ハジメの世界

白鳥(1)

 ≪ピピピピ≫


 いつも通りのスマホのアラームで目覚める。


 枕元に置いてあるソレを起き抜けで重たくなった瞼は閉じたままに音を頼りに探す。手を動かすあちらこちらに動かすとすぐに布団ではない感触にあたる。

 それを手に取ると目を開けて≪アラーム停止≫の表示に指を触れるソレをそこらにぽろんと滑り落としてまた目を閉じた。


 「もう仕事もいかないでいいし、もう少しだけ…」


 そこまで、言うと胸のあたりがスーッと軽くなり心臓が止まりそうになる。

 階段やなんかであるはずの段がそこになかった感じる一瞬の恐怖のようなアレだ。


 ガバッと上半身を起こす。

 

 「はぁはぁ…」


 息を切らしてしまう。一瞬の出来事だったがじんわりと背中に汗がにじんでいるのを感じる。


 落ち着きあたりを見回す。目の前にはそれは大きな巨木が立ち並び生い茂る木々の間から木漏れ日が差している。

 あたりは生い茂る木々の葉で薄暗く時間もわからないが日の出ているので日中であることは間違いない。

 見たこともあるような景色ではあるが今まで見てきたどんな樹木よりも大きな巨木が今までいた世界ではないと証明してくれる。

 

 どうやら異世界での蘇生は成功したらしい。

 右も左もわからない状態ではあるがその光景に胸が躍りわくわくする。


 「そうだ…スマホ!」


 思わず口にだすと手から滑り落としたスマートフォンを探す。

 それは枕元にいつもの朝と同じように転がっていた。

 

 とりあえず手に取ってみる。思えばあの白い空間でもスマホのアラームで起こされた。あの時は気にも留めなかったがそのまま異世界にもって来られたという事かリーリシアからのサービスだとでもいうのか?しかし異世界でスマートフォンをもらったところで何の役にもたたないだろう。売ってお金にするくらいしか出番はないのではないかと思う。


 もしもアパートから追い出され生活ができなくなった時のためにと冗談半分でサバイバル知識や食べられる植物などがわかるようにと図鑑などの無料アプリをいくつか入れていたが植物などが共通していない可能性もある。

 何より充電がいつまでもつかもわからない。


 手に取ったスマートフォンの上部にある電源ボタンを軽く押す。


 7月25日午前6時27分


 あの場所には結構な時間いたと思うが時間が進まなかったのか最後の記憶からあまり時間は経っていない。

 恐る恐る顔認証などのついていない旧式のスマートフォンを指紋認証でロック解除しようとするがうまく反応しない。

 仕方なく6桁の数字を入力しロックを解除する。


 画面上部のステータスバーを確認するが、やはり電波は入っていない。充電は満タンなのでライト代わりに使ったり無料アプリを使ったりはしばらくできるだろう。


 この状況を乗り切るための問題はいくつもあるだろう。

 まず衣服と靴だ。昨日の夜出たままの服装ではあるが半袖にチノパン、靴は履いていたはずだがあの空間にたどり着いた時には履いていなかった。


 今の時間が朝か昼かはわからなかったが日があまり差していないので少し肌寒い。右も左もわからないこの場所ではこの肌寒さでさえ命取りになるかもしれない。


 布団に突っ込んだままの下半身は暖かかいがやはり不安は感じる。

 

 手に持った小さなモニタに写し出されているそれをぼーっと見ているとメールアプリに通知マークが1件ついてる。

 あまり通知をつけておきたくない俺はメールなどはできる限りすぐに確認し返事をしてしまう。昨晩、給与明細を見ていたタイミングでは通知はなかったはずだ。


 何となしにメールアプリを開くと新着メールの差出人に少し驚いた。


 そこには確かに≪リーリシア(女神)≫との表示がある。


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