絶望(4)

 聞いた瞬間に体が沸騰しそうなほど熱くなり目の前が真っ白になる。怒りで体が震えだした。

 強く握ったこぶしに力が入り、罵詈雑言を叫びだし目の前にいる女神を責め立てたい気持ちでいっぱいになり、歯を食いしばり、リーリシアの方を睨み付けようとうつむいていた顔をあげる。

 そこで見たリーリシアの表情は先ほどまでの愛らしい笑顔でもなければ先ほどのもうしわけなさそうな顔でもなく凛としてこちらをまっすぐ見つめてる。

 一瞬憐みの表情にも見えた。


 今までの不運も不幸も誰かのせいではない。そうではないと何事もポジティブに変換し、ただ人より少しついてないだけだといい聞かせてきた。

 それがらすべて世界を管理している女神のせいだと聞こえた。


 父が酒浸りになったのも母さんが過労死したのもすべてが何かのせいにできてしまうと体が震えだしてしまうほどの怒りに襲われた。

 ろくでもない蒸発した父親も思い返せば幼いころはそんなことはなかったと思う、母さんはそのせいで過労死したのでそれもなかっただろう。俺はというとブラック企業の社畜でろくでもない人生になることもなかった。もしもそんなことが起きなければ、楽しい大学生活を送り、しっかりとした企業に就職し休日は冷房の効いた部屋で購入した本を読む。そんな生活もあったのかもしれないと思うと怒りが吹き出しそうになった。


 あんな父親でも身内だからと父のせいにもせず働いていた母を見ていた俺にも父のせいだと何かのせいにできず踏ん張ってきたというのだ。急に見つかった怒りの矛先におかしくなりそうだったがリーリシアの表情を見ると毒気が抜かれ怒りはどこかへ消えてしまった。


 あのままでは母を追うように過労死していたかもしれない。

 何かを助けようとしてして死んだ方がまだまし。

 結局何も救えず無駄死にだったかもしれないがそれでも、俺はもう死んでいしまっている。

 それに目の前にいる女神にもどうにもできないことだと聞いたばかりだ。

 だとするなら怒ることに意味を見いだせない。


 「…なぜそうなったんだ?」

 

 無理矢理に落ち着かせ言葉の続きを待つ。


 「申し訳ないのですが、わからないのです。先ほどもお伝えしましたが、わたしもすべてを管理し観察、把握することはできないのです。」


 人知を超えた存在にもどうにもできないのではただの人である俺にはどうすることもできなかったのかもしれない。


 「そして二つ目のイレギュラーがおきます。ハジメの命を奪った者との接触です。あの者は極端に負に傾いた存在です。生まれもよく家庭は裕福、で頭も良く容姿もあなた方の世界で悪いということもなくできすぎた存在でありながら感情がいくつも欠落し酷く暴力的な存在となっていました。」


 確かに話をできたというほどでもないがあの少年は普通ではなかった。


 「でも、もしかしたら親の愛情を満足に受けられなかったとかそういうことじゃないのか?」 


 富裕層の家庭の子が何かトラブルを引き起こし犯罪を行うという話は少なからずありそういったものはニュースなどメディアにも取り上げられやすく何度か見聞きしたことがある。そういったもの、の多くはフィクションでも取り上げられ親からの愛情不足でそうなってしまったということが多い。


 「いえ、そうではないのです。両親の育て方や愛情のかけ方は私の見知った限りではありませんでした。」


 俺のことは把握できていなかったようだがあの少年のことは把握できていたようだがそれならばなぜあんなふうになってしまったのだろう。


「猫も俺も害‘虫’だったからなぁ」


 一番大きく思ったことはそこだった。

 行動から狂気じみていたが自分と同じ人間でさえも彼にとっては虫でしかないのだろう。

 人よりもできていれば余計に自分より下の存在がそう見えてしまうのかもしれない。


「その通りです。あの者を観測していたのですが…観察のみで干渉したりも中々できないのでなにかできることも少ないのですが、しかしあの者を観測していたことによって、あなたの存在にも気が付くことができました。」


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