第8話

1時間ほどして母と芽衣子姉と加奈芽がやってくる。

何が何だか分からないといった表情をしている。


なお、今回の面会にも冨浦さんと重村先生が同席している。

加奈子さんは僕自身がダウンさせたわけなのでここに居ない。

というかどうにも加奈子さん自身も頑張ってこようとしたらしいのだが、そのあたりを聞いた僕が「体を休めてほしい」とお願いしたら、残念そうな顔をしたと思いきや、顔を赤らめて了承してくれた。

前者はわかるが後者は一体なんだろう?

そのうち聞いてみることにしよう。



「寛治、どうしたの?」

母さんが少し怯えながら聞いてくる。

さっき別れたと思ったらすぐに呼び出されたわけだ。


まるで断頭台にでも立っているかのような表情をしている。

実際今から僕がやろうとしていることは、一面ではそれに近い状態だ。


「僕を護衛してくれていた護衛官がクビになったって聞いたんだけど?」

「それは・・・だって、寛治を守れなかった無能になんて価値は無いもの・・」


「そう・・・」

僕は残念そうな顔をしながら顔を伏せる。


「何がいけないの・・・・?」

訳が分からないといった様子の母さんは聞いてくる。


「何が・・・か・・。答えは2つで2つとも簡単だよ。

1つはその男性護衛官が僕を守れなかった最大の要因は、僕が一人になりたいって言い出したのが原因なんだよね?

ならその原因の対処の方が重要じゃないのかな?

これじゃあトカゲのしっぽ切りだよ・・・」

「それは・・でも、あの人たちは結果が全てだし・・・」


「言って良いのか分からないけど、そこまで男性を優遇する必要があるの?」

「「「「「!?」」」」」


「だってそれって自分を守りにくくしてくださいって言ってるようなものじゃない?

それに対して護衛官に責任を押し付けて、男性を優遇する必要はあるの?

守ってほしいなら守ってもらえるような環境を男性自身も提供するべきだと僕は思うな」

「そ・・それは・・・・」


「それにもう一つ・・・今、母さんは無能に価値は無いって言ったよね?」

僕は知らずに怒気を含ませて質問していた。そしてその怒気に当てられた母さんは怯え始めている。

でも、これだけは我慢できない。

おそらくこの問題を放置すれば、僕はまた、『この母さん』に対しても怯えなりが入ることになるから。

それは根本的な解決に至らないはずだ。


「でも・・結果が全ての護衛官が結果を残せなかったのよ?無能以外の何でもないわ」


「考え方によってはそうなるのかもしれないね・・・

でも『前の母さん』もそういって僕をいないものとして扱ったんだけど、それはどう思う?」

「!?」


「テストでいい点を取れるわけじゃ無いし、それどころか赤点常習犯。家に居ても引きこもるし、挙句肥満気味。何も成果を出せなかった僕を、『前の母さん』は無能と蔑みいないものとして扱ったんだよ」


「単刀直入に聞くね?

『今の母さん』と『僕にとっての前の母さん』ってやってることに違いがあるの?」

「!?」


「これは卑怯かもしれないけれど、その考えを捨ててくれない限り、僕は母さんと一緒に住めそうにないと思う。

何処まで行っても僕はその考えを受け入れることができないから・・・

男性優遇の社会である以上、立場が逆になって母さんが苦しんで、僕は普通の生活にはなると思うけど・・・

今の段階で、母さんを切り捨てるようなことはしたくない」

「・・・・・・・・・・」


「それは結局、僕を切り捨てた『前の母さん』と同じことを僕がするってことだから」

「ごめんなさい・・・・」


「わかってくれるの?」

「ええ、もちろん。今までのあなたの意識ならすでに私たちは切り捨てられてもおかしくないわ。

なのに拾おうとしてくれている。きっとそれが今の寛治なのよね?

なら私たちは私たちでそれを受け入れる必要がある」


「ありがとう、母さん」

「私も、ありがとう。捨てないでくれてありがとう」


「芽衣子姉と加奈芽もそれで我慢してほしい。

もしここで二人がその人たちを切り捨てるなら、結局前の世界で僕を切り捨てた二人と変わらないから・・・」


「わかったわ、寛治」

「お兄ちゃんの言うとおりにするよ」


「ごめん。わがまま言って・・・」



早速だが母さんに依頼しよう

「それじゃあ早速で悪いけれど、その護衛官の人たちに『わがまま言ってごめんなさい』って謝りたいから、再度僕の護衛官に就任させてほしい。もちろんその人がそれを受け入れてくれればの話だけれども・・・」

「わかったわ。護衛会社の方には急ぎで連絡をいれるから待っててちょうだい」


「それから、みんながそういう風にしてくれるなら、僕もみんなを信じられるように努力してみたい。常に隣にいるっていうのはまだ無理だと思うけど、とりあえずは家に帰るよ・・・あー、リハビリが終わったらだけどね?」

「「寛治!」」「お兄ちゃん!」



僕の意識の過去を知っている分、帰ってきてくれると思っていなかったのだろう。

僕が知らなかっただけで、冨浦さんが男性専用区域のことを知っていたという事は、3人ともそこに僕が住むようになることを予想していたのだろう。

予想外の展開だったのか喜びにあふれた表情をしている。




そうして、僕はとりあえずの和解を家族としたのだった。

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