第233話 新居

「ほああああああでっけええええ!!」


 剛三に連れられて武藤とVtuber達が案内されてきたのは東京にある猪瀬が保有しているマンションであった。そこでみたのは20階建てのマンションである。今まで風香がいたところよりかなりお高い物件であった。高さ的にもお値段的にも。

 

「うわっ広っ!!」 


 通されたのは最上階の1フロアをぶち抜いて1つにした、ここで一番高い部屋であった。お値段約10億円。


「ちなみに元々床も壁も防音だから、よっぽど煩いことしないかぎりは大丈夫だぞ」


「すげえええ!?」


「風ちゃんこっちこっち!! ジャグジーある!! 最上階なのに!!」


「ベランダがある!! 最上階のベランダ!! あこがれだったでござるー!!」


 普段は配信中しかいわない木葉がござる言葉を使ってしまうほど、この部屋は庶民にはすごすぎた。

 

「この部屋使っていいの? 俺東京住んでないのに?」


「もう購入済みだからな。好きにしていいぞ。どうせお前の金で買ったようなものだし」


 ちなみに猪瀬は武藤のおかげで既に兆のレベルで稼いでいる。これくらい端金といえるくらいに。

 

「じゃあ風香住んでいいよ」


「ほえ? ……はあああああ!? にゃんでええええ!?」


「風香の安全の為だ。ここなら外に出なくても生きていけるから。な?」


「ああ、ここはコンシェルジュ完備で、日用品なんかも届けてくれるからな」


「マジでええええ!?」


「すげえええええ!?」


「ほ、ほんとにいいの?」


「いいぞ。俺への愛情がなくならない限り、俺は自分の女は一生面倒見るから。だから配信してもいいし、しなくてもいい。働かなくてもいいし、ずっとゲームしててもいい。ただ俺を愛してくれるだけでいい」


「ほあああ」


 風香はアホみたいに口を開けっ放しにして武藤を見つめていた。顔は真っ赤だ。ちなみに現在ここにいるVtuberである弥生、未来、木葉の3人も同樣である。春華は朝起きられなくて来られなかった。

 

「ずるい!! 風ちゃんずるい!!」


「ズルイ!! 風ちゃんズルイ!!」


 未来と木葉が同時に叫ぶ。武藤としては手を出しても全然問題ないのだが、なんというかこの2人は何故か愛というか感情が重すぎて武藤も若干引いているのである。これがある程度付き合いがあるとかならいいのだが、面識の全くない初対面から全盛期の百合並の思いをぶつけられているのである。さしもの武藤も恐怖のような感情を抱かずにはいられず、手を出すのをためらっていた。何故知らない自分に対してこんな感情を抱けるのか理解できなかったのである。しかも未だに武藤は彼女達に素顔をさらしていない。もちろん風香には朝見られている。さすがにメガネにマスクでえっさほいさできないのだ。

 ちなみに風香はそこまで重い感情ではなく、かつ直接的、肉体的な誘惑であった為に武藤は釣られたのである。だからこの2人も同じように肉体的に誘惑すれば武藤なら簡単に引っかかる可能性はあるのだが、偶然にもそういう場面が訪れていなかった。

 

 元々弥生を除く3人はコミュ障とまではいかないが、人付き合いが非常に苦手である。配信ではそんな姿を見せないが、初対面の者とこんなに積極的に接触しようとすることなどあり得ないほどには知らない人が苦手である。ではなぜ武藤にこんなにせまるのかといえば……武藤が3人から見て理想の王子様だったからである。

 

 友人の命を助け、それを自慢したりせず当然と思っている。そして若くて金持ちでイケメンで性格もよくて、自分たちが全員同時でもなんの問題もなく受け入れる甲斐性もある。こんな男を逃がせるわけがないのだ。むしろこれを逃したら今後出会う男をずっと武藤と比較する羽目になり、絶対にうまくいかないことがわかりきっていた。

 

 だからといって友人と武藤を取り合う気はなかった。今いるメンバーは非常に仲が良く、プライベートでも親友と呼べるくらいには付き合いも深い。そんな友情を壊すくらいなら男は作らないと思うくらいには大事な存在である。だが、相手が武藤ならどうか? 付き合ったとしても全員一緒に貰って貰えば、今の関係のまま続けることができるのである。この3人にとってそれは理想的なことであった。  

 

 配信者というのはただ能天気に配信だけしていればいいわけではない。人気が出れば出るほど、アンチと呼ばれる存在は増えてくるし、精神的におかしくなったり、身体的に異常が出るものが大多数である。そしてそんなに長く続けることができる商売でもない為、配信者は例え全盛期と呼ばれる状態の中でもあっても常に漠然とした不安と戦っているのだ。

 

 そんな中で現れた自分たち全員を幸せにしてくれるかもしれない理想の王子様である。それはもう狙わないわけがなかった。金でもなんでもなく幸せになりたい。ならどうするか? 愛すればいい。ということで3人は全力で武藤に気持ちが向かっているのである。コアな部分は自分たちの為であるが、利用してやろうという気持ちは全くなく、ただ純粋に本気で武藤の子供を生みたいという気持ちで接触してきている為、武藤からしたら愛されているとしか判断できないのだ。

 

 

 ちなみに風香が誘惑したのは、抜け駆けではなく、誰か1人でも手を出してもらえば武藤ならなし崩しに残りの2人も娶ってもらえるのではないかという考えである。

 

 

「たっくん、この2人もどうかな?」 

 

「!? マーちゃん神!!」


「マーちゃん大好き!!」 


 弥生の援護にまだ武藤に手を出されていない2人の目が輝く。

 

「……でもさすがに初対面の人に手を出すのは「え?」」


 驚いた顔で弥生が武藤を見て固まっていた。そしてゆっくりと風香の顔を見て、そのまま武藤へと視線を戻す。

 

「昨日初対面だったよね風香ちゃん?」


「……はい」


「昨日初めてなのに7回もしたって聞いたんだけど?」


「……そ、そんなこと……は」


 武藤がしどろもどろになりながらもなんとか言い訳しようとする。


「寝てないよね? 朝まで寝かしてもらえなかったって聞いたんだけど?」


 そういって弥生は風香に視線を向けると、風香は顔を真赤にして俯いていた。

 

「……」 

 

 武藤は昨晩、盗聴されていることも忘れて暴走していた。それは風香も同じであり、それはもう初めてとは思えない程に喘ぎまくっていた。それを盗聴していたオーナーの孫の自家発電が捗って枯れ果ててしまうほどに。

 

「で? デートより先に貫通しといて、初対面がなんだって?」


「……」


 武藤が答えられずに視線を泳がせると、件の2人が期待に満ちた瞳で武藤を見つめていた。

 

「ま、まずはお友達から――」


「なんでよ!! 風ちゃんはお友達通り越して貫通してんでしょ!!」


「い、痛くても我慢するでござる!!」


 どうしてもそっち方面に行く2人にさすがの武藤もどうしようかとお手上げ状態である。 

 

「2人とも、ここまできたらもう後は時間の問題だから。焦らずじっくりと行きましょう。大丈夫。たっくんは逃げないから、じわりじわりと攻略していけばいいから」


「それもありかもしれないわね。大人の魅力でメロメロにしてみせるわ!!」


「私もがんばるでござ――がんばります!!」


「風ちゃんこっちに引っ越したら私ら毎日来るから。っていうか住むから」


「えええ!?」


「さ、さすがに毎日は悪いでござ――悪いよ。せめて配信がないときだけにしないと」


「私達がいないときにダーリンが来てたらどうするの!! 風ちゃんだけがえっち三昧になっちゃうでしょ!!」


「えっ!?」


「……それはずるいでござるな」


「このちゃん!?」


 暴走する2人に風香と弥生も加わって場は混乱の一途をたどる。

 

「えーと、とりあえずこの家には風香と弥生が好きに人を呼んでもいいから。ただし友人だけでスタッフとかマネージャーとかはやめてね。あくまでプライベートな空間だから」


「「はーい」」


 その後、わいわいと騒がしい女性陣を尻目に武藤はその場をそっと抜け出した。そして一番狭い部屋、といっても10畳はある和室を転移部屋として、自分以外は出入り禁止として誰も入れないように魔法をかける。

 

 そして女性たちが落ち着いた後、一旦全員が自宅に戻る。武藤は風香と弥生と一緒に風香の家に行き、家の中のものを全て収納して、新しい家に転移した。秒で引っ越し終わりである。

 

「……なにこれえ!?」


「魔法」


「ま、え? ま!?」


 風香はあまりの出来事に混乱する。普通こんなにすぐに見せたりはしないのだが、既にガッツリと肉体関係を持っている為、バラすのも時間の問題だからと武藤はすぐに魔法について風香に教えた。

 

 そして風香の荷物と一緒に大きなベッドを寝室予定の部屋に置く。

 

「おっきい……」


 そういって風香は黙ってしまい顔を赤くしながら静かに武藤を見つめる。その隣には同じように静かに武藤を見つめる弥生の姿が。 

 

「……」


 真っ昼間から3人で爛れた時間を過ごすことになった。今度はしっかり撮影した。

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