第44話:プレゼントは……・

side.不木崎ふきざき拓人たくと

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 城の部屋は思ったよりもシンプルだった。白を基調とした部屋で、女の子らしい色合いだ。それにすごくいい匂いがする。心臓に悪いからあまり長居はしたくない。

 白い机の上には、水国千冬の小説の第3巻が置かれていて、美術館の時に送った木製の栞が顔を出している。どうやら本当に使ってくれてるらしい。


「あ、あんまり見ないで」


 きょろきょろしていると、城に怒られる。恥ずかしいらしい。

 まぁ、確かに人の部屋をじろじろ見るのはマナー違反である。


「ごめんごめん。…それで、ここじゃないと渡せないプレゼントって何だ?めっちゃ楽しみ」


 本題に入る。

 プレゼントなんて、前世でも友達にもらったことは数えるほどしかない。ちょっと気持ちが早まってしまっている。自然と口元が緩んでしまう。


 急かすと、城はもじもじとして、持っていたスマホを操作する。

 時折、こちらを伺うように見て、何か躊躇っているようだった。


 スマホ……あ、スタバのギフト券とか?ラインで送るヤツの。いいじゃない。俺この世界のスタバ行ったことないから楽しみなんだが。


「け、結構勇気出して渡すから……絶対に、笑ったり、茶化したり、気持ち悪がったり、しないでね?……絶対だよ?」


 まだ不安がった様子で、城が念押ししてくる。


「いやいや、プレゼントもらう側の俺が茶化したりしないって。普通に嬉しいんだから」


 本音だ。どんなプレゼントでも喜べる自信がある。

 何せ、こんな美少女からのプレゼントなど、前世でもらった記憶がないのだから。

 どんなプレゼントでも枕詞に『美少女の』がつくんだろ?最高だろ。


「う、うん………わかった」


 真っ赤な顔で頷いた城は、またスマホを操作する。

 高校生らしくて可愛いじゃないの。


 ピロン、とスマホが鳴る。


 お、どれどれ、スタバのギフト券とか……あ、電子の図書カードとか……?

 何にしても嬉しいことにはかわ……り……な……


 え?


 画面には『アルバムが追加されました』のメッセージ。

 そして、それを開くと出てきたのは、


 城の写真だった。


 どれもちょっとだけエッチな感じに撮られている。

 着エロというやつだ。全て自撮りのようで、制服のスカートの端を引っ張ってギリギリまで持ち上げている画像や、パーカーをこれまた持ち上げて、もう下着が見えちゃってるよ!という写真まである。そんなレパートリー豊富な写真が数にして百枚を超える枚数で送られてきた。

 すべての写真に言えることだが、表情がドチャクソエロい。恥ずかしいの我慢して頑張ってる感が滲み出ている。


 え?


 言葉が出ない。嬉しいか嬉しくないかで言ったら、最上級に嬉しい。最高すぎて言葉が出ないってのもある。

 でもまさか、美少女の着エロスナップが送られてくるとは思わなかった。高校生らしさの欠片もない。


 あれ…?この世界では女の子がエロ画像を男の子に送るのが当たり前だったりする?……しそうなところが少し怖い。


「な、なんか……言ってよぉ」


 城が羞恥に耐え兼ね、感想を催促する。若干涙声なのは気のせいだろうか。


「え、あ、悪い。ちょっと予想外過ぎて脳の処理が追い付かんかった」

「ご、ごめんね。やっぱり迷惑だった?」

「……いや、春だから正直に言うけど、想像以上のプレゼントで最高に嬉しい」

「ん……」


 城が押し黙り、俯いた。


 にしても、なぜこんなプレゼントを…?

 お金がなさ過ぎて体を張ったとか…?本棚には大量の本があるところから、かなり本にお金使ってそうだし…。

 いやでも家めちゃくちゃ豪邸だし……。何なの…?


「えっと、その、何でエッチな写真くれたの?いや、本当に嬉しいんだけど」

「……精役」


 ぽつり、と城が呟く。

 精役?この間話したやつか。


「ふっきーが精役始めるって聞いたから……その、エッチな写真……必要かと思って……」

「……!」


 感動した。彼女の心遣いに。

 この世界、前世の男が喜ぶようなコンテンツは全くと言っていいほどない。

 今だって、高校生の迸るガッツで想像力を駆使しどうにかしているくらいだ。


 この世界の男の子が露出の激しい服を好まないことから、メディアに流れる女性の大半は露出を嫌う。エッチなビデオも同じで、エッチなビデオのくせに服はだぼだぼのを着ている場合が多い。


 そう、俺はオカズに対して、危機的状況を迎えていたのだ。


「キモイって思ってない…?」

「そんな訳ないだろ、めっちゃ嬉しい」

「そ、そう…なんだ…」


 口元の緩みを抑える様子もなく、体をくねくねと動かして照れている。


 こんなこと……前世ではあり得なかっただろう。色々とこの世界の男の子は大変だったけど、こういう役得があるなら転生してきたかいがあったもんだ。

 家宝にしよう。


 すると、城は何か葛藤しているような様子で、ニヤついたり、泣きそうな顔をしたりしながら、タンクトップの端を両手で掴み、ぎゅーと下へ引っ張る。

 それ、おっぱい張ってすごくエッチだから止めなさい。


 今までにないくらい真っ赤な顔で、俺の方を一切見ない。

 よく見ると、脚も小刻みに震えている。


「えっと……プレゼントはそれだけじゃなくて…そ、その、自撮りは恥ずかしくて、あんまり…え、エッチに撮れなかったから…」


 城の声は震えていた。

 言いながら、掴んでいるタンクトップの裾を、ゆっくり持ち上げる。

 おへそが丸見えになり、真っ白な肌と綺麗なくびれが現れる。下乳が見えるか見えないかの当たりで停止した。



「……今からふっきーの好きなように撮って?」









 一瞬、何を言われたか理解できなかった。


 ただ、城の涙目でこちらを見る顔はあまりにも可愛く、服をたくし上げている手や足が震えている様子がどうしようもなく情欲をかき立てる。

 時折、城の綺麗なお腹がビクッと凹む様に、俺の手足は痺れてしまう。


 無意識レベルで股間に血液が送りこまれ、心臓は破裂しそうだ。

 心臓の鼓動が頭の中で大きく反響して、ぼうっとする。


 いつもの天真爛漫な雰囲気はなく、俺の股間にダイレクトアタックを仕掛けてくるサキュバスのようだった。


 距離感もあるせいで、ただただムラムラする。

 なのにも関わらず、このシチュエーションというだけであまりのエロさに脳が処理しきれず、膝から崩れ落ち気絶しそうになっている。


 嬉しいんだが、これはマズイ。


 これは、我慢できなくなる。


 エロのリミッターが外れて、恐怖心を飲み込んでしまいそうだ。……荒療治すぎんか。

 それとこいつ…そんなつもりはないんだろうけど、ナチュラルに俺を殺しにきてないか…?


「い、いや、春。そこまでしなくていい。写真だけで十分嬉しい」


 必死に言葉を絞り出してそう言うと、城はすぐに泣きそうな表情になり、


「う、うそ!本当は嬉しくないんでしょ!勇気出したのに!」

「嬉しいって!家宝にするくらいには嬉しい!」

「うそ!」

「マジだって!」

「キモイって思ってる!」

「わかんねーやつだな!思ってない!」


 お互いヒートアップして近づいていく。

 その拍子に、あまりのエロさで足にキていたせいか、俺の足がもつれる。


 あ、やべ、転ぶ。


「ふっきー危ない!」


 ドスン、と大きな音がする。

 だが、衝撃はなく、何か熱いクッションのようなものの感触が胸に伝わってくる。


「あいたた……大丈夫ふ……」

「あー、悪い、は……」


 目を開けると、目と鼻の先に城がいた。

 俺が押し倒しているような構図だった。


 あ、このクッション、おっぱいだぁ。やばぁい!


 城が真っ赤な顔で俺を見つめる。潤んだ目で、息は荒い。

 胸から伝わる城の心臓の鼓動が、布を隔てているくせに激しく伝わってくる。

 城の瞳の奥から捕食者のようなギラついた情欲の色が見えた。


 無防備な俺の手を掴み、指を絡ませてくる。

 柔らかく握ったかと思うと、時折抑えきれなくなるのか、ギュッと手に力が入る。


「……ひゅぅー…ひゅぅー…ひゅぅー…」


 城の小さな口から小刻みにか細い息が漏れる。その度に、俺の体重を押し返さんとするように城の胸が上下する。


 体温はこっちが心配になるほど熱を持っていて、俺の顔に触れる吐息は火傷しそうなほど熱い。ケーキを食べた後だからなのか、城の甘ったるい吐息が俺の肺に入り込んでくる。


 それがまるで溺れているような感覚で、上手く息ができない。


 一生懸命何かを堪えるように息をするその姿は、餌をねだるひな鳥を連想させた。


「ふっきぃ……太ももにぃ……か、硬いのがぁ……」

「だ、だから言ってんだろ……嬉しいって」

「……んっ!……でもぉ!」

「それ以上されると、俺が……我慢できなくなる」

「んああああっ!!!!……んぅ!!」


 答えると、城の体が二度大きくのけ反る。

 熱い吐息を吐きながら、口の端から垂れた涎がキラキラと光って反射する。

 汗で額に張り付いた白金色の髪が、いつものふわふわしたものとは別の顔を見せる。

 ドロッとした焦点の合っていない目で俺を見る城の顔は、今まで見たことないほど女の顔なっていた。


 ちなみに俺の息も荒い。

 俺の場合は気絶しそうで荒いが。天国と地獄が心と体で大運動会をしている。

 前の時より密着度合いが高い分、この数秒で昇天しそうだ。


「……ふっきぃ……我慢しちゃやだぁ……!」


 涙を流しながら、トロンと甘えた表情で、膝を立てて刺激してくる。

 握られた手の力がどんどん強くなり、絶対に逃がさないという強い意志を感じた。


 ……こいつやっぱり発情してやがる!

 待って、これ以上は本当にダメ!ストップ!ストップ!







「どーーーーーん!隣の晩オカズです!エッチな匂いがしたんで来ました!」








 救世主が現れる。フォーク片手に登場したのは椿ちゃんだった。

 やはり、というか、多分ずっと耳を澄ませて聞いていたのだろう。


 驚きで城の手から力が抜けた隙にすぐにその場を離れる。

 城も俺が離れたと同時に起き上がって距離を取った。


 あ、危なかった……。俺、今死ぬとこだったよね…?


「……あれ、求めてた反応じゃない!離れちゃダメ!私も混ざりたいの!戻って!」

「つ、椿!勝手に部屋入ってこないで!」


 真っ赤な顔で怒った城に、椿ちゃんがニヤニヤとスマホをタップする。


「『……ふっきぃ……我慢しちゃやだぁ……!』おや?…おやおやぁ?お姉ちゃん、今の私にたてついていいのかな……?部屋に入るくらい、できるよねぇ?」

「ちょ、ちょっと消して!スマホかして!」


 録音された城のエッチな声が椿ちゃんのスマホから響き渡り、咄嗟に城がスマホを奪い取ろうとするが、ひょい、と避けられてしまう。


「あっまいなー。さっきのふっきーとのやり取りくらい甘々だよ。そんなデカいの2つもぶら下げてるから、機動力がないんだよー!捕まえてごらーん!」

「ま、待って!」


 わいわい言い合いながら、走って部屋を出ていく城姉妹。

 ……マジで助かった。本当に椿ちゃんに感謝だわ。

 てか、さっきの音声データ送ってくんないかな…?


 しばらく深呼吸をして、心と下半身を落ち着かせる。肺に入ってくるのは、城の部屋のいい匂いだが、さっきの甘ったるい吐息よりは大分股間に優しい。

 すると、姉を撒いたのか、椿ちゃんがひょっこり入り口から顔をのぞかせてきた。


「ふっきー、これね?……あ、やべ、お姉ちゃん今日足早いな」


 そう言って、また慌ただしくかけていく。

 これ、一番貸しをつくっちゃいけないやつに作ったんじゃないの…?



挿絵 第44話:プレゼントは…… 貴方だけに

https://kakuyomu.jp/users/hirame_kin/news/16817330662757842984



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ちょっとエッチすぎたかもしれないです…。

エッチだなと思った方はぜひ★3つ!エッチじゃないなと思った方も★3つ投げてもらえると嬉しいです…!

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