第204話 黒子

「ワシは諦めんぞ武藤!!」


 その後、あっけなく武藤に袖にされ、未練がましく叫びながら室井は強制退場させられていった。


「まだ2ヶ月以上あるから、それまで考えておけばいい」


 中林の言葉に武藤は頷き、応接室を後にした。ちなみに中林も室井の教え子であるため、強くは言えないようであった。

 






「何やってんだあいつら」


 今日は試合翌日ということもあってサッカー部の練習は休みのはずであった。その為、インタビューという形式で配信用撮影を行う予定だったのだが、武藤がグラウンドに行くと普通にサッカー部の面々は練習を行っていた。

 

 

「今日休みじゃなかったのか?」


「ああ、本当なら休みだったんだが、お前以外のメンバーは試合にんだ。だから練習してる」 


「??」


 武藤はキャプテンの真壁が何をいっているのかわからなかった。だが昨日、石川原の話を聞いていた武藤の後ろにいる恋人達にはそれが理解できていた。戦いに参加できなかった。ということだろうと。

 

 ちなみに普通に会話をしているが、現在武藤の頭部は黒子の格好である。

 

「おい、武藤!! 練習付き「ソオイッ!!」ぐはっ!!」


 手を上げて気楽に声をかけてくる小林に武藤は問答無用で飛び蹴りをかました。

 

「なにするんだ!!」


「私は黒子。かつてニュータイプと呼ばれた者」

  

「誰だよ!! つーかニュータイプってなんだよ!!」


「人類の革新だ。決してスーパーパイロットではない。いい加減にしないと黒子乱舞かますぞ」


「何を言っているのかさっぱりわからないが、恐ろしいことをされるということだけはわかった」


「簡潔にいうと黒子の格好をしている時に名前は呼ぶなってことだろうねえ」


「なるほど!!」


 さすがに恋人は武藤のことをよくわかっていた。たとえネタがなんなのかわからなくとも。

 

 真壁が襲われなかったのは単に名前を呼ばれなかった為である。

 

 

 


「仕方ない。お前には昨日あいつをみて思いついた技を教えてやろう」


「おおっ!!」


 そういって武藤は小林からボールを受け取り、ドリブルする。

 

「よっはっ」


「……」


 武藤は軸足の後ろにボールを通してきれいに小林を抜き去った。 

 

「ふふふっこれぞ黒子ターン!! 軸足で守ることにより「クライフターンな」え?」


「くろ「クライフターン」」


「……ならば次だ!!」


 今度はドリブルしながら一旦ボールを止め、すぐさま反対の足で転がしながらくるっとまわって小林をかわした。

 

「ふふっ名付けてくろ「マルセイユルーレットな」……スピン」


「……こ、これはどうだ!!」


 今度はボールを一旦外側に蹴り出したように見せかけ、そのままボールが足元に吸い付いたかのようにすぐさま内側に切り替えした。

 

「まるでゴム紐でもつけているようだろ? 名付けてバンジーガ「エラシコだな」……ム」


 しばらくじっと見つめ合っていた小林と武藤だが、武藤は顔が見えないにもかかわらず、明らかに落ち込んだ様子で肩を落として狐面を被っている真由のところに行き、その豊満な胸に無言で顔を埋めた。

 

「よしよし、がんばったんだねー。超かっこよかったよ」


 武藤は真由の胸に顔を埋めながら、黙って頭を撫でられていた。

 

「落ち込んだダーリン可愛い!!」


「落ち込んだタケシかわいいデス!!」


「順番!! 真由さん順番ですわ!! 次は私ですわよ!!」


 何故か恋人達からは落ち込んでいる武藤は大人気であった。普段が自信満々な為、そのギャップにやられているのだろう。たまに武藤はポンコツになるのだが、それも含めて恋人達はぞっこんなのである。

 

 

「なんで俺が負けた気分に……」


 小林は初めて武藤に勝利した感じだが、気分は完全に負けたものであった。

 

「……」


 一方で、勝負を見ていた真壁は一人戦慄していた。武藤は昨日あいつを見て思いついたと言っていた。つまりたった1日で自分で開発したのだ。を。サッカーの素人である武藤が。その事実に気が付き、真壁はなんて男と同じ時代に生まれたのだと、神に感謝すると同時にそれが同じチームに居ることへのプレッシャーを感じざるを得なかった。

 

 

 

 その後、武藤が使い物にならなくなってしまった為、撮影は後日ということでそこで終了した。ちなみにサッカー部は練習を続けている。

 

 帰ろうとすると案の定、校門前にはマスコミが多数ウロウロとしていた。中には取材を受けている生徒もいるようだ。

 

「正門はやめとこうか」


 洋子の提案で武藤達は裏門から帰ることにした。こちらにはマスコミはいないようで、武藤達は裏に回してもらった猪瀬の車で無事に帰ることが出来た。

 

 

 

 家に帰ると武藤は恋人達に慰めてもらっていた。落ち込んでいた武藤であったが、制服を着たままの恋人達にご奉仕されて元気を取り戻した。特にクリスと美紀のモデル2人に制服のままお口でご奉仕されているのをスマホで撮影しているときはあまりの興奮にそのまま襲いそうになってしまうほどであった。

 

(とてもいい絵が撮れたが誰にも見せれんな)


「別に見せてもいいよ?」


「!?」


 何故か武藤が考えていることが美紀にはバレバレであった。

 

「別に裸が映ってるわけじゃないし、お口でしてるとこなら別にどうってことないっしょ」


「ワタシも別にいいデス。ワタシがタケシのモノって証明ナリマス」


 モデルの2人は思いの外、性にオープンであった。

 

「あら。なら私もしますので撮影してくださいまし」


 そういって綺羅里が武藤のアレにむしゃぶりついてきた。

 

「じゃあ次私ね」


「そんなにいうなら私もやろうかねえ」


 気がつけば何故か今いる全員の撮影会となっていた。ちなみに瑠美だけ部活で参加していなかったが、それ以外の全員の撮影が行われた。

 そこでみんな平等にするべきとの香苗の提案があった。なんの疑問も持たずにその意見に肯定してしまった武藤はその後、後悔することになる。それは「クリスと美紀は飲むところまで撮影している以上、全員そうするべき」という香苗の恐ろしい罠であったのだ。真由の弟である幸次がくるまでの時間で10回以上も出す羽目になった武藤は、昨日の決勝戦どころではない程の疲労困憊となるのであった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る