白鳥(4)

 それにしてもまさか俺と一緒の場所に転生するとはリーリシアも中々にひどい。


 一人でもいっぱいいっぱいなのに子猫の面倒を見切れるかも不安だ。


 右も左もわからない世界ではその子猫の存在が不思議と心強く感じられる。


 「とりあえずこいつの名前をつけなきゃならないな」


 さーっとその真っ白な姿にいい名前はないかと想像すると白鳥を思い出す。


 「そうだ、お前の名前は今日からリジーだ。」


 なかなか他人には理解されないかもしれないが俺の中で白というと白鳥、白鳥と言えばとエリザベスという人にはなかなかない感性があった。


 抱くというより手で握ったままの猫の名前を呼ぶと、


 「なーなー」


 とリジーは名前を気に入ったのか小さく鳴いてくれる。


 「さてと…」


 この場所がどんな場所でどこかはわからないがこのままでいるわけにはいかないと、布団から起き上がる。


 腰に手を当てさあどうするものかととりあえずスマホのストレージというアプリを確認する。


 アプリを軽く触ると≪IN≫≪OUT≫二つのボタンが表示されていたかなり簡素なつくりだ。


 とりあえず≪OUT≫の方に触れてみる。

 おそらくここから物を取り出すのだろう。


 思った通り表示された画面には自分の家に会ったであろうものがサムネイル付きで並べられている。

 左側にサムネイル、右側に文字だがたまに《水玉のかわいいシャツ(青)》などと書かれていて面白い。

 俺が持っていたドット柄のシャツの事だろう。

 だが今はそのシャツは必要ない。

 そこにあるはずのジージャンとスニーカーを探した。

 《厚手の上着(青)》《黒いスニーカー》がそれだろうとジージャンと思しき方を選択をすると右側にチェックが入る。


 いっぺんに取り出せるのかもしれないと思いスニーカーも選択するとジージャンと同様にチェックが入る。


 そのまま一番下までスライドすると決定という表示があったのでそこを押すと取り出しますか?《はい》《いいえ》と表示されている。


 はいを押すと突然目の前からバサバサと服と靴が降ってくる。

 

 その光景にここは俺が今まで生きてきた現実とは違うと強く認識した。


 とりあえず宙に突然湧いて出た地面に転がる靴を足に引っ掛けてジージャンを着るとリジーをジージャンの大きめのポケットに詰めこんだ。

 手と顔を出しニャーニャーと鳴いているが嫌がっている感じはない。


 次に開いたままのアプリの画面を《IN》《OUT》の画面まで戻すと今度は《IN》の方を押してみる。

 するとカメラが起動する。

 これはどういった物だろうととりあえずその辺に向けるが何の変化もない。

 足元を向けた瞬間に一瞬カーソルが出たような気がした。

 

 そのまま足元にあった布団に向けると画面には白いカーソルが出て布団を囲んでいる。

 シャッターボタンも表示されている。

 とりあえず画面に出たをれを押すと、普通のカメラと同じように写真が撮れた。

 おそらくこれがさっき確認したサムネイルにそのままなるのだろう。


 画面には収納しますか?と表示されていたので指示に従い、《はい》を選ぶと布団は一瞬にして消えてしまった。


 念のため《OUT》の方を確認すると布団の文字と先ほど撮影した布団がサムネイルとして表示されていた。


 かなり粗雑なつくりで怪しいと思ったので検証をしようと思ったがとりあえず日が暮れる前にここから出るべきだと思い。


 辺りを見渡すが立ち上がって見回したところで先ほどと景色は変わらない。


 せめて川などの水場があればと、耳を澄ませたがやたらといろんな音が聞こえてくる。静寂に包まれている森でも聞こうと思えばいろんな音が聞こえるものだと思うが水の音を聞き分けられなかった。

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