希望(4)
「俺が望むのは、税金のない世界だ」
自分でもかなり馬鹿げた素っ頓狂なことを言っていると思うがこれ以外に望むものはない。
毎月給料から引かれるうん万円のお金、結局死んだらもらえない年金に体が丈夫で使うこともなかった健康保険、住んでるだけでとられる住民税。払わなければ働くこともできない所得税、物を買うだけでかかる消費税、それらだけでもなければも奨学金も返せたかもしれない。そもそも大学に行くのに奨学金を借りる必要は、なかったかもしれないと毎月変わらない給与明細の数字を見ながら思っていた。
それなら母さんも死なずに済んだかもしれない。
あんなに働かないでよかったかもしれないし、自分の時間がもっとあって贅沢じゃなくてもいろんなことがもっとできたはずだ。
あのろくでもない父親ももっと…
「ですがそれでは…」
リーリシアは少し悲しそうな難しい表顔で何かを口に出そうとすると言葉に詰まる。何を考えているかは察しがつかない。
「能力というか、望んだもの?、、、が、少なければ世界に出る影響が少ないはずだろ?俺の存在が世界のバランスを崩すほどのイレギュラーだったのなら呼ばれてもいないのに別の世界に行く俺はそもそもイレギュラーだろ?だったら与える能力なんて少ない方がいいに決まってるし税金さえなければ俺は自分で努力して、自分の力だけで生き抜く。特殊能力なんかいらない。それだけでいい。」
よくよく考えればおかしなことを願っているのはわかっている。俺に備える能力を与えてくれるという申し出に反して蘇生先を選ばせろといったような願いだ。
だが、ダメでもともとだ。特殊能力なんかなくてもあんな毎日に比べればずっと楽しいはずだ。
少しわがままかと思うがここにきたいきさつを聞く限りでは少しぐらいのわがままは許されてしかるべきだと自信満々にリーリシアに伝える。
こぶしを握り締め強い決意で睨み付けるようにリーリシアを見つめる。
「…仕方がありませんね。」
はぁっとため息をついたリーリシアは折れてくれた。どうやら蘇生先を選ぶことは可能らしい。
「では、あちらに横になり目を瞑ってください。」
リーリシアが指をさしその先をみると気づけば消えていたはずの俺の布団がある。万年床でよれよれのペタペタで平らで硬くなってしまったせんべい布団だが綺麗に敷かれている。
さきほど布団から起きた時に掛け布団はめくれていたと思うがそれも整った状態だった。
それに気が付けばなくなっていたはずだがこれも女神パワーというやつなのかもしれない。
それは間違いなく俺の布団でここにある時点でおかしいのだがこの時点で無茶な願いを聞き入れてもらったのがうれしかったためかいろいろなことを考えるのをやめた。
「えと、ここに普通にねればいいのか?」
布団まで近づくとリーリシアと同じようにそれを指さす。
「ええ、そこに横になって寝てください。目覚めた時には、そこはもうあなたの想像通りの世界であるはずです。」
妙に真剣な表情で言ってくる女神の言葉は少しおかしくはあったがその言葉に従い横になると瞳を閉じる。
目の前が暗くなり、ここに来るまでの出来事が走馬灯のように頭の中を駆け巡る。
〈ガバッ〉
あることを思い出し、音を立てるかのような勢いで上半身を起こし目を開ける。
「きゅっ急にどうしたの?」
驚いたのかいままでと違った口調のリーリシアが目を丸くしている。
「もう一個だけ頼みがあるんだけどいいかな?」
片目だけ閉じて手を合わせるおどけた態度で、もう一つの願いをリーリシアに伝えた。
「…わかりました。いいでしょう。私もその意見には賛成です。」
どうやら俺の願いというのはそう大きなものでもなかったらしい。
リーリシアは思っていたよりもずっと心よく受け入れてくれた。
「では、目を瞑ってください。いいですか?ハジメ、、、あなたの願う力が大事です。どうか、あきらめないでください。」
促されるままもう一度目を閉じるとあの時と同じように強烈な睡魔に襲われる。
寝つきはいい方だが強烈だ。脳みそを動かしすぎたからかもしれない。
リーリシアは、ほかにも何かを言っている気はがするが、はっきりと聞き取れず、死んでいるのに脳みそとか眠気とかあるんだろうか?最後そんなことを考えながら眠りについた。
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