第209話 命名
『さあついに始まりした。全国高等学校総合体育大会。インターハイの全国本戦となります。実況は私、坂本、解説は元Jリーガーの大野さんでお送りします。よろしくお願いします』
『よろしくおねがいします』
『いやあ、ついに始まりましたね』
『ええ、まずは無事に始まって安心しましたね』
『そうですね。いろいろなことがありましたからね』
『とりあえずは武藤選手が無事に出場できて良かったですよ』
『本当にそうですね。今大会は武藤選手目当てっていう人も多いのではないでしょうか?』
『多いと思いますよ。あの東方をPKすら含めて無失点ですからね。あの戦いはもうTVで何度流れたかわからないくらい放送されてますから。高校のしかも地方予選ですよ? こんなこと前代未聞ですよ』
『たしかに。私も同じようなことは記憶にありませんね』
『高校の地方予選の戦いのおかげで空前のサッカーブームが来るなんて誰が予想できますか?』
『今、サッカー教室とかすごいことになってるらしいですね』
『高校生の武藤選手や小野選手に憧れる小中学生が大量に出てきているらしいです。2人はもういわばサッカー界のアイドルですよ』
『すごい時代になりましたね』
『それだけあの2人の戦いは見る人の目を引いたのでしょうね。素人でもわかるすごさでしたから』
『確かにすごかったですからね』
『子供の頃にあこがれたプレイそのままでしたからね。それを楽しそうに2人でやってるのを見たら自分もって気持ちにもなりますよ。私が子供の頃に見てたらきっと同じように思っていたでしょうから』
『その夢を現実にして海外リーグに行っていた大野さんでもですか?』
『私にはあそこまでの才能はありませんでしたから。あそこまでできるときっと楽しいんでしょうね。私はもうついていくのがやっとでしたから。毎日ひぃひぃ言っていましたよ』
そう言って笑っていはいるが、大野は怪我をするまではヨーロッパの1部リーグでスタメンを張っていた程の実力者である。
『その大野さんが羨む程の才能持つ武藤選手と小野選手ですが、事前に得た情報によりますと、なんでもあの決勝の後に練習試合をして、東方に2対0で中央高校が勝っているとのことですが、いかがでしょう?』
『私も話に聞いただけなので詳しくはわかりませんが、中央が勝ったというのは事実のようです』
『あの天才対決はまたしても武藤選手に軍配があがったということでしょうか?』
『小野選手がフル出場していたかが不明ですのでそこまではわかりませんね。ただ、東方が2点を取られているという事実の方が大きいでしょう』
『決勝では東方のDFラインは全く崩れませんでしたらからね』
『あれを崩したとなれば中央のFW陣は相当練習してきていると思っていいでしょう』
『その辺りにも注目が集まります。まもなく1回戦の10試合が各会場で同時に行われます。中継はここアロマフィールドで行われる中央高校対帝都長丘高校の1戦をお送りします。1回戦なのにご覧の通りの超満員です』
『1回戦でここまで人が入ってるのは初めてじゃないですかね』
『武藤選手人気でしょうか?』
『そうですね。女性客が非常に多いですから、その可能性も大いにありますね』
『先ほど武藤選手が観客席に手を振ったら黄色い声援がそれはもう絶叫のように響き渡りましたからね』
『あれはすごかったですね。ハウリングしたみたいに耳がキーンとしましたよ』
武藤は観客席に見つけた恋人達に手を振っただけである。恋人達は猪瀬の車で会場である福島県までわざわざ来ているのだ。ちなみに応援したい人達は猪瀬がチャーターしたバスにて無料で送迎している。中央高校の学生に限り大会中は宿泊施設も無料で提供されており、まさに至れり尽くせりであった。その為、多くの中央生徒(ほぼ女子)が会場へ応援に駆けつけていた。
これは武藤だけの応援ではない。現在サッカー部は全国出場ということもあってメンバー全員がモテ期であった。特に小林、菅野、真壁等はルックスも実力も相まり非常に人気があるのだが、本人たちはそれ以上に現在、サッカーが楽しいために女にかまっている暇はないとばかりに練習に明け暮れていた。それがまたストイックだと女子人気に拍車をかけるというループ状態に陥り、現在に至っている。
「こんなに応援に来てくれるなんてなあ」
「こんな所まで来てくれた人達に情けない姿は見せられないな」
そんなことを知らない本人達は気楽なものであった。
「後半に同点か負けている状態にならない限りメテオとライトニングは使わないでおこう」
「了解」
真壁の提案に全員が賛同する。ちなみにメテオはもちろんオペレーション・メテオのことであり、ライトニングとは武藤が名付けたノートラップでの高速連携、ライトニング・コンビネーションのことである。もちろん武藤以外の全員が反対したのだが、提案した武藤の悲しそうな表情を見た真壁がこれに決定したのだ。そもそも武藤は無償でここまで協力してくれているのである。自分たちは何一つ恩を返せていないのに。なら名前くらいは武藤の好きにさせてやろうという真壁の意見に全員が賛同した形である。武藤はといえば自分の命名が採用されて稀に見る上機嫌であったらしい。
ちなみに名前は単に武藤がかっこいいと思った単語をつなげただけであり、深い意味はなかったりする。候補としてはライトニングボルト、サンダーボルト等何故か雷関係ばかりがあったが、最終的にやっぱサッカーならコンビネーションでしょ、という謎の論理でライトニング・コンビネーションとなった。ドヤ顔で名前が採用されたことを恋人達に報告した際には、何故か全員から温かい目で見られ、非常にやさしくされたという。
「??」
武藤は理由がわからず、終始首を傾げていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます