AI創作はきっかけ

 映画を見るのが好きだ。ドラマもアニメも漫画も好き。もちろん小説だって読む。私の身の回りにはいつだって物語が溢れている。なんて幸せなんだろう。映画で知った話の原作を小説で読んだ時、映画と違う結末を迎える時がよくにある。私はどちらかというと原作と二次使用作品は別物だと思ってるからこんな結末もあるのね、なんて思って気にしないことにしている。むしろそれを楽しんでいるくらいだ。だって、そうしないと世界に数多ある多種多様な媒体で、沢山の物語を楽しめなくなるじゃない。


 最近はWEB小説なんかも読みはじめた。友達にお勧めされたから。短い短編からとてつもなく長い長編までいろんな人がいろんな物語を書いている。プロの作家作品ばかりを見て来た自分は、最初はこんな素人の作品なんてと思って読みはじめたのが正直なところ。あの頃の自分を本当に怒ってやりたい。だってここにはこんなにも素敵な作品がいっぱいあるのだから。

 高校生にとって、スマホは必需品。特に電車通学の私は、暇な通学時間をこのWEB小説で過ごしていた。アマチュアなのに閲覧数を稼ぐ人、このサイトから書籍デビューする人。ここは私が思っていた以上に夢が詰まった空間だった。



 そういえば最近、学習型AIが話題になってる。イラストだったり文章だったり、AIに学ばせるとそこから新しいものを生成してくれるらしい。界隈がざわついたのをSNSで見かけた。中には人の作品をパクって投稿したり、AIで寄せて描いたりする人も出たらしく、みんなAIの使用には否定的だ。そりゃあそうだろう、そんな使われ方をされては一生懸命描いた人たちの努力が水の泡だ。報われないにも程がある。

 とはいえ、私自身は使い方によってはAIもありなんじゃないかと思っていた。ちょうど最近、自分でも物語を書いてみたくなってきたからだ。だけど、今まで読む専門だった自分がそんな大層なものなど書けるわけがないと思っていた。そこにこの学習型AIだ。調べてみたら、自分の書いた文章を学習させて、その人らしい物語を書いてくれるそうじゃないか。これなら自分が読みたい本を自分で書けると思った。

 けれど、私が今まで書いた文章なんて、小中学校の卒業文集と夏休みの読書感想文、あとは受験対策の小論文くらいだ。AIに学習させられる文章なんてこんなものしかない。でも、逆にこんなんから面白い話が書けたら楽しくない? これはやってみる価値があると思った。

 それにそうだ! どうせやるならバズったら勝ちじゃない? これは動画のネタになりそうじゃん。私は動画や配信を動画サイトにアップする活動をしている。事務所にも所属して、それなりの同時接続者数を取れるくらいには知名度もある。早速マネージャーに企画の許可を取り、パソコンに今話題のAIを入れてみた。


「ハローこんばんわ! バーチャルライバーのミソノだよー!」


 マネージャーに許可も取れたので、早速今日の配信で、AI小説でとやらを書いてみることにした。


「今日は最近話題のAI小説とやらを使って、小説を書いてみたいと思います。今まで自分が書いてきた文章を学習したAIが、その人の書きそうな文章で物語を考えてくれるらしい、というものです。リスナーは知っていると思うけど、私はアニメも漫画も小説も大好きなものですから、これなら読みたい本を自分で書けるのでは? と思った次第ですよ。まあ、小説なんて書いた事ないので、学習させる文章は中学校の卒業文集だったり、高校で書いた受験対策の小論文くらいなんだけどね。これは内容によって個人を特定されかねないので、事前に学習させときました。一応ね、杞憂民のために言っておきますけど、あくまで私の書いた文章しか学ばせてないので悪しからず」


 コメント欄は、案外AIに興味津々なようで、批判的なコメントは少ない。正直、少し安心した。誰かの作品をパクりたいわけではないが、現状、創作においてAIは否定的な意見の方が多いんだから、ちょっと荒れるかなぁなんて思っていたのだ。


「じゃあ早速、書いていこうかな。えっと、このAIにはね、登場人物と大まかな話の流れを書いていくと自動で小説を書いてくれるらしいのよ。話自体はね、最近ハマってるジャンルがあるからそれでいこうと思うんですけど、名前がねえ、ネーミングセンスが皆無なのでリスナーに考えて欲しいんですよ。なんかいいのない?」


『設定がないと考えられん』

『時代とか国のイメージはー?』


「あ、確かに。皆さん素晴らしいご指摘ですね。平安の日本なのにジョニーとかアンジーとかばっかり出てきたら混乱するもんね」


 リスナーのツッコミに思わず笑ってしまった。私としたことが、楽しみゆえに急ぎ過ぎてしまってようだ。


「えーっとね、今流行りの異世界系にしたいんですよね。イメージはヨーロッパとか? カタカナの名前だと良し。日本人っぽい主人公もありですよね。……転生? ちがうよー! 2度目の人生やり直し系? っていうのかな。1回目の知識活かして成り上がろうぜ! みたいなのにしようかなと思っています」


『主人公は男?』


「そうだね、あえて女主人公にしようかなって思ってます。男性優位の貴族社会で成り上がる女性貴族にする予定」


『悪役令嬢系?』

『追放回避みたいな?』


「それはね、n番煎じかなと思ったのでやめました。普通に貴族社会で生きて人生を全うした人が、なぜかまた同じ生を繰り返し生きている形にしようと思います。悪役令嬢は読んでるくらいがちょうどいい」


『たしかに』

『それはそう』


「というわけで皆さん、今から出てくるキャラクターの性別を述べていくので名前を考えてください。変なのは受け付けません。みんなで作ろう物語!」



 リスナーのセンスは面白い。自分では思いつかなかった名前が次々出てくる。


『シンプルにジャスミンとか?』

『シュベリー』

『響きがいいやつがいい』


「いいですね。主人公はシュベリーにしようかな。なんか強そうだし。皆さんのおかげでいろんな名前が選び放題ですよ。……って、おい! 誰だうちの事務所のライバーの名前しれっと書いたやつ。私が怒られるでしょうが!」


『www』

『草』


「父親の名前は……、兄弟……、貴族といえば婚約者とかもでできますよね……」


 コメントとのやりとりのおかげでスムーズにキャラクターの名前が決まっていく。中にはふざけたものを書く人もいるがこれも一興。配信としては、盛り上がるための種のひとつだ。ぼちぼちキャラクターの名前も決まってきたので、とうとう物語の制作に取り掛かる。あらかじめ考えてきた内容に、今決めたキャラクターの名前を当てはめて、AIに指示された項目を書き込んでいく。


「じゃあ、早速AIさんにお話作ってもらいましょうかね。さっき決めたキャラクターの名前を入れ込んで書きたい話をここに入れます。そうして待つこと十数分で完成するらしい。その間、雑談でもしましょうか」



 リスナーとの雑談に盛り上がっていた時、プログラムから物語の完成のアクションがあった。そんなに時間も経っていないのにこんなにも長い話ができるものなのか。とはいえ5000字程度で指定したので、短編程度の長さではあるのだけれど。


「あ! できたみたいですよ、作品が。それじゃあ読んでいきましょうかね」


 リスナーと共に作品を読み始める。話自体は面白いが、どことなく日本語がおかしかったり拙かったり、世に出すには恥ずかしさを覚える出来だった。


「どうですかね。私的には内容は面白いんですけど、なんか所々拙いなあ日本語。そりゃあ学習させた文章、中学生の卒業文集なので、そんなものだと言われれば仕方のないことなんですけど」


『味があるよね』

『逆に素人さが出てて良い』

『癖になるかもしれん』


「なんか気色の悪い感想がちらほら見えるな。いや、見なかったことにしておきますか。いやー、悔しいですね。話は面白いのに書く技量がないとこうも残念になるのか。AIも完璧じゃないんですね。いや、私が完璧じゃないのか」


『AIのせいにすなww』

『初心者やからしゃーないで』 


「なんにせよ今日の配信はここまでですかね。今日書いたお話はファンクラブブログに一応載せようと思うので気になる方は是非。とはいえ、アーカイブ一時停止しながら見れば誰でも全文読めるんですけどね」

「じゃあ、これからは執筆者を名乗れるように修行でもしますか。するとは限らんけどな。それではみなさんいい夜を〜」



 配信を終わらせ、もう一度先ほど作られた物語を読み返す。拙い文章ながら書きたい世界がそこに描かれていた。AIはすごい。私が思っていた世界を表してくれたから。しかしそれ以上に、この世の中に存在している物語を綴ってきた先人たちの努力という才能を痛いほどに感じた。物語を描くという行為は、簡単に機械がやってしまうには勿体無い。私は、今の私だから書ける物語が書きたいと思った。



 次の日、早速マネージャーに昨日の配信の反省と今後の希望を伝えた。私は今の活動をしながら物語を書きたい。今はまだ素人でも、積み上げてきた読書の数には自信がある。マネージャーも今までの活動者にはいなかったことだからと、一旦上に掛け合ってくれることになった。

 しばらく経ってきた返事が言うには、運営が小説サイトに掛け合って事務所公式で話を書かせてくれることになったらしい。なんでも、あの配信がちょっとバズったらしく、掛け合った小説サイトの運営会社の人まで見てくれたらしいのだ。自分が思っていたよりも大掛かりな事態に驚きながらも、生半可な覚悟で挑んではいけないと感じた。


 私はこれから作家デビューすることになる。とはいえ事務所の力を借りたアマチュアに過ぎないけれど。それにもちろん、今度は自分の言葉と文章でだ。あの配信は私がこの世界に身を投じるきっかけになった。AIは私が物語をもっと楽しむきっかけを作ってくれたのだ。

 そうだ、どうせならその事を書いてみよう。デビュー作は少しエッセイ寄りになっちゃうかな。それでもいいか。だって私の本心だから。それから新しくいろんな世界を書いていこうか。



《タイトル:AI創作はきっかけ》




  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る