第4話
僕はなるべくわかりやすく説明した。
恐らく今の僕は皆が知る僕ではないこと。
僕はこことは似て異なる並行世界の日本から意識だけが移った【瀬田 寛治】であること。
僕の生きていた世界では男女比率が1:1に近い状態であったこと。
僕が生きていた世界では僕はデブでキモメンで皆から嫌われていたこと。
それらを話された皆は看護師さんたちも含めて訳が分からないというような顔をしていた。
「それでも寛治は寛治なのよね?全く血縁関係が無いわけじゃ無く?
別の世界の存在だったとしても【瀬田 寛治】なのよね?」
芽衣子姉が質問してくる。
「うん・・・それは、間違いないよ・・・」
「皆から嫌われていたって言ってたけど、それは家族以外からよね?」
「え・・・えっと、家族からも嫌われてた・・が正しいかな?」
「「「!?」」」
「ちなみに私たちからなんて言われてたの・・・?」
表情に怯えが混じった芽衣子姉が聞いてくる。
「・・・・・・聞かない方がいいと思う・・」
「聞かない方がいいと思うことを言われてたってことね・・・
それでも・・教えて・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
長い沈黙の後に仕方なく僕は言うことにした。
「母さんからは『お前のような奴は私の産んだ子じゃない。間違っても母と呼ぶな』と言われて家ではいない者扱いされた・・・」
「そんな!?」
「芽衣子姉からは『腐ったお前と同じ空気を吸ってたら私も腐る』と言いながら大学生になってすぐに家を出て行ってたよ・・・」
「噓でしょ!?」
「加奈芽からは『オイ』とか『クソアニキ』って呼ばれてた。奴隷のように扱われてアイスを買いに行かされて、その途中の事故で死んだ・・・」
「・・・・・・・・・」
母さんと芽衣子姉は信じられないような顔で叫び、加奈芽に至っては絶望したような顔でその場にへたり込んだ。
「叩かれたり殴られたり蹴られたりしたのも1度や2度じゃない。日常的にそんなのが当たり前の毎日だった・・」
「「「・・・・・・・・」」」
「さっき芽衣子姉が手を上に上げたでしょ?何しようとしたの?」
「私は・・・ただ撫でようと思って・・」
「僕はあの時、いつものように叩かれるのかと思って蹲ったんだ」
「・・・・・・うそ・・・・」
芽衣子姉もその場でへたり込んでしまった。
「看護師さんたちに土下座したのもそういう世界で、そういう生き方だったからなんだ。
見ず知らずの人に抱き着けば性犯罪として取られてしまうのは当たり前でしょ?
だから必死に謝ってたんだ」
「「「「「「・・・・・・・・」」」」」」
「それじゃあ君の中に女性に対する忌避感はあるの?」
女性医師が聞いてくる
「女性そのものに対しての忌避感は無いですよ。ただ・・・ずっと・・前の世界でのこととはいえ、親から、姉妹からそういう扱いを受けて来たので・・・
正直に言えばこの世界の彼女たちがそうではない可能性もあると頭では理解していても、心の部分では・・・とても怖いです・・・・・」
「「「!?」」」
「そう・・・・」
呟きながら僕と芽衣子姉の間に立ち、そしておもむろに芽衣子姉を押しのける。
「ならばご家族の方は一度退室していただけませんか?」
「な、なにを言うの!?私たちは家族なのよ!?」
「その家族に対してすら・・・いえ、はっきり言いましょう。
恐らく彼の中では家の外でぞんざいな扱いを受ける時間よりも、
家族から与えられる身体や精神に対する暴力のほうが余程脅威だったはずです。
ならば今のあなた方は、今の彼にとっては『毒』でしかありません」
「「「!?」」」
「ですから退室していただけませんか?」
「蓮司・・・・・!」
縋り付くような目を向けてくる芽衣子姉。
分かってる!本当はわかってるんだ!
この芽衣子姉は、あの芽衣子姉とは違う。
きっと優しくしてくれるはずだ。
でも体に、そして心に染みついた傷はそれを良しとしなかった。
芽衣子姉からの視線に耐え切れなくなった僕は顔をそらしてしまう。
「・・・・わかりました」
と母さんが言う。
「「お母さん!?」
「聞いていたでしょ。今の寛治は私たちが愛情を向け続けた寛治とは違う。
むしろ別の世界の私たちによって暴力的な何かを受け続けた寛治よ。
寛治の表情を見ればわかる。私たちを心の底から拒絶していないことはね。
でも今の寛治に私たちは『劇薬』そのものよ。
上手くいけばこの上なく仲良くなれるかもしれない。
でも最悪の場合、なにをどうやっても修復不可能なほどの関係になってしまうかもしれないわ」
「「・・・・・・・・」」
「わかったわ・・・・今は・・・仕方ないのかもしれないわね。
でもまたいつか必ず会える日が来るって信じてるからね?寛治」
なんとか芽衣子姉だけがその言葉を発していた。
加奈芽に至っては何も言えない様子だ。
むしろ全てに絶望しているように見える。
何も言えずに部屋から出ていく母さんと妹と姉。
どんな言葉を駆ければいいのかも分からずに僕はベッドで動けずにいた。
そしてそれは、衝撃の話を聞かされた看護師二人や、女性医師も同じだったようだ。
彼女たちも動けずにいた。
何とも言えない空気が病室を満たすのであった。
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