第10話 kiss
「ぷはっ、はぁ、はぁ、どうして、こんな事を?」
ようやく解放された時には息も絶え絶えで、まともに喋る事も出来ない状態だったのだが、
それでも何とか問い掛けると彼女はニヤリと笑って答える。
「そんなの決まってるじゃん。ジェシックのことが好きだからだよ」
私はそれを聞いて愕然としてしまった。
だって今までそんな素振りなど見せなかったし、何よりも突然すぎる展開過ぎて頭がついていかなかったのだが、それでも一つだけ分かった事があった。
それは彼女が本気で私を口説き落とそうとしているという事だ。
(なんて事だ! こんなことしてる場合じゃないのに! 今は一刻も早く逃げなければ!)
そう思った時には既に手遅れだったようで、
「どこ行くの、ジェシック?」
いつの間にか背後に回り込まれていたようで、耳元で囁かれた私はビクッと反応してしまい、
恐る恐る振り返ってみるとそこには満面の笑みを湛えた彼女の姿があった。
(あぁ、これはもうダメだな)
そう思って諦めかけたその時だった。
不意に抱き寄せられると唇を奪われてしまう。
しかもディープキスだ!
舌を入れられて口内を蹂躙されるような感覚に襲われてしまい頭がボーッとしてきた私だったが次の瞬間、
「ちゅっ、んん、ぴちゃっ、ちゅぷっ、れろっ、んふぅ〜」
彼女の口から唾液を流し込まれてしまい反射的に飲み込んでしまう私。
それからしばらくの間、口内を蹂躙され続けていたのだが、ようやく解放された時には完全に蕩けてしまっていて、
立っていられない状態だったものの何とか耐えきってみせると安堵の溜息を漏らした後でキッと彼女を睨み付けるも、
全く意に介していない様子だったので、仕方なく立ち去ろうとしたところで再びキスをされてしまったが、
今度は軽く触れるだけの優しいキスだったのでホッと胸を撫で下ろす私だったが、次の瞬間には驚愕する事となった。
なんと彼女が、いきなり私の身体を持ち上げるとお姫様抱っこの状態にして抱え込んでしまったのである。
「ちょっと待って、降ろして下さい!」
慌てる私だったが、そんな事はお構いなしといった感じで歩き出す彼女。
必死に抵抗するも力で敵うはずもなく、そのまま何処かへと運ばれていく羽目になってしまったのだが、
ふと我に返ると目の前にあったのは大きな宮殿だった。
(えっ? なんでこんなところに!?)
混乱する私を他所に彼女はどんどん進んでいき、やがて辿り着いた場所は玉座の間だったようで、
そこで待っていた人物を見て驚いた私は思わず叫んでしまう。
「あの! この子とはどういうご関係なんですか!?」
怒りと羞恥が入り交じった感情を抑えきれない様子の私の言葉を聞いた相手方は苦笑いを浮かべながら答える。
その言葉の意味を理解した私が顔を真っ赤にしていると、
「ふふ、ごめんね? ジェシックったら可愛い反応をするからついからかっちゃった」
と言って悪戯っぽく笑う彼女に、私はますます怒りが込み上げてくるのを感じたが、それをぐっと堪えると平静を装って聞き返す。
(まったく、この人はいつもこうなんだから……)
内心では呆れつつも悪い気はしないと思ってしまうあたり、私も末期なのかもしれないと思いつつも幸せな気分に浸っていたその時だった。
突然背後から何者かに抱き着かれてしまい、驚いて振り返るとそこには彼女の顔があって更にキスされてしまう始末だ。
しかも、今回はディープキスでは無く軽い挨拶程度のソフトな物だったがそれでも十分に恥ずかしいのだ。
「あの、そろそろ離してくれませんか?」
私が抗議すると彼女は素直に応じてくれたのだが、その直後に耳元で囁かれた言葉に思わずドキッとしてしまう。
「次は二人きりでデートしよ? それにいつかえっちな事もしたいしね」
そう言いながらウィンクする彼女を前に顔が熱くなるのを感じた私は恥ずかしさのあまり俯いてしまったが、
それを誤魔化すために話題を変える事にした。
「あの、ところでどうして私に会いに来たんですか?」
そう問い掛けると、彼女は嬉しそうな顔をして答えてくれた。
なんでも私に見せたいものがあるそうで、今からその場所に向かうところだという事だった。
(なんだろう?)
疑問に思いながらも彼女についていくと、そこは王城の地下にある極秘資料庫だということが分かった。
中には大量の書物や魔道具などが保管されており、興味深そうに眺めていると彼女が一冊の本を差し出してきたのでそれを受け取ると読んでみることにする。
そこには驚くべき内容が書かれていたのだった。
その内容というのは【異世界魔法入門】というものであり、これを習得することで誰でも魔法を使えるようになるのだということが分かった瞬間、
私は思わず興奮してしまっていたのだが、そこでふと我に返り、
(あれ? なんで私、喜んでるんだろう?)
と疑問を抱いたものの、すぐに答えが出なかったので一旦保留にする事にして続きを読むことにした。
次に目に留まったのは一冊の本だった。
題名は《妖精術入門》というもので、こちらも異世界魔法同様習得することで誰でも精霊魔法を使えるようになるのだということが分かった瞬間、
私はまたしても興奮してしまっていたのだが、その理由は分からないままだった。
(なんでだろう?)
と思いつつも頭を横に振って雑念を振り払いつつ次のページを捲ると今度は二冊目の本が目に止まったので手に取ってみたのだが、
それには《古代魔法》という文字が書かれていた。
それを読んでみると、どうやら太古に存在したとされる幻の魔法らしいのだが、肝心の内容が書かれておらず、
これでは使えないなと思ったところで彼女に声を掛けられた私は本を閉じると棚に戻すことにした。
その後で室内を隈なく探索していた私だったが、遂に一番奥の区画に行き着いたことで期待感が高まる中、
その扉を開くと中には一振りの剣が置かれていたのである。
だがそれはただの剣ではなく、禍々しいオーラを放つ魔剣だった。
その瞳が目に入るや否や魅入られてしまったかのように視線を逸らせなくなった私は無意識のうちに手を伸ばしていた。
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