第224話 反響

 ラッキー達と分かれると、武藤は即座に日本に帰り、アメリカ行きの飛行機に乗り1日後、また日本へと折り返していた。何故かといえばこれは剛三の指示である。

 

「お前忘れてないか? お前は武藤としては来ていないことになってんだぞ」


「あっ」


 言われてみればその通りであった。不法入国真っ只中なのである。あまりに普段から密入国しかしていないため、武藤はそのことをすっかり忘れていた。

 

 SNSに写真が掲載されれば入出国記録がないことばバレてしまう。その為、SNSの掲載を少し遅らせてもらい、アリバイ作りをしているのである。

 そもそも写真を載せるなと一言言えばいいだけなのに、嬉しそうに写真を撮るラッキーとスティーブを見て武藤は何も言えなかったのである。


「まあそれくらい、いくらでももみ消せるけど、貸しは残しておいたほうがいいから」


 剛三にそういわれ、武藤は飛行機の人となったのである。ちなみに現在猪瀬はとんでもないところにぶっといパイプがある為、下手したら犯罪者相手なら殺人すらもみ消せるレベルだが、それを作った当の武藤本人がそのことを知らなかったりする。そもそもその辺りにあまり興味がないのだ。

 

 そして、写真が掲載されるまでの間、武藤は各国を仕事で飛び回っていた。そして1週間が過ぎた頃、スティーブンのSNSで件の写真が掲載された。

 

 

 

 

 

「どういうことなんだ!!」 


「そんなこと俺に言われても……」


 朝から恩師からの電話に悩まされていたのは、武藤の中学時代バスケ部顧問であった山岸である。

 

「何故NBAに……まさかグリーンカードを……」


 これはスティーブンがSNSにアップした写真のせいである。もちろん大ニュースとなっており、それを知った室井が驚きのあまり山岸に電話をしたのである。何故かと言えば、現在夏休みである為、学校に連絡がつかず、しかも武藤の携帯番号もしらない。ならばと何故か山岸に電話をしたのである。

 

「んん……先輩どうしたんですかあ」


 ベッドの上で裸で電話をしている山岸の隣で、一糸まとわぬ姿の山岸の後輩、咲が目を覚ました。つまり……そういうことである。

 

「しー!!」


 山岸は口に指を当て、必死に声を出すなとアピールする。

 

「ん?」


「聞いとるのか山岸!!」


「はいはい、聞いてますよ先生」


「!!」


 そこで咲は気がついた。電話の相手が自分の父であることを。そこでいたずらを思いついた。

 

「!?」


「どうした?」 


「いえ、なんでも……ないっです」


「それで、武藤からなにか聞いてないのか?」


「聞くもなにっもっあってなっいです」


「そうか……お前からも武藤に頼んでくれんか。お前の話なら聞くかもしれん」


「そんなあまいやつじゃっないですよ」


 山岸は必死に何かに堪えながらも会話を続ける。

 

「それでも可能性がある。武藤に一度会いに行ってくれんか?」


「まあ、それはいっ!? イキます!!」


「そうか!! 頼んだぞ!!」


 そうって室井は電話を切った。

 

「……咲?」


 山岸の視線の先、山岸の股間にうずくまっていた咲が顔を上げる。そして何かを飲み干すようにごくりと喉を鳴らして上目遣いに山岸を見る。

 

「一番搾りですね」


「このっ!!」


「きゃっ!!」


 この後、昼まで延長戦することになった。既にバカップルとなっている仲のいい二人であった。

 

 

 






「どういうことだ!!」


「どうと言われましても」


「サッカーではないのか!!」


 サッカー協会会長、金元は1人憤慨していた。件のSNSで武藤がNBAがプレーヤーと一緒に映っていたとして話題になっている件だ。

 

「あっちの方はどうなってる?」


「さすがに刑務所では難しいらしく、まだ下準備中とのことです」 

 

「ちっ」


 インターハイが終わってまだそこまで経っていない。金元もさすがに自分が無茶を言っている自覚があった。

 

「あいつさえ消せば、冬の大会に出ていなくともインターハイの結果として選抜に呼べる。そうすれば……」


 とらぬ狸のなんとやら。金元はなんやかんやいっても武藤が選抜に来るものだと思っている。だが舐めた相手は絶対に許さない男というのは理解している為、件の男の処理が必須だと思っているのである。


「早くなんとかしないと……」


 まさか既に本人はサッカーを引退しているつもりであることは知る由もなかった。








「武くん大変なことになってるねえ」


「え?」


 仕事が一段落し、日本に帰って束の間の平穏を楽しんでいると、武藤が帰ってきたことを知り恋人達が武藤宅へ集まってきた。そして香苗の開口一番のセリフがおかえりではなくこれである。

 

 TVをつけてみるとニュースがどれもこれも武藤一色であった。

 

「……なんだこれ?」


『見てください。あのハンマーズのスティーブン・カレーラス選手のSNSに武藤くんが出ているんです!! しかも未来のハンマーズのエース達っていうコメント付きで。どう思いますか九重さん?』


『そうですね。NBAが既に武藤くんに接触しているという噂はありましたが、今回の件でハンマーズが既に水面下で武藤くん本人とあっているというのは件の写真からしても間違いないですね』


『これはNBAの規定としては大丈夫なのでしょうか?』


『会っているだけですからね。しかも未来のエース達とはいっても誰とは書いていませんから。それにあくまでNBAは19歳以降にドラフトを経由して入ることになりますから、今接触したところであまり意味がありません』


『しかし、武藤くんといえばサッカーでは?』


『中学時代のバスケも相当でしたよ。アメリカの高校生ですらどこかプレイに拙さを感じるものですが、中学時代ですら武藤くんにはそれがありませんでしたらからね。まるでNBA選手のプレイを見ているようでした』


『では今後は――』






「なあにこれー?」


 武藤は混乱していた。

 

「SNSのトレンド独占してるよ。彼は一体何者だって。特に海外で」


 武藤は知らなかった。まさかスティーブン・カレーラスがフォロワー2000万人もいるということを。2000人ではない。2000人である。ちなみにアレックスは1億人超えていたりする。

 

「それで中学の頃のバスケとか最近のサッカーとかの動画が海外にバレて大変なことになってるねえ」


 スマホを見ると何やらスティーブとラッキーから通知が来ていた。

 

「……読めん」


 武藤は言葉はわかるが文章の英語はわからないのである。 

 

「えーっとお前サッカーに行くのか? 嘘だよな? ってのがスティーブさんて人。勝ち逃げする気か? 来年のU17ワールドカップで勝負するっていったじゃないか!! ってのがラッキーって人デス」


 武藤は恥ずかしげもなくクリスに通訳してもらった。

 

「そんな約束してねえ」


 あれからラッキーにはさんざんお礼を言われただけであり、スティーブからは絶対に来いよ。待ってるからなと、ものすごく念押しをされたぐらいである。もちろん武藤は返事をしていない。


「あっ後、酷いじゃないかタケシ。今度一緒に写真とろうぜってお兄ちゃんからもきてマス」


「やだよ。なんでそんな酷いマネできるんだ」


 武藤曰く、アレックスは世界一イケメンの男である。男ですらそう思うレベルのイケメンが隣に一緒に写る。もはやいじめを通り越して拷問である。同じレベルの美形かインフルエンサーになりたいやつでもなければ無理だろう。どう考えても引き立て役にしか成れないのだ。


「私はタケシのがいいデス」


「そりゃ兄妹だからな」


「兄妹じゃなくてもタケシのがいいデス」


「ありがとな、クリス」


 そういって武藤は気遣ってくれるクリスを膝の上に置き、頭をなでくりまわした。



 

「いろんなところに飛び火して世界中が大混乱だよ」


 香苗の話を聞けばスティーブのSNSに反応したヨーロッパの各サッカーのクラブチームが武藤はうちに来るべきだ、サッカーをやるべきだ等と対抗したコメントを発表しているらしい。それ以外にもハンマーズ以外のNBAチームがハンマーズは青田刈りをやめるべきだとのコメントを発表したり、何故か日本プロ野球連盟からはあの才能は野球をするべきとのコメントがあがっているそうだ。


 15歳の人物を複数の競技で取り合う、ましてやプロチームが牽制し合うなど前代未聞であった。こうして日本だけでなく、世界に武藤武の名が知られることになった。

 

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