第208話 成果

 試験も終わり、ついに夏休みに入った。武藤はといえば仕事をしつつも空いた時間に律儀にサッカー部の部活に参加している。

 ちなみに異世界の状況だが、最近はエドの訓練くらいにしか赴いていない。何故かと言えば……ついに全員孕ませたからである。

 

 女帝も女王も安定期まではリイズの城でお世話になると、まるで自宅のように寛いでいる模様である。同じ男の子供を孕んでいるせいか、話も合うようでまるで気の合う友人のようにリイズ達とも仲良く過ごしているようだ。

 

 こうなると武藤の出番はもう終わったも同然であり、たまに赴いてエドのついでに暇を持て余している10剣や7爪の相手をするくらいである。ちなみに全員容赦なくコテンパンにしている。

 

 

 そして夏休みに入るなり、ついに東方高校に練習試合を申し込んだら即日OKをもらい、東方にお邪魔すると1軍がフルメンバーで待ち構えていた。

 

「武藤!! 今日こそゴールを奪ってやる!!」


 中でも小野が一番やる気に満ち溢れていた。

 

「おっ?」


 そして練習試合が始まると、小野が驚いた。中央高校DF陣が自分を止めてくるのである。それもそのはずで、DF陣はあれからずっと武藤の小野コピーと戦い続けてきたのである。癖も動きも完全再現している為、新しい動きをしない限りはその動きは完全に見切られていた。

 

「こいつら!?」


 あれから1ヶ月も経っていないというのに信じられないほどDF陣は上達していた。武藤という常軌を逸した天才がつきっきりで訓練してきたのである。もちろん体幹も武藤直に鍛えられており、それぞれがかなり安定している。その結果、成長してきた力が漸く己の力となったように実を結び始めたのであった。

 

「嘘だろ……」


 東方高校オフェンス陣も驚いていた。あの小野がシュートまでいけないのである。たまに窮屈そうに無理やりシュートを打てば武藤の真正面であった。完全にシュートコースまで含めてコントロールされているのである。 

 

「!? 下がれ!!」


 そしてそれは起こった。シュートを止めた武藤から放たれたパントキックが相手の奥深くまで飛んでいったのである。

 

 それはキレイにカーブを描きFWの鈴木の元へと到達した。そしてそこからダイレクトに後ろに流すとそれをさらにFWの陣がダイレクトで横へと流す。そしてそれはDFを躱すように再び鈴木に渡りると、鈴木はそれをダイレクトにシュートへとつなげた。

 

「!?」


 それはまさに電光石火ともいうべき速攻で、わずか4タッチでゴールへと結びついた。中央高校が東方から始めて奪った得点である。これが完成されたオペレーション・メテオであった。とはいえここまで完璧にできるのは5回に1回くらいであるが。

 

「全部、ダイレクトだと!?」


 中央高校FWの陣は誰1人トラップをしないのである。あまりの展開の速さに東方高校DFを陣は全くついていけなかった。

 

 防げないオフェンスと完成されたディフェンス。たった1ヶ月の間で中央高校はフロックではなく、ほんとうの意味で全国出場できるような屈指の強豪チームへと成り上がっていた。

  

 いくら天才小野としても完全にメタられた状態では思うようにプレイができなかった。何ぜ完全に小野に特化して訓練してきたのである。新たに使うようになった技も「黒子ターン!!」「黒子スピン!!」「バンジーガム!!」などと言いながらDF陣に潰されたのである。それは武藤が調子にのって小野コピー時につかった為であり、完全に武藤のせいであった。

 

 結局、中央は東方相手に2-0で勝利した。人はやる気があればどこまでもやれるということを証明した結果となった。

 


「次は絶対お前らに勝ってやるからな!!」


 小野はライバルの対象が武藤だけだったのが中央高校サッカー部になった。これにより小野は武藤以外の存在を有象無象だと舐めるということがなくなる。これは後に小野の成長へとつながることとなった。

 

 

 

 

 

 

「勝った……」


「練習試合とはいえ俺達があの東方に……」


 これまでただ武藤に蹂躙され続け、自分たちの実力を把握できていなかったメンバーも漸くその成長を実感した。

 

「あのセパタクローもバランスボールの上を走るのも無駄じゃなかったんだ」


「地面の上が安定しすぎて逆に怖いなんて思う日が来るとは思わなかったぜ」


「船乗りが陸に上がった時の気持ちがよくわかったな」


 武藤は体育館の一区画にスポンジの壁で囲った場所をつくり、マットを敷きそこに小さいバランスボールを敷き詰めてその上を移動させて体幹を鍛えていた。転ぶ時は足だけはかばえと言っていたため、足を怪我するものは居なかった。

 しかも武藤はそのままバランスボールの上で部員たちにリフティングとパス回しをさせていたのである。ちなみに現在も部員たちは出来ていない。が、その特訓の成果か地上でのボールさばきは格段に安定度があがっていた。 

 

 難易度は異常だが基本遊び感覚でできる為、ここは昼休みには非常に人気の場所となっていた。ちなみにもちろん学校側に許可はとってあり、授業で使う際にはちゃんと片付けが義務付けられている。

 

「なんで小野本人は止められるのに武藤は止められないんだ?」


「練習中は小野Ver1.5だからな」


「……どういうこと?」


「当人の1.5倍の早さ」


「ふざけんな!!」


 DF陣4人の声が揃った。

 

「それでなんか遅いと思ったのか!!」


「しかしあまりにも練習通りに来るものだから、ちょっと小野に同情しそうになったぞ」


 武藤は決勝で後半丸々小野に攻められたため、非常に多くの情報を得ていた。その結果、武藤の小野コピーはまるで本人かのように武藤にシミュレート再現されていたのである。ちなみに無回転シュートも習得し、現在小林に猛特訓させている最中である。

 

「オペレーション・メテオも大分成功するようになってきたな」


 4壁をDFにして、武藤のパントキックから残りの6人で攻めるという練習が、今中央高校で一番行われている練習である。それでも漸く成功率が20%であり、求められる難易度が如何に高いかを物語っていた。

 

「攻めて5割は決めたいところだが……」


「そこは練習しかないだろ」


 東方相手にも得点ができ、オフェンス陣は非常に手応えを感じていた。

 




 そしてついにインターハイ本戦の日が訪れた。




――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


※メタる:完全にその相手特化で対策をしてくること。カードゲームで例えると相手が火属性しかデッキに入っていないことを知っていた場合に火に有利な水属性ばかりのデッキを作って戦う感じ。

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