第226話 悪魔2
「悪魔ってのは普通は自然に現れたりしないんだ。誰かが呼び出さない限りはね」
ちなみに異世界にも悪魔は存在する。ただ地球と同じく誰かが召喚しない限り現れない。そして地球の曖昧なものとは違い、一部には確実に召喚できる方法が確立されているくらいにはメジャーなものである。だが破滅することがわかっている為、殆ど呼び出されるようなことはない。むしろしっかりとやばいことが知れ渡っているために有名であっても逆に呼び出されないのである。
「こいつは認知型のやつだね。自己顕示欲が強いやつ。恐怖心を与えることで段々と影響力を増やしていくんだ。そして一定以上恐怖をエネルギーとして蓄えたら取り憑いたやつの体を奪う。そうなるともう終わり」
「……」
武藤の言葉に全員が静まり返っている。
「むしろ君すごいね。よくここまで生きてたね。よっぽど無関心とか、霊的な反応を気にすらしてなかったのか?」
「あー家じゃよくラップ音とかしてたし、勝手に扉開いたりとかしてたから、家族は自動ドアとかBGMとか普通に適応してた」
「メンタル強すぎだろお前んとこ。取り憑いた相手は瘴気、いわゆる悪い気配が溜まっていくんだけど、このたまり具合からすると10年は経ってるはず。つまりその間、全く恐怖とか感じていなかったってことだ。むしろ最近になってなんでって話しになる」
「あー気にもとめてなかったんだけど、最近配信仲間を呼んでオフコラボしたりしてるときに色々とあって……」
どうやら来た人全員にこの家やばいと言われたらしい。そして不思議な現象を全員が目の当たりにしていたと。
「それから段々と体調が悪くなっていったんよね」
「周りの恐怖で成長したんだろうな。なにせ取り憑いてる本人が全く怖がらないから、今まで全く成長できなかった可能性が高い。この悪魔は恐怖心をいだかれることで成長するから」
周囲の恐怖心を吸収して強くなったのだろうと武藤は予測する。
「ここまで来ると結構やばい。幸いなのはサキュバス系統じゃなさそうってことか」
「え? サキュバスとかいんの!?」
「いるよ。サキュバス系に体奪われると勝手に手当たり次第に男に股開くようになる」
「なにそれやばっ!!」
「それで妊娠すると開放される。ただ生まれてくる子供がそのサキュバスになるけど」
「マジやばなんですけど!!」
ちなみに地球ではまだ武藤は見たことがない。だが異世界では遭遇して倒したことがある。まさにサキュバスにとって武藤は天敵である。なぜならサキュバスの討伐方法は性的に満足させる、であるからだ。武藤は無限の精力を持つとされるサキュバスを気絶させることができるのである。百合にバレていたら大変なことになっていたであろうが、異世界ではサキュバスの相手は性行為ではなく戦いなのである。だから問題ない。武藤は当時そうやって割り切っていた。実際愛もなにもなく、ただ作業でイカせただけなのだ。
サキュバスに勝った場合、相手を隷属するか、それとも消すかを選ぶことができる。武藤は問答無用で消し去った。相手が百合の姿をして隷属を懇願していたのに……である。まさしく作業として処理したのだ。戦いになったこの男は本当に容赦がなかった。
「まあこいつは、もっとやばいやつだけど」
「え?」
「寄生虫型だな」
「……やばい雰囲気しかないんだけど」
「1人の時は宿主は殺さない。だけど他の誰かに宿主を殺させるか、死ぬところをみせて、今度はそいつに乗り移るんだ。だから寄生虫」
このタイプで一番有名なのはロイコクロリディウムであろう。カタツムリに寄生し、体を操ることで自らを鳥に食わせるのである。
「……え? 私死ぬの?」
「1人の時に悪魔自身は殺さない。だけど体乗っ取ったら配信中に住所バラして襲わせるとかくらいは平気でする」
「……最悪じゃん。どうすればいいの!?」
「……自殺するのが一番被害が少ないかなあ」
「ふざけんな!! 世界が滅びても私だけは生き残るんじゃ!!」
「……たくましいな」
「たっくんなんとかならない?」
「この悪魔に取り憑かれた時点でこの子が死ぬのは確定してる。この悪魔が一番怖がってるのが1人で自殺されること。こいつは他人が死の瞬間を目撃しただけで取り付けるから、一人でひっそりと死なれるのを一番恐れてる」
「じゃあ、なんで電話繋がらないようにしたの?」
「俺達をおびき寄せる為だな」
「え?」
「この子、引きこもりだろ? だから孤独死されるのを恐れたんじゃないか? だから心配するような人を選んで、呼んでから自殺して弥生に乗り移ろうとしてるんだろ」
そういって武藤は春華を見つめる。
「……」
その途端、今まで元気だった春華がまるで電源が落ちたかのように力なく肩を落とし、俯いた。
「!?」
そしてゆっくりと顔をあげると、無表情だった春華がだんだんと恐ろしい笑顔になっていく。首を傾げた状態でニヤリと笑うと、マネージャーと弥生は腰が抜けて座り込んでしまった。
「はい、そこまで」
武藤が指を鳴らすと、春華の周りに球体状の薄っすらと白い幕がはられた。
「こっちじゃお手上げだけど向こうは色々と対策が進んでるんだ」
そういって武藤は春華から気づくまもなく髪の毛を1本抜き取る。こっちとは地球であり向こうとは異世界のことである。悪魔研究が進んでいる異世界では悪魔を封じるアイテムまで開発されていた。相当強い悪魔でなければとりあえずそれで封印できるのである。ちなみに地球に召喚される悪魔は異世界から見たら雑魚レベルしかいない。
武藤は異空間から出した本を手に取り、それを開いて先程の髪の毛を挟んだ。そして春華を押し倒して、その豊満な胸の上にそれを置いた。そして春華の頭に手を置くと、オーラと魔力を流し込み始める。
「=|&%$#!!」
春華は苦しそうに言語と呼べないなにかを叫んだ。悪魔とは精神体であり、実体を持っていない。だが実はその本体は魔力を核にして存在しているのである。武藤は春華の体を自分の魔力で満たすことで、異分子である悪魔の魔力を追い出そうとしていた。武藤の魔力で満たされた春華の体に存在できない悪魔はどこにいくか? 外に出れば武藤に消滅させられるのはわかっている。だから体の延長線上にある春華が手に持った本に行くしか無いのである。
この手の悪魔は契約をしていない為、制約に縛られることがないが、その分力もない。その為、別のものに移動させることが可能である。特に本人と錯覚できるようなもので、魔力があればスムーズに移動させることが可能だ。故に封印用の本に本人の髪の毛を入れたのである。
しばらくすると本の表紙に書かれた六芒星が輝き、その中心部にある赤い宝石に光が宿った。
「これでおしまい」
武藤は本を持ち上げると春華の上から降りて立ち上がる。
「!? はるか!! はるか!!」
「はるちゃん!! しっかりして!!」
呆然としていた2人だが、気を取り直すと倒れた春華の元へと向かう。
「んんーアレ? マネちゃん? やべっ!? 今何時!? 配信の時間過ぎてる!?」
「もう、心配ばっかりさせて!!」
「あれ? 弥生? なんでいんの?」
「あなたなにも覚えてないの?」
「は? なに……誰それ!! 男!?」
ここで春華はようやく武藤の存在に気がついた。
「さっき言ってたじゃない」
「さっきもなにも今起きたのに聞いてるわけないでしょ!!」
「まさか記憶が?」
「いや、寝てたのは本当」
「え? たっくんどういうこと?」
「今まで俺等とやり取りしてたのは彼女じゃないってこと」
「「!?」」
その言葉に2人は戦慄する。それは今まで相手をしていたのは春華ではなく春華のフリをした悪魔だったということにほかならないからだ。
「だ、だって……」
「記憶を読み取るからな。話を合わすことは簡単だ」
「つ、つまり私達はたっくんがいなかったら……」
「間違いなく操られて自分を殺させたあげく体乗っ取られてたな」
「「!?」」
「こいつ何いってんの? 頭おかしいんじゃない?」
今起きたばかりで全く武藤達がなにをいっているのかわからない春華は辛辣な言葉しか出てこなかった。
「はるちゃん!! 命の恩人に向かってなんてこといってんの!! たっくんに謝りなさい!!」
「えーたっくんて誰よ」
「私の彼氏」
「ほえっ!? か、か、彼氏!? 弥生の!?」
そういって春華は武藤を見つめる。
「マスクしてるから顔わかんないけど、なんで弥生はその彼氏連れて家にいるの?」
「あなたを助けにきたに決まってるでしょ!!」
「え?」
それからマネージャーと弥生の2人は懇切丁寧に起きたことを説明するのであった。
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