希望(1)

 確かに合点のいく説明だ。

 通常、人にはそれぞれ決まった運のようなステータスが存在するが極端にいい悪いという事はなく変動することもない、だが俺の場合は途中でその値が正から負に傾いた存在だという事らし。それも、女神であるリーリシアでさえ観測したことのない特殊な存在で認識できていなかった。


 そしてそれとは別に誕生した時より極端に正や負に傾いているものも存在しそれらの存在は女神に観測されているらしい。

 その中で極端に負に傾いた少年が俺のことを殺す。

 観測中だった少年が俺を殺したことにより特異だった俺の存在を女神は認識し死んだ俺の魂とやらをここに招き入れたということだ。


 「それで、リリ。おれがここへ来た流れはわかったがなぜ輪廻の環とやらに戻さずここに連れてこられたんだ?」


 それが一番の話だ。小説なんかフィクションの流れではここから新しい体とチート能力を与えられ異世界に転生し無双していくのだろうが俺はどうなるのだろう?


 よく見る小説の主人公はトラックにはねられたり過労死をしたりと不運の死を迎えていたり、何かのゲームをやりこんでいたわけでもない。


 不運の死ではあったかもしれないが、もし税金を納めて人の借金を払ってなんて人生の可能性もあるかと思うと転生するのもあまり気のりしない。

 母さんが亡くなったときより生きてきた目的が奨学金を返す。ただそれしかなかった俺には生に対する執着が持てなくなっていた。


 「あなたをここへ連れてきた理由ですか…実はハジメのことも輪廻の環に戻そうと試みています。これは状況から考えた想像の域を出ないお話なのですがハジメは何らかの理由で世界の理から外れ、理から外れながらも世界に存在し続けたのだと思います。それが原因であなたの正負が変わってしまったのか正負が変わってしまったことにより起こってしまったのかは検討もつききません。それほどハジメの存在は稀有なモノと考えられます。あなたの魂はそのまま迷わせておけば消滅してしまいそうでした。魂の消滅にあたってどんなことが起きるのか想像もできません。何より寿命も全うしないまま私も把握できない事象により消えてしまう。それは許されないことです。」


 結果わからないことだらけではあったが女神ですらわからないことを嘆いていても仕方がない。それに、ここに連れてこられた理由はわかった。

 通常では起こりえないことが起こっていたためさらに通常では起こりえない事が起きている。

 気が付くけばだんだんと何を聞いても驚けなくなり順応するようになってきている。

 なるべくしてここに連れられてきたような気がする。

しかしこの後俺はどうなるのだろう?


 「それでこの後、俺はどうなるんだ?ずっとこのままここにいるというわけにもいかないんだろう?」


 こんな何もない場所で一人…リーリシアもいるがいつまでいるかわからない。こんな場所にずっといれば気が狂ってしまいそうだと思う。


 「ハジメにあた得られる選択肢は2つです。まずひとつが別の世界に転移…転生すること、もう一つは、完全なる消滅です。」


 消滅するのも一つの選択肢としてはいいのかもしれない。

 奨学金を返す、ただそれだけで生きていたのだ。生きる理由も目的も失ってしまった自分に転生といういう選択肢を与えられてもやはり魅力的に感じられない。



 「ここに残るという選択もできないわけではありませんよ?」


 暗いことを考えていると、三度いたずらっぽい笑みを浮かべた女神は先ほど考えていたことを見透かしたのか、こちらをからかうように言ってくる。

 とても人間らしくあるが、シリアスな場面でコミカルにブラックジョークを差し込むあたり人間だというならかなり変わっている。


 「…正直、消滅を選んでほしくはありません。ハジメが消滅を選んだことによりいくつもの世界にどんな影響がでるかわかりません。ひどければ世界そのものの消失も考えられます。それでもあなたがそう選ぶなら私には止めることができません。ですが私はハジメに消えてほしいと思いません。それは悲しくとてもつらいことだと思うのです。」


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