第21話 蘭丸の悩み
「
「蘭丸さん、ごめんなさい。…怒られるのは私です……」
「あ、いえ。私が悪いのです。
蘭丸はかわいそうにしゅんとしている。
そう、今
ドスドスと足音が聞こえ、勢いよく扉が開いた。
「待たせたな」
蘭丸がひれ伏すので
「
二人が顔をあげると、上座に
その代わり、
「この度は申し訳ございませんでした」
沈黙が続く…。
「蘭丸、何故あの場所を選んだ? プテラの巣があることは、お前なら知っていただろ?」
「…」
「私が行きたいと申しました。弓の扱いにも慣れていますし、危険などないと思って。全て私の…」
「いえ。おっしゃる通りです。ただ…母上の見た景色を奥方さまに見せて差し上げたかったのです」
「
蘭丸を罰するなら、離縁です! と言いかねない勢いだ。
「責めているのではない」
「へ?」
「俺たちにとって、あそこは大事な場所。そうだよな、
「兄上? 蘭丸さんが?」
「
「誤解なさってはいけません! 蘭丸さんは私を庇ってくれました! 本当です」
「あははは。お前は本当に面白い奴だな。こう言う時は黙って見ていれば良いのだ」
「
「では、まだ俺を憎み続けているからか?」
―― ちょっと待って! 憎むって何?
「まさか。私はあなたと違って神の使いにもなれないただの民。この場にいさせてもらえるだけで、張り合う気などないことはよくわかっているでしょう?」
「…」
しばしの沈黙。
「
それを見た蘭丸は改めて頭をさげ、こう続けた。
「
「相変わらずだな」
「
「良い覚悟だ。それじゃ望み通り処罰を申し伝える」
蘭丸は顔を上げ、目を閉じてじっとしている。その横顔は、不謹慎だがとても綺麗だった。
「我妻がこの国を完璧に理解するまでの間、しっかりと教育をすること。その間は我々の側を離れぬこと。これで良いか?」
「
「何か文句あるか? 蘭丸」
「いえ。承知いたしました」
そう言うと蘭丸は深々と頭を下げ、部屋を後にした。ふらふらしていたのは、足が痺れたからに違いない。
「
蘭丸は泣いていた気がした。
* * *
「はぁ~。今日も長い一日が終わってしまった…」
そしてなにより、今は
そんなことを考えていると、外から蘭丸の声が聞こえてきた。
「
「えぇ、どうぞ」
「こ、これは?」
「今夜もちょっと頂いてきちゃいました。そのうち
蘭丸はみずみずしいナスを手渡し、いたずらした子どもの様な笑顔を見せる。
「うわぁ~美味しそう! ありがとうございますっ」
「それじゃ~私は…」
「あ、あの」
受け取ったナスを抱きしめながら、
「
蘭丸は寂しい目でそう語る。蘭丸は誰よりも優しく自分に正直なのだろう。
「でも今は、
「私は何も…」
「あなたがこの国を変える日も遠くないでしょう。既に
「えっ?」
蘭丸からそんな話を聞かされるとは思っていなかった
「そして、私も」
「?」
「既に…
蘭丸がナスを見ながら嬉しそうに話すから、
「それではこれで失礼いたします。明日はお休みして、明後日からまた神々の歴史について学びましょう。しっかりと学んで頂きますよ」
「はい! よろしくお願い致しますっ」
爽やかな笑顔を残し蘭丸が立ち去った後、立派なみずみずしいナスを片手に
これは浅漬けが美味しい!
――
「
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