第24話 嫉妬する夜

「よく言えたのぉ」


 しばらくしてつむぎさまが獅童しどうに囁く。


りん。お主も疑う余地はないじゃろ? 獅童しどうさまはお主の幸せを望んでおるのだ。後はお主次第」


 りんは体をおこし獅童しどうを見つめると、獅童しどうの蒼い瞳と目が合う。


「お主、神の実を食してないのだろ?」

「あ…」

「食すも食すまいと、お主の自由じゃ。わしの姉であり、獅童しどうさまの母も最後まで食さなかった」

「えっ?」


 獅童しどうも寂しそうに頷く。


「そう、母は食べなかった。彼女には考えるところがあったのだろう」

「わしのせいだ。わしのくだらない恋心のせいじゃ」

「えっ?」


 つむぎさまはそう言うと、もう帰るぞ、と二人に背を向ける。


つむぎさま!」

りん。こちらの事は気にするでない。獅童しどうさまを頼みましたぞ」

つむぎ雷狐らいこに会っていかぬのか?」

「ふん。相変わらず意地が悪いですな」


 そう言うとつむぎを形作っていた光がパラパラと弾け湖に溶け込んで行く。


つむぎさま…」


 その景色を見つめながらりん獅童しどうの手をそっと握りしめた。


獅童しどうさま。お願いがあります。ずっと私の側にいてください」

「えっ?」

「私も、お側におります。このダルモアの国でずっと」

「いいのか?」

「はい。この実を食せばずーっとずーっと一緒にいられるのですよね?」


 りんは懐から小瓶を取りだし、中から実を取り出しじっと見つめる。


りん…無理はしないでくれ」

「またそこから始めますか?」

「い、いや」


 りんは神の実を頬張りゴクンと飲み込んだ。


「あ…」

「す、酸っぱいです」


 りんは湖に映っているつむぎさまに、大きな声で叫んだ。


つむぎさまぁ~! 私ダルモアで獅童しどうさまの側にいますっ! ずーっと」

りん、恥ずかしいぞ」


 りん獅童しどうに微笑みながらさらに叫ぶ。


「私は、獅童しどうさまがぁ~、だ~~い好きっ!!」

「おいっ」


 獅童しどうは真っ赤な顔で慌ててりんを制する。


「おいっ」


 りんは振り向き様にガバッと獅童しどうに飛び付いた。その勢いで獅童しどうはバランスを崩しりんを抱きかかえながら地面に倒れ混む。


「私は、獅童しどうさまが好きっ!」

りん、落ち着いて」


 獅童しどうの瞳に頬を朱く染めたりんが映る。わかっていた。初めて見た時から獅童しどうは心を奪われていたのだ。どう接していいかも分からず、りんの笑顔を見ているだけで嬉しくなった。

 今まで感じたことのない感情がわき始めていたことに気付いていた。だからその笑顔を守りたいと思ったのだ。

 


りん…。愛してる」


 そう言うと獅童しどうはそっとりんの唇に触れる。とても軽く、優しい口づけだった。


 体制を変え、獅童しどうは目を伏せたりんの髪をそっとかき上げる。蒼い瞳がりんをしっかりととらえた。


「……りん…?」

「……私…も…」


 りんはそう言うとそっと目を閉じる。

 そして月が優しく二人を見守り光の粒がキラキラと舞う中、二人は深く激しくお互いを求め合う。


 ダルモアの全ての生き物が嫉妬するくらいに。

 

 そして、熱い夜が過ぎていくのだった。

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