第195話 オペレーション・メテオ(サッカー7)
後半になり、中央高校の面々は緊張からの硬さがとれ、漸く動きにらしさが出るようになった。とはいえ基本は守り主体のチームである。攻められる時間はあまり変わっていなかった。
そしてそのまま両者得点がとれないままに残り10分。ついに試合が動いた。
『ああーっとここで倒された!! これは……フリーキックになりますね』
『直接フリーキックですね。中央付属はチャンスですよ』
今まで鉄壁のディフェンスをしていた3年の4壁のうち折壁がファールをとられたのである。必死に触っていないアピールをしているが審判の判定が覆ることはなかった。
「なんでだ!! 触ってないのに!!」
憤る折壁だが武藤から見てもアレは足が触れておらず、いわゆるダイビング、シミュレーションと呼ばれる行為であった。
「チャンスだ」
「え? 武藤?」
「いくぞ。オペレーション・メテオだ!!」
「!?」
「ま、マジでやるのか?」
「小林、お前ヒイロな」
「誰だよ!!」
「任務了解っていって自爆するやつ」
「ふざけんな」
軽口をたたきあうことで折壁の憤りとチーム内に漂う暗い雰囲気は収まり、何故かチームには笑いが起こっていた。
「すまん武藤」
「何が?」
「俺がファールを……」
「何言ってるんだ。当たってないだろ」
「え?」
「アレはシミュレーションだよ。引っ掛けられた芝居してんだよ」
「!? あいつ!!」
「みんなに言っておくけど、ファール扱いされても審判には食ってかからないこと。退場したらこの大舞台に1年が出ることになるんだぞ? お前らですら緊張して動けなかったのに1年なんか出たら死んじまうぞ」
「確かになってお前も1年だろうが!!」
「それはまあいいとして、壁はいらないんで守備は全員マンツーマンでついてくれ。壁はあると見えないから邪魔なんで」
「……わかった」
『さあ、中央付属高校絶好のチャンスです。果たして均衡をやぶれるのか』
『武藤選手はフリーキック初めてですからね。どう対処するのか注目です』
『さあ、キッカーが準備に――おおっと、壁がありません。中央高校大胆な作戦にでました。誰も壁を作りません』
『武藤選手への絶対の信頼でしょう。むしろ邪魔になるとして無くしたのだと思います』
『中央付属、キッカーは安藤選手。これは直接ゴールを狙いに行くようですね』
『距離的にもペナルティエリアの外とはいえ近いですし問題ないでしょう。それも遮るものがない状態ですから絶好の得点チャンスですね』
安藤は予選で2本のフリーキックを決めている中央付属のFKスペシャリストである。その安藤が壁のない絶好の距離で蹴られるのだ。中央付属としてはあまりのチャンスに選手たちは顔がほころんでいる者もいた。だからこそ気が付かなかった。中央高校のメンバーの動きに。
『ここで安藤選手豪快にシューあああっと、止めたあああああああ!! またしてもワンハンドキャッチ!! 右でも左でもお構いなし!! ゴール右上隅に飛んだボールを左手1本でああっ!! 蹴った!! 武藤選手着地と同時にボールを大きく前線に蹴り出した!! しかも既に中央高校の選手達は走り出してる!! これはオフサイドには?』
『なりませんね。オフサイドはあくまで敵陣でのルールです。中央高校の選手たちは武藤選手が蹴るまではセンターラインより手前にいましたから』
『つまり自陣内なら相手チームの最終ラインを超えていても問題ないと?』
『そうでなければ相手ゴール前に一直線で並ばれたらボール蹴られませんからね』
『確かにそうですね。中央高校5人の選手が一斉に走り出していますがこれは!! ボールが曲がっていく!! 風の影響でしょうか、パントキックで打ち上げられたボールがライン際からどんどん中央に流されていきます!!』
それはまさに隕石のように高高度から前線へとボールが落ちていく。一気にゴール前まで飛んだボールは2年生フォワードの鈴木が後ろを振り向いてノートラップで斜め後ろへと流した。そしてそれを走り込んできた小林が豪快にノートラップで蹴り込む。ドライブのかかったそれは飛び出して鈴木に迫っていたキーパーの頭上を超え、バーの内側にかすりながらもゴールネットを揺らした。
『ゴーーーーーーーーーーーーール!! 中央高校先制!! 後半残り10分を切ってここで勝ち越しゴール!! まさに値千金のゴールは1年の小林!! 大ピンチを一気にチャンスに変えそれを見事に1撃で仕留めました!! まさにスーパーゴールです!!』
『いやあ、見事という他ありませんね。トラップしていたら飛び出してきたキーパーに止められていたでしょう。それを一瞬で判断して後ろ流した鈴木選手もそれを見て直接決めた小林選手も素晴らしいの一言です』
『フリーキックからのまさに乾坤一擲。いやあこんなことあるんですね』
『偶然じゃなくてしっかりとした作戦として機能させていますね』
『というと?』
『中央高校のメンバーはフリーキックを蹴ると同時に後ろを見もせずに5人がセンターラインに走っていったんですよ。そして振り向いて武藤選手のキックと同時にラインを超えて前線に走り出しましたからね。あれは武藤選手が止めること前提のカウンターですよ』
『そ、そうだったんですか!? その為に壁すら作らずに!? 諸刃の剣どころではない作戦な気がしますが』
『つまり武藤選手と心中するつもりの作戦なんでしょう。そこまで信頼があるということですね。いやあお見事でした』
『しかし、アレを止める武藤選手も武藤選手ですね』
『武藤選手は実はユヴェントスとかACミラン所属とか言われても納得しますよ私』
『そ、そこまでですか!?』
『安藤選手のフリーキックはすばらしかったですよ。それこそJリーグでも通用するくらい威力もコースも見事なシュートでした。あれを素手で片手キャッチとかされたらもう相手を褒めるしかありませんよ。プロリーグのキーパーだって無理ですよあんなの』
『そうなんですか!?』
『キャッチできる余裕があるなら両手を使わない理由がないですからね。片手というのはキャッチが難しいから弾くというのが目的で行うんですよ。それをわざわざ片手でキャッチですからね。武藤選手の場合キャッチが難しいから片手というわけじゃないんですよ。基本両手を使わないんです。これがずっと今まで通り右手だけとかなら怪我とか癖とかそういう可能性もありえましたが、今回左手1本ですからね。意味がわかりませんよ』
武藤は昨日の試合を右手1本ですべて防いでいる。左側にいったボールですら右手1本である。これは前日に見た漫画でキーパーが左手を怪我しており、右手しか使っていなかった為、それの影響で左手を使うことを完全に忘れていた為である。昨日の試合後に指摘されて初めてそうだったのかと気づいたくらいには登場人物になりきっていたのだ。
ちなみに今日はわざと右手1本で俺つええプレイをしていたのだが、さすがに今回のフリーキックはわずかではあるがキャッチできない可能性があった為、左手を使ったのである。実は相手チームは武藤の左側が弱点だと思っていたのだが、それが完全に遊ばれていただけということがわかり、フリーキックを止められた際は絶望した表情となっていた。その一瞬の硬直がオペレーション・メテオ成功の要因ともなっていた。
『ここで試合終了!! 中央高校見事に1点を守り抜きました!! これで初の決勝進出です!!』
『いやあ、面白い試合でした。高校サッカーでこんなにおもしろい試合は記憶にないですね』
『大野さん的にはやはり注目は武藤選手ですか?』
『決勝点を決めた小林選手もすばらしかったですが、やはり武藤選手の守備力あってこそでしょう』
『ところで私思い出したのですが、武藤武という名前に非常に心当たりがあるのですが……年齢的にも1年生ですし、圧倒的な身体能力といい同一人物なのでしょうか?』
『ああ、あのバスケの? あっそれであの握力!! なるほど、それなら納得できます。私もあのバスケの試合何度もTVでで見ましたが、なるほど……まさかサッカーに転向していたんですかね? ゴーグルとマスクで顔はわかりませんが、あの身体能力は隠せませんからね。普通なら偽物が試合に出る可能性もあるのですが、武藤選手の場合すぐにわかりますからね』
『最初にボールが飛んできただけでわかりますからね。片手でキャッチするかどうかで』
『誰もマネできないがゆえに偽物が現れないというのもすごい話ですね。プロ選手からしたら夢のようですよ。圧倒的な力があるが故のオリジナルというのは』
『来週の決勝戦が今から楽しみですね。午後からの準決勝第二試合、東方高校対西和高校の勝者と当たることになりますが、中央高校が決勝で勝てば、創立以来初めてのインターハイ本戦出場となります』
『東方高校も西和高校も名門ですからね。どちらが勝ってもおかしくありません』
『決勝で待つ中央高校、守護神武藤と戦うのは果たしてどちらになるか。午後からの準決勝第二試合はこの後13時開始です。それでは準決勝第一試合、中央付属高校対中央高校の試合、実況は私坂本、解説は元Jリーガーの大野さんでお送りしました。大野さんありがとうございました』
『いえ、こちらこそありがとうございました』
『試合は1対0で中央高校が勝利しました。それではまた準決勝第二試合でお会いしましょう。さようなら』
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