てるほどの金だ。好き好んで冒険の旅に出る事もないとは思うんだがな。
メディカントの性格からすると、地方を巡り不正があればそれを正す、どこかの御隠居様のような事をするんじゃないだろうか。
「冒険だと言って、あまり無茶な事はしないでくださいね。もう歳なんでからね」
「そうよね。別れたとたんに死んだなんて言われたら、寝覚めが悪いですしね」
「オレを誰だと思っているんだ。魔王軍の将軍なんだぞ。そう簡単には死なんさ」
「メディカントよ、魔王軍は解散したんだぞ。明日からお前はただのオッサンだ。まあ、気を付けるんだな」
「えっえ~。魔王様まで~」
笑い合うこいつらと一緒に過ごす時間は、俺にとっては宝物のようなものだ。俺の産み出した眷属達にも、これからは自分のために思い通りの時間を過ごしてもらいたい。
俺は愛する眷属達の幸せのために生きているようなものだからな。
「私は魔王様から離れませんからね」
「わたくしもですわ。明日はわたくし達を、飛んで里まで連れて行ってくれるんでしょう」
ピキュリアとリカールスに早く里に行きたいとせがまれて、明日は二人を抱きかかえて里に向かう予定だ。新しい里は昔の魔王城の近くだし、ゆっくり飛んでも二日あれば到着できる。
「私が手掛けた里は、素晴らしいですわよ。魔王様も気に入ってくれると思いますわ」
「そうか、それは楽しみだな」
俺もまだ新しい里は見ていない。他種族や魔獣から危害を加えられることのない安全な場所で、百人程の眷属と共に気兼ねすることなく生活できる所だと聞いている。
二人を連れ飛んで行った新しい里は、城壁に守られ綺麗な水に広く豊かな農地。里から少し離れた森には食料となる獣も多い、ピキュリアが自慢するだけのことはあるな。
ここでは俺は
「俺はもう王ではない。二人は俺の妻と言う事になるのか」
「魔族の王である事に変わりありません。魔王様の奥様というのは、恐れ多いですね」
「あくまで、魔王様の眷属のひとりと思ってもらって結構ですわよ」
俺に献身するのが喜びだと言っている。とは言え二人は俺にとって特別な存在だからな。
「だが男としてケジメはつけんとな。お前達二人と結婚式を執り行なおう。正式に俺の妻となってくれんか」
二人の前に跪き手を差し伸べ「お前達に俺の愛をささげる」と言う。二人は驚きつつも「はい」と手を俺に預けてくれた。その手にキスをし二人を抱えて夕暮れ時の空を飛ぶ。
「魔王様じゃないと見れない景色ですね。大好きですよ、魔王様」
「ここなら誰の邪魔も入りませんわね。愛していますわよ。魔王様」
その日の夕焼けは俺にとって忘れえぬものとなった。
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