第25話 エピローグ

りんさま! これなどはどうでしょう?」

「うわぁ~立派なお芋ですね」


 蘭丸がいつもの様にりんに差し入れをしている。りんは人間界からの奉納物とダルモア国産の果実について、それぞれ挿絵付きのメモを作っていた。

 果実については、どこでいつ採れるのか、味はどうかなどが描かれている。かなり本格的に描かれているから、ちょっとした書物の様になっている。


「お芋は、焼いてみましょう!」

「いいですね!」

「それは美味しいの~?」


 りんと蘭丸のやり取りに愛音あいおんも参加し、りんの周りはいつも賑わっていた。紫音しおんも今やりんと一緒に食材を洗ったり切ったり準備をしたりと忙しくしている。


「何だか騒がしいな」

「あ、獅童しどうさま!」


 あの日から獅童しどうりんの部屋に通い詰めていた。この日も奥の寝室から眠そうな顔をして現れた。


「今、お芋を焼いてみましょうという話をしていたところです。秋は食材が美味しい季節ですもの。出来上がりを楽しみにしていてくださいね」

「あぁ。楽しみだな」


 りんが楽しそうに話す姿を、相変わらず獅童しどうは目を細め眩しそうに眺めている。


「そういえばりん龍星りゅうせいの酒が欲しいと聞いたが?」

「そうなのです。この前、つむぎさまにお願いすればよかったと思って忘れていました」


 遠くで蘭丸たちが落ち葉に火をつけようとして四苦八苦している。微笑ましい光景だ。けれどなかなか上手にできない姿を見て、慌てて蘭丸たちの元に戻ろうとするりん獅童しどうは呼び止めた。


りん。お前にりょうを付けさせよう」

「えっ?」

りょうであれば、目利きのプロ。人間界との奉納希望もとりまとめている。お前たちの力になってくれるだろう」


 りんの顔がさらに希望にキラキラ輝いた。りょうが力になってくれたなら、蘭丸がこそこそ倉庫から物を貰い受けることも、怒られる心配もなくなる。


「よろしいのですか?」

「あぁ。俺も真剣に人間の希望を聞くことにするさ」


 獅童しどうは大きな欠伸をしてから庭の方を向き呟いた。


りょう、聞こえていたのだろ?」

「はっ。獅童しどうさま。承知いたしました。りんさま、よろしくお願い致します」


 いつの間にかりょうが庭で膝まづき、かしこまっていた。さすが側近。


りょうさま。よろしくお願いいたします!」

「あ…、りょうとお呼びください」


 そんなぁ~。といつものやり取りが始まると、じんが酒の準備をして現れた。相変わらずクールな顔でりんとは目を合わせてはくれない。りんは嫌われているのだろうか…。といつも思う。


獅童しどうさま。今日もこちらで召し上がられますか?」

「あぁ。みなの分も用意してくれるか?」

「かしこまりました」


 じんは酒を獅童しどうの横に置いたあと、すぐに部屋を後にするのだった。


「私…じんさまに嫌われているのでしょうか?」

「どうした? そんなことはないと思うがな。最近一緒に飲む機会が減ったから、拗ねてるのかもしれないな」


 獅童しどうは酒を飲みながら、気にするなと言う。りんは少し気にかけながらも今はりょうと蘭丸と紫音しおんとで、どんなものを作って行こうかなどと、楽しそうに考えていた。


 そんなのどかな空気を破った者がいた。


獅童しどうさま! 獅童しどうさまーーーっ!」

「な、なんだ。騒がしい」


 姿を現したのは雷狐らいこだった。いつもと違った慌てぶりにりんもびっくりする。何があったというのだろう?



爾照でめてるさまが、ダルモアの国に、獅童しどうさまに会いにこられると!」

「な、なにっ!!!」


 獅童しどうが立ち上がり、その場にいたりん以外の者が一斉に獅童しどうに注目する。当の獅童しどうもとんでもなく慌てている。


「お、俺はいないぞ。雷狐らいこ! なんとかしてくれっ」

「そ、そう…言われましても…」


 珍しく雷狐らいこも狼狽えている始末。

 りんは首を傾け獅童しどう雷狐らいこを交互に見るしかなかった。


爾照でめてるさま……って?」


 その名前を聞いた全ての者の時間が止まったような気がした。

 一難さってまた一難。りんのセカンドライフは飽きることがなく続くのであった。



Season1

~嫁入り先は神の国!?ウソでしょ?~



END

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雲外蒼天~嫁入り先は神の国!?ウソでしょ?~ 桔梗 浬 @hareruya0126

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