第10話 獣人族の王

 その後、南部地域の町の再建も進み、徐々に移住も始まった。移住計画はピキュリアに任せているが、よくやってくれている。


「各地の領主は、皆うまくやってくれているようだな」

「はい、魔王様。眷属の方々は皆さん優秀ですので」


 眷属は事情があるにせよ、国を捨て家族とも別れる決断をした者達。自らの意思で俺の眷属となり、強い意志の元自分達の国造りに邁進してくれる。世襲による領主とは雲泥の差だ。


 移住は陸路だけでなく、飛行艇による空路も使って一気に推し進める。


「移住先はどんな様子だ」

「評判はいいようですわ。新しい家に上下水道などの最新設備、広い農地もあって暮らしやすいと言っていますわよ」


 それは良かった。急激な変化で不満など出る懸念もあったが、順調に進んだようだな。


「それと最近は、新しい宗教ができたと聞いたが」

「新しいと言うか以前からあった宗教なのですが、獣人は神によって作られ、みんな平等という教義のようですわね」


 以前の皇国のトップが神の子孫であると言うよりもましな考えだな。それなら大きな教会でも建てて、その宗教をバックアップするのもいいか。虚構フィクションではあるが、心の拠り所を持つのも今は必要だろうからな。


 ある程度事態が落ち着いて、また側近の三人とゆっくり話すことができるようになった。


「そういや魔王様は、空にいる神様に会った事があると言っていたな」

「ああ、この地上に降りる前にな。だがあれが全知全能の神とは思えなかったな。言ってみれば、ただのオッサンだったぞ」

「神様をオッサン呼ばわりするとは、さすが魔王様ですわね」

「ねえ、魔王様。私達もその神様に会えますかね」

「どうだろうな。俺も空の上へ行く手段は知らんからな」

「それは残念ですわね。妖精族のマチーダ神にお会いしたかったのですけど」

「その神は女神だったな。俺が会ったのは男神の一人だけだが、この地上全てを管理していると言っていた。神は一人だけのようだったぞ」

「すると、オレの鬼人族の女神、テウラニージ神もいないと言う事か」

「そうだな。神が死ぬのかは知らんが、その神様は遥か昔の神様なのかもしれんな」


 一万年も前の神話の時代に、各種族の神様の話が出来上がったようだが、実在していたかは疑わしい。俺が会った神の名は聞いていなかったが、獣人族のウエノス神でもないのだろう。


「魔王様。今建設中の神殿にその神様の壁画を書きましょうよ」

「あの男をか~」

「いいじゃないですか。本物の神様なんですから。後でどんな姿だったか教えてくれませんか」


 まあ、いいか。ガゼノラ帝国の聖堂にもそんな壁画があったしな。想像だが他の種族の神様も一緒に描いてもらおうか。今の宗教はみんな平等と言っているのだし、構わんだろう。


 その後、住民達の生活も落ち着き、産業も発展してきた。この国の王とはなったが忙しい毎日を送っている。

 側近の三人や各地方にいる眷属の領主も忙しそうだ。ふと、これでいいのかと疑問に思ってしまった。


「みんな、久しいな」

「そうですわね。忙しくてみんなが集まる機会もありませんでしたものね」

「実はな、この国を獣人達に明け渡そうと思う」

「そんな! やっと魔族の国を持つことができたんですよ」

「魔王様、これまでの戦いが無駄になってしまうぞ」


 皆が反対するのも分かる。苦労してやっとここまで来たんだからな。


「だがな、この国のほとんどの住民は獣人族だ。お前達は獣人のために毎日忙しく働いている事になる」

「それなら、眷属をもっと増やせばいいんじゃないのか。眷属になりたいという奴はすごく多いぞ」


 確かに眷属になりたいと言ってくる連中は後を絶たない。毎日のようにこの城にやってくる。


「だがな、その者達は魔族の権力欲しさに、眷属になりたいと言ってきている。実際に俺の血を与えても人間の体に変化する者はいなかった」


 真に眷属になりたいと思う者以外、眷属として覚醒はできない。


「もうこの国で俺達を迫害する者はいない。ならば獣人のための仕事は、獣人にしてもらってもいいんじゃないか」


 獣人の王を立てて、この国を管理してもらおう。俺達眷属は別の場所でのんびりと過ごすのが幸せじゃないかと、みんなに話した。


「そうかも知れんな。オレも今の仕事以外にやりたいこともある。このまま仕事に忙殺されるのもな……」

「でも、魔王様。他の町で領主になって獣人と結婚した者もいます」

「別に全員が新たな場所に行かなくてもいいさ。里を作り移住したい者だけ来ればいい」

「わたくしは、魔王様と一緒ならば、どこででも結構ですわ。この先ずっと一緒にいますわよ」

「それは私もそうよ。でもまたこの国が混乱しては元も子もないと思っているだけです」

「獣人の王に全て任せる訳じゃない。その側近には眷属の者を置くつもりだ。交代制にして負担にならないようにする」


 移住せず領主でいたい者の中から、この王都に来てくれるものを選抜する。たまには俺が来てもいいだろう。陰で支えながら、混乱することなく徐々に獣人に権力を移譲していけばいい。


「俺はお前達、眷属の幸せを願っている。俺達がこの国から身を引くことが一番いいのではないか」


 皆は黙り、俺の言った事を吟味しているようだ。


「オレは世界中を旅してみたい。魔王様、それでもいいか」

「ああ、いいさ。自由に生きる事が一番だからな」

「魔王様。新しい里は何処にしましょう。水が綺麗で、自然豊かな場所がいいです」

「そうね。いい場所を探さないといけないわね」


 みんな、賛成してくれたようだ。これからは俺達の為の、俺達だけの場所を作っていけばいい。




「この私めに、王になれと……」


 前に決めたように、獣人に国を明け渡す準備を進めていく。まずは王となる者を決める。


「お前の事は、メディカントより推薦を受けた。獣人達をよくまとめてくれる人物だとな」

「将軍様より、そのような事を言っていただけるとは」


 師団長の中から、ピキュリアやリカールスにも評判のいい男を選んだ。ライオン族の軍事にも外交にも明るい者だ。


「王とは言え、側近には我の眷属二人をつける。お前からも副官を二名選び、その者達と合議制で物事を決めよ。よいな」

「はっ、魔王様。その任、ありがたく拝命いたします」


 俺を含めメディカント、リカールス、ピキュリアは王族に連なる公爵となる。国に残り領主を続ける眷属は侯爵の位を与え、この王都で官僚として働く者にも伯爵の爵位を授ける。

 国家として重要案件は、公爵である俺達四人と協議する事になっているから、変な方向に進む事もあるまい。


 里に移住する者は男爵位となり、貴族として国から年金代わりの給金をもらい不自由なく暮らしていけるようにする。貴族と言っても一代限りで、給金も財政を圧迫するものでもない。これならば国が混乱することなく権力移譲していけるだろう。

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