第41話:過ぎ去った誕生日
side.
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「え!?
私は思わず卵焼きを落としそうになる。
いつものお弁当の時間、何気なく休日何をしていたかを聞いたら、とんでもない内容だった。
精役って……あの精役だよね?精子を提出する……あの……!
思わず、彼の股間を見てしまう。あの時の感触がすぐに蘇ってくる。
喉からごくり、と音が鳴った。……ここから、出てくるのか。どのくらい出るんだろう…。
顔を上げると、不木崎と目が合った。私が股間を見ていたのを眺めていたらしく、にっこり、と爽やかな笑顔をこちらに向ける。
あ、やばい。バレてる。
「で、でも、精役の講習って16歳からだよね?……え?ちょっと待って、いつ16歳になったの?」
「先週の金曜日」
「はぁ?聞いてないんだけど!!……ふっきーちょっとお箸置いて!」
なんで誕生日って言わないの!?その日普通のお弁当作ってきたじゃんか!
というか、だったら先週の土日にお誕生日会とかできたじゃんか!プレゼントも用意してないし!
「あれ…?もしかして、俺今から怒られる?」
「そう!」
不木崎が箸を置いたタイミングで、私は咳ばらいをする。
「私たち……その、結構仲の良い……と、友達だよね?」
不木崎の顔を伺う。
しかし、彼は何も喋る気配はない。
……あれ?もしかして友達と思ってたの私だけ?『俺ら友達なの?』とか言われたら、私このまま号泣できる。
一瞬、沈黙が訪れると、不木崎は少し焦ったように、
「あ、ごめんごめん。話続くかと思った。そうだな、友達だよ。なんなら、女子の友達は春ぐらいしかいない」
「……ふ、ふん!だと思った!ぼっち!」
「急にディスるじゃん?」
安堵感で情緒が狂ってしまう。
話の初っ端で私の心をかき乱さないで欲しい!もう!
「そんな大事な友達に自分の誕生日教えないって、人としてヤバいよ!だからぼっちなんだよ!ぼっちー!!」
「おお、全然ディスやめないね?あと、そのふっきーの亜種みたいな呼び方止めてね……」
そう言いながら、不木崎は申し訳なさそうに頭をかく。
その顔はズルい…!
「まぁ、確かに言えば良かったな。悪かったな、春」
急にしおらしく謝ってくる不木崎。
そ、そんな風にされちゃうと、私も怒れないじゃん……!
まあいい。今週不木崎の誕生日を祝えれば問題ない。
それに精役も始まったと言っていた。問題はこちらの方だ。
どちらかと言うと、精役の方が私の精神にダメージを与えている。
精役ってことは……その……出すってことで……、女の子で勃つふっきーは……きっと、その、そういう画像とか動画を見て…出すってことで……。
私以外の女の子を見て……。
それは嫌!絶対に許されない……!
私以外の女でそういう行為をするのは駄目!
どうにかして不木崎に私のエッチな画像や動画を送らなくてはならない。
でもそんな都合のいい手段なんて……。
―――あるじゃん。
ふっきーの誕生日も祝えて、同時に精役で他の女の子でそういうことしないようにする方法。
『誕生日プレゼントと称して、私のエッチな画像をプレゼントすればいい』
これだったら私の常にひん死状態のお小遣いからショボいプレゼントを買う必要がないし、ふっきーに私をもっとそういう目で見てもらえる……。
え、怖い。こんなすぐに神がかり的な案を出せる、私の頭脳が怖い…。
でも、ちょっとインパクトに欠ける気がする…。画像を送っておしまい、ではあまりに味気ない。
こう、ふっきーの記憶に爪痕として一生残るくらいのことはしたい。
「春?」
不木崎が押し黙った私を覗き込む。そうだった、今食事を待てさせてるのだった。
インパクトについては後で考えよう。
「ま、まぁ、分かればいいの。分かれば。それじゃ、今週の土曜日でいい?」
「え、何が?」
「お誕生日会に決まってるじゃん!」
「祝ってくれるの?」
「当たり前じゃん!もう!」
私の家の住所をラインで伝えて、土曜日のお昼から誕生日会をすることになった。
お母さんは出張でいないから……妹か……。あいつをどうにかして家から出さねばならない。妹のことだから、ふっきーに色目を使うに決まってる。あの細い太ももや小さい胸で誘惑するに決まっている……!淫乱中学生が……!
ふっきーは私の体をエッチだ、と言ってくれたが、決して妹のようなパーフェクトボディが嫌いだ、とは言っていない。懸念材料は摘んでおかねば…。
目標を定めた私は再び、食事を再開する。
うん、やはり私の卵焼きは上手い!
「そういえば、春の誕生日はいつなの?」
「え?5月5日だよ!」
「おい、ちょっと箸おけや」
私はすぐに箸を置く。……そういえば、私も言うの忘れてた。
「春も誕生日過ぎてるね?あれ?なんだっけ?友達に誕生日教えないの人としてヤバいだっけ?ぼっちなんだっけ?」
そうなんだけど、私のときはちょっと事情が違うっていうか…。
まだ、ふっきーとそんなに仲良くなかった時だったし、誕生日言い合える仲じゃないし…。
まぁ、先ほどあれだけ啖呵を切ったのだ。変に言い訳などできるはずもない。
「あ…、えーっと、ごめんなさい……あ、でも私の方がお姉さんなんだね」
「今、それ関係ある?」
「……ありません」
答える私に、不木崎はフッと噴き出して笑う。
「……にしても、子どもの日か。……なんか、お前らしいな」
私らしい……ってどういうことだろうか?
馬鹿には……してないよね?
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