第214話 ブレイバー再び

「あー武藤。すまんがすぐにイタリアに飛んでくれ」


「ふざけんな」


 漸くサッカーから開放され、自宅でのんびりと夏休みを満喫していた武藤に剛三から電話がかかってきた。

 

「緊急の要件だ。かなりでかい山なんだ!! 頼む!!」


「なんなんだ一体」


 あまりに必死に頼む剛三に武藤は渋々とだが要件を聞くと、どうやら相当やばい案件のようであった。なんでもイタリアにあるアメリカ大使館がテロ組織により占拠されたとのこと。その中に偶然大使館を訪れていたある人物がおり、それの救助が依頼のようであった。

 

「デルタでもHRTでも要請しろよ。その為の組織だろうが」


「イタリアに行くまでにかなり時間がかかるからな。お前ならすぐいけるだろ?」


「直ぐって行ったって一番近くの転移ポイントだってイギリスだぞ?」


「それでもアメリカや日本から行くより早いだろ」


 日本からなら直行便でも12時間である。ニューヨークからでも8時間近くかかる。武藤ならイギリスから文字通り空を飛べば2時間もしないで到着できるだろう。

 

「うちはいつから人質救出なんて仕事やるようになったんだよ」


「お偉いさんからの要請なんだ。どうやらうちにはなんでもできる魔法使いがいるって話しが広まってるらしい」


「それを信じてんのかよ」


「信じるに足る実績があるだろうが」


 不治の病を治したり、欠損した四肢を生やしたりと、この男無自覚に結構世界中でやらかしている。


「人質救出とかしたことないだろ。治療と一緒にすんな!!」


「それでもお前ならできるだろ? 人質は若い女性だからな。遅くなればどんな目にあうかわからん」


「……仕方ねえなあ」


その一言であっけなく武藤は折れた。


「すまん。マップの座標は送っとくから。頼んだぞ」


 武藤は言われるがままにイギリスに飛び、そしてすぐさまイタリアへと向かった。ちなみに連絡があったのが夕方であるが、イタリアはまだ昼前であった。

 

(あれか)


 ちょうど正午になる頃、武藤はイタリアにあるアメリカ大使館の上空へと到着していた。大使館の周りは警察が囲んでおり、すでに緊張感が漂っている。

 

 物々しい雰囲気を他所に武藤は姿を消したまま屋上へと降り立ち、そこから中へと侵入した。武藤に壁などは無意味である。なにせ空間をつなげることでいわゆる通り抜けフープを作り出すことができるのだ。

 

 

『やめなさい!! こんなことをしてただで済むと思わないでよ!!』


『威勢の良いお嬢ちゃんだ。何言ってるかさっぱりわかんねえけど』



 下の階から声が聞こえてきたが、どうやらお互いの言葉は通じていないようだ。武藤はしゃべっている意味はわかるが、何語を喋っているかまではわからない。

 

『いやあっ!! やめて!!』


 叫ぶ女性の声の元へと武藤は急ぐ。姿を消して声がする部屋の中に入ると、銃を持った男たちがおり、何人かに抑えこまれた女性が、今まさに襲われている真っ最中であった。職員らしきもの達が一箇所に集められているが、誰もそれを止めようとはしていない。相手が銃を持っているから仕方がないことではあるが、武藤は一人血まみれで倒れている男の姿を見て、納得した。まだ動いているので生きてはいるのだろうが、おそらくそれが止めようとした者の末路なのであろうと。

 

「変身」


『ん? なん――』


『ごはっ!!』


 押さえつけていた男たちは壁へと吹き飛んでいった。

 

『だ、誰だ!!』


 いつの間にが女性の前には男が立っていた。

 

『え? 誰?』


『てめえは誰だ!!』


「仮面ブレイバーウィザード」


『!? ほ、本物なの!?』


『はあ? 何いってんだこいつ? ヤク中か?』


 アメリカ出身である女性はすぐに思いあたり、一方テロリストはその正体が全くわからなかった。そして職員に混じって一人笑顔で武藤に手を振っている男がいることに武藤は気がついた。

 

(なにやってんだあいつ)


 武藤は気がついていたがあえて何故かここにいるアレックスを無視した。

 

【healing!!】


武藤はすぐさまカードを使う。


『ん、んん』


『ジェイク!!』


 血まみれて倒れた男が意識を取り戻し、起き上がろうとする。

 

『おれは……』


『お前撃たれたんだぞ!! 大丈夫なのか!?』


 男は腹を撃たれたようだったが、制服は血まみれなのに全く傷も痛みもないことに驚く。

 

『ば、馬鹿な!! あの傷で何故動ける!?』


 それは致命傷でないが、すぐに出血多量で死ぬだろう傷であった。即死させなかったのは、段々と死んでいく仲間を見せることで恐怖心を与えるためである。

 

【aegis!!】

  

 武藤はすぐさまカードを追加すると、その瞬間凄まじいまでの銃弾が武藤へと撃ち込まれた。その場に見える十数人のテロリストの男達から撃たれまくるも、それらは全て武藤の前にある透明な壁に防がれ、銃弾は全て宙に止まったままであった。

 

『なんだ……何が起こってる?』


【accelerate!!】


 武藤がカードを入れた次の瞬間、その場にいたテロリストは全て倒れた。超スピードで武藤が全員の両手両足を砕き、腹パンしたのである。何故漫画やアニメにあるような首トンをしなかったかといえば、以前異世界にいた時、盗賊相手にやったら即死してしまった経験があるのである。フィクションのように首をトンと叩いて気絶なんてあるわけなく、3人にやって普通に3人とも即死であった。それ以来、武藤は掴む以外で首へと攻撃をしていない。


 武藤は魔法で建物内の気配を探ると、まだ武装した者たちが十人以上いることに気がついた。

 

「ここを動くなよ」


 武藤は人質達にそういうと一人、テロリストたちを殲滅にいくのだった。


 それから5分もせずに武藤はテロリストを全員四肢骨折させ、ついでに武器を破壊すると人質たちに全て倒したことを告げ、すぐさまその場を後にした。

 

『私のヒーロー……』


 後には映画俳優であるアレックスが隣にいるにもかかわらず、謎の仮面男を思い顔を赤らめる女性の姿があった。

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