絶望(2)

 うつむいて女神の言葉を整理していると女神が俺の顔を覗き込むように下から見上げている。

 音もなく目の前に現れたそれに大きな声をあげてしまう。


 「急にやめてくださいよ。心臓止まるかとおもいました」


 もう死んでいるはずだからドキドキするわけでもないのにそんなことを口にしてしまう。

 ただ確かに生きている時と同じように胸の鼓動が早くなるのを感じる。


「何かを考えているようでしたので言葉を待っていたのですがなかなか口を開かないのでついいたずらしてしまいました」


 先ほどまでとは変わりいたずらっぽい笑みを浮かべて女神はふふと無邪気に笑う。

 よくわからないが俺の考えを読み取れるとき、読み取れないときがあるらしい。

 考えがまとまらないままであったが口に出して質問を投げかけてみる。


 「えっと、なぜ異世界転移や異世界召喚という言葉を俺が知ってると思ったんですか?」

 もっと他に聞くことがあるかと思うが何度か出てきている話題だけに興味深く気になっていたことを口に出す。


 「最近ここに来る者はなぜかこの場所について知っている方も多く驚かされてばかりでした。中には興奮して私の話をよく聞かない方もいたくらいです。気になり調べてみたのですが、異世界転移を拒絶しここから戻ったものが少なからずいますし転移先から戻った者もいます。その中の数名が書物として残したりしているのです。ほかにも今よりも古い時代には口伝で広まった例もあります。拒絶した者は記憶は完全に消し去っているはずですがここに来る魂はなかなかに癖の強い特殊な力をお持ちの方が多く、記憶が残っていたり、何かの拍子に思い出したり夢で見たりと形は様々ですが何らかの影響を与えそういった創作物が出始めたようです。」


 女神は口元に指を当て考えるようなポーズを取りながら語る。

 聞かされた内容には驚いたが確かに昔話などの民話、神話など、神隠しであったり神に連れ去られ戻るという話がある。中には神の子を生んだ話や浦島太郎のようなタイムスリップした話もここに連れてこられ別の異世界転移し元の世界に戻ったという話なのかもしれないと考えるとそういったことがあってもおかしくない。


 そこまで考えると素朴な疑問が浮かんでくる俺が知る限りのフィクションのお話では異世界召喚は強制的なものばかりで戻れない。もしくは戻るために異世界を冒険するといったものばかりだ。

 中には戻れたというような本もあったが拒否できるような物語はあまり目にしたことがなかった。

 異世界召喚され拒否して戻って終わりでは物語にはならないだろうがそれでも気になる。


 「異世界転移や召喚というものには強制力はないのでしょうか?」



 「異世界召喚の際に選ばれる者は元の世界に未練のない者が多く還りたいと言う者も少ないのですが、召喚された者の強さ、召喚した者の力の強さによって拒否できる場合、拒否できない場合とあります。巻き込まれて召喚された者は戻りたいと願うことが多いですが選ばれざる彼らは召喚の力には逆らえないようです。そんな中戻りたいと願う者には力を貸し呼び出された場所へそのまま還す手伝いをします。」


 ざっくりとした説明だが女神でもどうにかできることできないことがあるということだろう。

 単純でいて複雑な説明だがそんな印象を受ける。


 「つまり女神、、、さまでも干渉できない力があるということですか?俺にとってあなたが超常的な存在であるのと同じようにあなたにとっての超常的な力もあるということでしょうか?」


 人間の上位の存在がこの女神であるように女神にも上位の存在がいるのかもしれない。ふとそんなことを思い浮かべる。

 記憶を消して戻すことができるような存在である女神でもその人間次第で戻せないのであればそうでなければ誰でも元の場所に戻すことができるはずだし、そうでなければ転移や転生などの物語が世に出回るはずがない。


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