第40話:やっぱり男の子は悲しい生き物・

 一通り、記憶障害についての説明を受け、次に本命である精役せいえきの講習に入る。


 この高島たかしま由利ゆり院長は、この病院にある科は全て対応できるらしい。まさにスーパーウーマンである。

 一度席を外した院長は、いくつかの書類と、湯気の出ているコーヒーカップを二つを手にして戻ってきた。


「はい、拓斗くんはコーヒー好きよね?」

「あ、はい。ありがとうございます」


 飲むと深みのある味わいに、癒される。インスタントではないらしい。

 にしても、この言い草から、以前の不木崎くんもコーヒー好きだったらしい。

 おいしくコーヒーが飲める舌だったのはありがたい。


「それじゃ、精役の話に入るわね。えっと……拓斗くんは、Aコース!?………あ、初めてだったわね。知らないのなら無理ないわ。説明するわね」


 そう言って書類を手渡してくる。

 そこには『成人男性の平均精液量と月ごとの平均回数』と題されたものと、『薬の適性値と副作用』と題された紙だった。


「その書類は持って帰れないものだから、後で回収するわ」

「持って帰っちゃダメなんですか?」

「そうなの。男性の生殖活動についての情報には規制が入っているの。残念だけど、こういう情報が出回ると、それを利用して男性を襲ったりする人が出てくるから…」


 なるほど。『男の子の日だ!ヒャッハー!』はあながち間違いではないらしい。

 頷いて書類に目を通す。うっかりとんでもない量の精液を提出とかしてしまったら、そのまま確保収容されてしまう。平均を知り、無難な量で調節したい。


「まず、精液の平均値はだいたい1ml程度。多い人だと一度で3ml出る人もいるわ。そんな人なかなかいないけど……。その出た精液をこの保温容器に入れて提出するの。その際、一緒にこの保存用ケースを渡すからこのケースに入れて持ってきてね」


 1mlくらいが平均ということか…。1mlってどのくらいなの?

 ……うむ、ネットで試験管を買っておこう。


 机の下から取り出された保存ケースは、めちゃくちゃ硬そうなポリカーボネートの素材が使われており、鍵もゴツイ。液晶も付いており、内部の温度が表示されているほか、指紋認証のような指紋のマークも印字されている。


「随分厳重ですね…」


「これにはいくつか理由があって、まずは内部の温度を一定に保つための保温機能がついてるの。これは精子の運動量を下げないためのものよ。だから絶対にこのケースに入れて持ってきてね。……後は、これも言いにくいのだけど、強奪される可能性があるのよ……精液を」


 やだ、この世界本当に怖い。


「女性は人工授精する際、父親が選べないの。精液自体が少ないからしょうがないことだわ。だけど、本人が精液を運んでいる際に強奪できた場合、その精液の所有者がわかるでしょ?これが、高値で闇取引されるの。顔写真と個人情報付きで、誰の子を産みたいか選べるカタログの一部になってしまうわ。だから、このケースにはGPS機能の他に、様々な防犯対策がなされているの」


 すげーな……精液。

 前世では……というか今もだけど、トイレに流すことって実は大罪なのでは…?


「あと、最初に提出された精液は、検査で使うことになるわ。ただ、そうであっても助成金は出るから安心してね。検査内容は精子の量を調べるの。本当にたまにだけど……無精子症と呼ばれるものがあって、精液の中に全く精子が含まれていない場合があるの。これがないかの検査になるわ」

「……ちなみに無精子症だった場合って、助成金はどうなるんですか?」


 俺の質問に院長先生は苦笑いしながら手をヒラヒラ振る。


「ああ、安心して。無精子症だった場合はこちらで診断書を書いて提出すれば免除になって、Cコース相当の受給を受けられるわ」


 ……なるほど。あまりいないらしいが、無精子症でもお金はもらえる、と。

 この世界の男の子、無精子症だったら薬から解放されて勝ち組だ!とか思うんだろうな…。


「次に、平均回数についてね。こっちは薬の話と合わせてするわ。薬の相性によって勃起する周期が変わるの、平均して大体月に1~2回なんだけど、たまに3回以上勃起する人がいるの。その場合はAコース相当になるわね。薬は強いのと弱いのがあって、今回はどちらも処方するから、まずは弱い方から試してみて。問題なければ強い方を使用してね」


 ボク、1日2回くらい!多い時は、10回!高校生だもん!とか元気よく言えたらいいのだが、やはり月1、2回が平均らしい。

 ……あと、真顔で勃起と言われると変な気持ちになるのは俺だけだろうか。


「薬の副作用は眠気、だるさ、ホルモンバランスの乱れからくるイライラ、便秘などが多くあげられるわ。キツくて動けなくなる人もいれば、全く日常生活に影響しない人もいたり、様々よ。1か月の内10日ほどはその症状に悩まされるわね。たまに発熱したり腹痛になったりする人がいるから、そのときは診察にきてね。もちろん無料だから。症状が酷い場合は免除の方向で進めるわ。ただし、勃起する日はとても調子が良くなるらしいの。それが良くて続けられる人も多いみたいね」


 え、麻薬じゃん?勃起する日だけ調子よくなるって、もう作為的な何かを感じるんだが…。絶対飲まんどこ…。ていうか1か月の内10日不調って男の子辛すぎないか…?そりゃ病むだろ…。

 確かに、2、3年の先輩はイライラしている人が多い気がする。冬凪先輩とかもイライラしている瞬間を何度も見たことがあるし。


「じゃあ、次は射精についてね」


 そう言って、親指より小さいくらいのサイズのちんちんの模型が取り出される。

 え…!ちっさ…!リアル過ぎて全く可愛げはないけど…。血管までディテールこだわる必要ありますか…?

 というか、あのサイズが平均ってこと…?ってことは俺のサイズ化け物過ぎない?


 院長先生はその親指ちんちん模型を触りながら、


「こうして、刺激を与えるの。手の速さは人それぞれよ。早いのが出が良い人もいれば、遅いのが良い人もいる。大抵は利き手でやるのがいいらしいけど、両手を使う人もいるからこれは人それぞれね。…実際やってみると、わからなくなる場合があるから、その時は保護者に補助をしてもらうか、病院で補助をしてもらうことになる。ここだと私が担当するわ」


 ……冗談だろ?お母さんといっしょに……?

 特殊すぎませんか?出たときなんて言うの?……あ、結構出たね、とか冷静に言える自信ないぞ…?

 あ、院長先生の補助はちょっぴり気になります!


 まぁ、実際はもう俺一人で玄人の域に達してるわけだから、補助など必要もない。おととい来やがれである。さらに言えば、ちんちんなんて女性に触られたらそのまま失神する可能性が高い。


 にしても、院長先生は流石だ。他の女性なら模型と言えどもモノを触りながら、こんな真顔で冷静に説明できないだろう。資格がいるというのは事実のようだ。


「……と、大体こんな感じね。不明点があれば電話でも伝えられるから、連絡ちょうだいね。後は最初の提出日を決めるだけだけど、最後に何か質問はある?」

「あ、いえ。お腹いっぱいです」


 そう言うと、院長先生は口元に手を当てて、クスクス笑う。

 少し前かがみになった拍子で、真っ赤な下着が顔を出した。

 期待を裏切らない色で少し安心してしまう。

 まぁ、白いブラウスにがっつり透けてたから特に驚きもないのだが。


 最後、提出日を決め、薬を処方してもらい、保存用ケースの指紋登録など、雑多なものを済ませる。

 じゃあ、と診察室を出ようとすると、見送りさせて?と後を付いてきた。

 そのまま病院の玄関前で付いてきてくれる。すごいビップ対応じゃない?


「…もし、体調が悪くなったりしたら、私に電話ちょうだい。24時間大丈夫よ。……これ、電話番号とラインのID」


 そう言って紙を手渡される。院長先生直通とかとんでもないパイプじゃね…?

ありがたく頂戴し、一度ラインを送りあって確認する。


 病院から出て、歩きながら手に持った重厚なケースを見た。


 ……男の子って、大変過ぎない?



―――――――――――――――――――――――――――――――――――


※これは、医療行為の話なので全くエッチではありません。



挿絵 第40話:やっぱり男の子は悲しい生き物

https://kakuyomu.jp/users/hirame_kin/news/16817330662757962891

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