絶望(1)

「説明させてください。まずこの場所についてです」


 そうだ、まずこの場所についてついて知りたい。

 先ほど女神はこの場所に来る‘方々’と言っていたが俺以外に人はいない。それどころか建物などもひとつない。

 俺のような死んだ者が来るだけの場所でもないと言っていたが一体どういうことだろう?

 つまり、生きた人間も死んだ人間も来る場所ということだろうがどうにも理解に苦しむ、俺は死んだ。そしてここにいる。

 この二つの事実からでは死後の世界ということではないらしいということ以外には何もわからない。


 「ここは、世界の理から外れたものものが一時、滞在する場所です。」


 生死問わずその理から外れたものが来るのだろうか?


 

 「考えの通りで間違いありません」


 女神はうなずくと言葉をつづけた。


 「俺は殺されたことによってその理から外れたということですか?」


 それ以外に納得のいく答えはないが落としどころはそんなところだろうと思う。確かに殺されるということは中々あることではないしそれならわからないでもない。


 「それが、そうではないから複雑なのです。ここへ来る者は世界の理から外れていることが第一条件ですが基本的には命あるものが別の場所へと行くためのいわば通り道でしかないのです。本来、命を落とした生命はあなたの世界でいう輪廻の環を廻り新しい生命として生まれ変わります。殺されることにより理から外れることももちろんありますが、戦争もある世ではここがあふれかえってしまいます。」


 確かに戦争のことを考えれば殺されたことが理由ではないのかもしれないが女神の言葉ではいまいち理解ができない。


1、ここは死後の世界ではない

2、死んだ者だけでなく生きた者もここへは来る

3、世界の理から外れたものがここへ来る

4、俺は殺されたためにその理から外れたわけではない。

5、基本的には生きた人間が理からここに来る


 俺は理とやらからは外れていない?だとするのならば死んでいる上に理から外れていない俺がここにいるのは矛盾している。

 本当は死んでいないということでもないだろう。


 「くどくなってしまい申し訳ありません。」


 考えを読んだのか申し訳なさそうに女神は深々と頭を下げうつむく。


 多少気にはなるが、俺はもう死んでいるのだし、明日の仕事もなければ早出や残業、支払いさえない。もう働かないでいいのだ。

 死んでいるのに楽観的だと思うが時間だけはある。

 いつまでもずっとここにいるわけではないだろうけど延々と眠気と闘い続けながら働くよりもまだましという結論に至ってしまう。


 「気にしないでいいです。回りくどくても、順を追って説明してもらえるほうが理解できると思うし助かります」


 女神は顔をあげ小さくうなずくと口を開く。


 「この場所のは言い方を変えれば異世界転移や、異世界召喚という言葉を聞いたことがあるかと思いますがそれらにより他世界からの干渉を受けたものがこちらに一時滞在する次元のはざまのような場所とも言えます」


 異世界…図書館で一時読み漁っていた小説、ライトノベルでよく取り上げられていた題材だ。

 ここはあれらに出てくるような転移前にスキルをもらったりするような場所だとでもいうのか?

 人の想像できるような場所が実際にあるというのも都合が良すぎて納得がいかない。

 それに今しているのは生きている人間の転移についてであって転生ではない。

死んだと、はっきり言われている俺には当てはまらないことだろう。


「って、うわっ」


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