出会い(1)

 集中し聞き耳を立てていると、様々な音が聞こえてくる。

 風の音、それによって木々の葉が擦れあうカサカサという音、

 そして何かの息遣い。

 

 気が付いた瞬間にハッとした。

 人間ではない何かの息遣いが聞こえる。

 それが物語に出てくるような人型の怪物やモンスターなのかはわからないが集中すると足音まで聞こえてくる。


 「…こっちに向かってきてる?」


 どのくらいの距離があるかはわからないが少し集中したくらいで聞こえる。

すぐ近くまで来ているのではないかと音のした方に目を凝らすが姿が見えない。

それどころか気配さえ感じない。


 どういう事だろう?

 辺りをもう一度見まわすがどちらを向いても一面茶色と緑で大木や生い茂る緑の葉しか見えない。


 少し怖くなったが、好奇心に負け音を感じた方へ歩いてみることにした。


 そうして歩いてみると、様々なことに気が付く。

 まず聴力だ。小さな音や遠くの音も聞こえる上にその音に集中すれば聞き分けもしっかりとできる。

 しかしいまいち距離がつかめないこと。

 そして視力だ。

 集中すれば遠くまで見渡すことができて些細なモノでもしっかりと認識できる。

 地面に生えるキノコやはるか高い場所に生る木の実や果物もしっかりと確認することができた。

 

 食料がいつ尽きるかわからないので念のため採取する。

 毒性などを調べなければ口に入れ食べることはできないがストレージへと保存した。木の実や果物も取ろうと考えたが大木の低い位置には手や足をかけられるような枝などがなくあきらめた。


 その大木を見てあることを考える。

 人間が10人ほどで囲めるかどうかと言う幹の太さの大木だ。

 かなりの年月を経てここまで成長した可能性が高い。

 だが外敵から実や幹を守るためここまで大きく強固に進化をしているのなら話は別だ。つまり俺が知っているような木々をなぎ倒すほどの大型危険生物や、実や樹皮を食い荒らし種を運んでくれないような生き物がいてこうなった可能性を考えてぞっとした。

 視力や聴力がいくら強化されていたところでそんな大きな生き物に襲われて一飲みにされたのではどうすることもできない。


 ポケットの中でちらちらと動き回るリジーを確認すると余計に怖くなる。


 それほどに俺の常識から外れる世界であることは今いる場所を考えて認識していた。

 『ぶもぉおおおお』


 けたたましい何かの鳴き声とどたどたと走る音が聞こえてくる。

 考え事をし警戒を怠っていたため迫りくる何かにすぐに反応することができない。


 声のした方をみて集中する。

 茶色い大きな塊がこちらへ向かって走ってきている。

 どこか隠れられる場所がないかと探すが大木ばかりで身を隠せるような場所はない。


 野生生物とかくれんぼをしたところで勝てる自信などない。

 そう簡単にいくわけもないが戦うしかないと覚悟をきめてポケットからスマートフォンを取り出す。


 その時には目の前にそれは来ていた。


 それまでどれだけ走ってきたのかはわからないが鼻息荒く明らかにこちらに敵意をむき出しにして睨み付けてくるそれは自分の知る限りただのイノシシでしかない。


 大きさも昔に行った遠足の動物園や牧場で見た豚より少し大きいくらいで本物のイノシシを目にするのは初めてだが普通の大きさだ。


 それがもしイノシシであるならば今見ているものより何倍も大きくて有名なアニメ映画に出てくるような大きなものを想像していたが拍子抜けして気が抜けてしまう。

 だが、普通のイノシシでも大きなけがを負ったなどと言う話も聞いたことはある。

 今現在所持ているような包丁やナイフなんかでは勝てるはずがない。


 逃げるのが得策だろう。


 うまく注意をひいて逃げられないかと考えてスマートフォンを操作するが今有効になりそうなものはない。


 イノシシとはしばらくお見合い状態が続いている。


 「どうする?」


 先に動いたのはイノシシだった。

 俺の小さな声やスマートフォンをいじる動作に警戒したのか、それともこんな動物など自らの脅威にはならないと判断したのかこちらへ向かって突進してくる。

 想像してたよりはずっと小さいとはいえあの大きさの動物に体当たりをされれば大けがじゃ済まないかもしれない。

 思ったよりスピードは出ていない上に動きが直線的で読みやすい。

 よけるのは難しくないだろうと難しくないだろうと左の飛びのこうとした瞬間に変に力が入り盛大に転んでしまう。


 イノシシの攻撃をよけることはできたが尻もちをついてしまっているで状態で止まったイノシシににらまれ万事休すかと思い目をギュッと閉じてしまう。


 《ターンッ》


 突然大きな大きな音が聞こえゆっくりと目を開けた瞬間ドサッ思ったよりも小さな音を立ててイノシシは倒れていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る