第3話
地獄のような空間から、ほんの一瞬脱したと思いきや再び地獄のような空間へと逆戻りすることになった病室。
芽衣子姉が表情を戻し僕に近づいてくる。
そして手を上に上げた。
た、叩かれる!?
そう思った僕は咄嗟に土下座の姿勢のまま頭を抱え込んで蹲ってしまう。
「か、寛治???」
急に怯えだした僕に対して何が何だか分からないような芽衣子姉。
「か・・・母さん?」
急に呼ばれて驚いている母がそこにいた。
え?なんで?
僕に呼ばれるとすごく嫌そうな顔をしてたのに・・・
なんでそんな驚くの?
「ど・・・どうしたの?まだ痛むところでもあるの・・?」
「そ、その前に・・・母さんって呼んでいいの・・?」
「え・・・・・・・?????」
急に分からなくなった僕はふと気になってお願いしてみることにした。
「あの・・・男性医師はいませんか・・・?」
「!?何故ですか!?私共の対応に何かご不満がございましたでしょうか!?」
急に慌てだす女性医師
既に母は再び殺気の籠った視線を向けている。
恥ずかしいが彼女たちを守るためにもはっきり言わなくてはいけない。
「そ・・・その、目覚めたってことは、これから僕は簡単な検診とかあるんですよね?
失礼な話かもしれませんが、綺麗な女性医師にに見られるというのは少し・・・いえ、そのかなり恥ずかしいのです」
「き・・・綺麗・・?」
何に驚いているのかは分からないが茫然とする女性医師。
若干取り残された感の残る看護師さんが続けて答える。
「申し訳ないですが、それはできません。当院に男性医師はございません」
え!?男性医師がいない病院?
「というよりも、そもそも男性医師自体がどの地域に行ってもかなり少ないです。
男性医師に係るというのは現実的ではないかと・・・」
えええええ!?男性医師が少ない!?
「あの・・・ここは日本ですよね?」
「そ、そうですけど、そもそも男性など人口比率で考えたらとても少ないのですよ?
比率で言ったら女性100に対して男性1といったところですから」
え・・・・ナニソレ。
努めて冷静に・・・少し考えて見ればおかしなことだらけだ。
そもそも僕は本来交通事故にあったはずだ。
それに当人からしても絶対に助かることは無いような事故だったはず。
それが生きている・・・
それに今の僕には狂った目をした女性に追いかけ回されて自分から川に飛び込んだ記憶の方が鮮明に残っている。
そして体に目立った外傷は見当たらない。
だとすれば後者の方で搬送、入院したと考えるのが妥当だ。
そして男性自体が少ないという、今の日本は、どう考えても僕が知っている日本では無い。
だとすれば・・・ここはパラレルワールドというやつだろうか・・
基本的に同じ世界ではあるが、何かのきっかけで歩んできた歴史が違ってきた世界という考え方だ。
それゆえそれぞれの世界で生きている人間も違うといった考えもある。
未だに仮定の話だけで実際に証明された話ではないが、一部の学者は並行世界の存在を訴えていたはずだ。
そして僕が意識だけなのか迷い込んだこの世界は恐らくその並行世界のうちの一つなのだろう。
その世界では恐らく男性が極めて少ない世界。
だからこそ普通ならば咄嗟に抱き着いたことでセクハラだとか直ぐに言われてもおかしくないのに、困惑するだけで拒絶はなかった。
「母さん、加奈芽、芽衣子姉・・・・聞きたいことがあるんだけど・・」
「「蓮司「お兄ちゃんが私を呼んだ!?」」」
?????もしかしてこの世界の僕は家族を名前や母とは呼ばなかったのか?
ならまずはそのことから聞いてみよう。
「普段僕は皆のことなんて呼んでたの?」
「オイとか」
「クソゴミとか」
「ババアとか」
「「「そんな感じだよね?」」」
おおぅ・・・男性が希少な可能性が一気に高まった。
男性が希少という事はある意味、男性という性別自体が特権階級そのものなのだろう。
そしてこの世界の僕は多分相当なクズだったのだろうな・・・
いや、もしかするとこの世界の男性というものがそういうものなのかもしれない。
僕が知っている日本の昔の・・・いわゆる亭主関白をさらに酷くしたような関係性だったのかもしれないな。
「いろいろ・・・言いたいことができたけど、ごめん・・先に次の質問・・・・
皆にとって僕はどういう存在?」
「大切なお兄ちゃん」
「大事な弟よ」
「この命に代えても守りたい息子」
ああ・・・恐らく確定だろう・・
この世界は僕が生きてきた世界の並行世界だ。
そして何の因果かは分からないが、僕は別の世界の僕の意識に乗り移ったのだろう・・・
「そっか・・・・そういうことなんだ・・?」
「「「「「「???????」」」」」」
一人で納得した僕に対して、当然分からないことだらけの彼女達。
「えーっと?これってどういうことなの???」
芽衣子姉がみんなの言葉を代表するかのような言葉を発した。
「言っても信じられないと思うよ?」
「「「信じるわ。寛治(お兄ちゃん)のいう事なら何でも信じるって決めてるもの」」」
それなら話すことしようかな・・・
多分この人たちなら信じてもいいかもしれないし。
そう思った寛治は全てを話すことにした。
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