第192話 SGGK(サッカー4 )

『と、止めたああああ!! なんというセービング能力!! これまで幾度となく放たれたシュート、そのことごとくをすべてキャッチ!! 守護神木下を変え、ここに来て中央高校秘密兵器を出して来ました!!』


 試合が始まると、中央高校は案の定攻められまくった。元々守備からのカウンター主体のチームの為、ある程度は仕方がないことだが、ここまで攻められるとはチームとしても想定外のことであった。

 

(目立ってない。目立ってないぞ)


 一方、武藤はといえば実況等が聞こえることもないため、全然目立ってないと内心喜んでいた。そして初めての試合ということもあって異様に攻められているのも、こんなものかくらいの気持ちであった。

 

 実質前半全体の7割の時間を攻められているのだが、全く気にした様子を見せず、ひたすら飛んできたボールをキャッチしていた。普通なら弾くようなボールもすべて片手でキャッチしてしまうため、こぼれ球からのチャンスどころか、相手のコーナーキックの機会すら奪う有り様であった。

 

 ちなみに相手が発奮しているのは武藤のせいである。試合が始まってすぐは中央高校が攻めていたのだが、相手が攻めてきた時、あろうことか武藤はゴールバーにもたれかかってあくびをしていたのである。それをみた相手高校が舐められている激怒し、絶対点をとってやろうという思いが爆発したのが現在である。武藤としては単純に暇だっというのもあるが、実際は異世界での徹夜あけなのである。本来ならとても試合なんぞできる状態ではないのだ。

 

『また止めたああああああ!! 秘密兵器武藤選手、あらゆる攻撃をシャットアウト!! ここまで12本のシュートがすべてワンハンドキャッチされています!! 恐るべき守備力!! まさに守護神!!』


 ボールをキャッチすると武藤はすぐさま近くにいる3年生にボールを投げるが、マークがついていたら中央にいる2年に投げる。別に嫌っていても試合中にそれが影響することはないのだ。 

 

 眠さをこらえながらも武藤は余裕を持って失点0で前半を終えた。

 

「お前すごいな。とても初めての試合とは思えないぞ」


「そうか? まあどうでもいいからお前は点をとれ」


「ぐっ!? 痛いところを……」


 ハーフタイム中、小林は武藤と歓談していた。小林としては練習中、武藤からただの1度も点をとれなかった為、自信を喪失していたのだが、相手校が誰も点がとれないところみて、やはり自分が駄目なわけじゃなく、武藤がおかしいだけだと気が付き、自信が戻ってきていた。

 

「見てろ、後半は絶対点とってやるから」


「期待しないで待っててやるよ」


 軽口を叩きあう1年生を見て2年生達はなんとも言えない顔をしていた。自分たちの武藤に対する態度が悪いのはわかっている。最初のやり取りからがこじれただけで、特に思うところはないのだ。それなのに武藤は試合ではしっかりと結果を残し尚且つ自分たちにもボールを渡してくれている。しっかりと割り切っている武藤を見て自分たちが恥ずかしくなっていたのだ。

 

「武藤、すまなかった」


「ん?」


「助っ人に来てくれているのに俺達のお前に対する態度は酷かった。反省している。申し訳なかった」


 そういって最初に武藤に絡んだ菅野を筆頭に2年生が全員頭を下げていた。

 

「どうしたん急に?」


「がんばっているお前を見て自分が恥ずかしくなった。考えてみればお前には全く俺達のことなんて関係ないってのに、しかも負けたら色々と言われることがわかっているのにそれでも力を貸してくれている。どうせ上から目線の口だけ野郎なんて思ってたが間違いだった。お前は正真正銘の天才だった。口だけじゃない。その自信にあふれる口調は圧倒的な実力に裏打ちされたものだったんだな」


「木下が出られなくなって、諦めてたところに実績0の口の悪い1年生。しかも噂のあのバー当てのやつだろ? 絶対見下してくる調子に乗ったやつだって思ってたんだよ」


「練習もしないし、試合もいい加減だろうって思ってたんだが……」


「あそこまで実力を見せつけられたら認めざるをえないだろ」


 どうやら2年生は武藤が真面目に試合をしないと思っていたようであった。まあ練習しないと公言し、勝ち負けはどうでもいいと断言している1年である。そう思っても仕方がないと言えた。

 

「練習はしてたぞ?」


「え?」


「お前らが帰った後、夜まで俺達3年の練習に付き合ってくれてたぞ」


 3年生達は部活が終わった後、夜遅くまで守備の練習をしていたのである。武藤はそれに付き合っていたのだ。

 

「そうだったのか……すまなかった武藤」


「別に謝らんでいい。早く点とってくれ」


「!? ああ、わかった、任せとけ!!」


 武藤としては別にどうでもいい話しなので早く点をとって間違っても延長とかにしないで早く試合を終えて家に帰してくれ。そういうつもりだったのだが、どう勘違いしたのか何故か武藤以外のチームが一丸となったのであった。

 

 

『試合終了!! 中央高校後半にとった1点を守り切りました!! まさに鉄壁の守備!! この牙城を崩せるチームは果たしているのか!! 次の試合が早くも楽しみです!!』


 後半に小林が1点をとり、中央高校は無事にベスト4へと進出した。ちなみに明日準決勝で勝てば来週決勝となる。

 

「ベスト4だっ!!」


「俺達の勝ちだ!!」


「見たか武藤!! 取ってやったぞ!!」


「あーすごいすごい。帰って良い? 眠くて」


「お前なあ……」


 抱きついてくる小林を鬱陶しそうに剥がしつつ武藤は1人冷めていた。本当に眠いのである。

 

 

「よーし、みんな聞いてくれ。本来なら先週ベスト8の試合で明日ベスト4の試合予定だったらしいが、会場の都合でベスト8の試合が今日にずれこんだ。だがベスト4以降の試合は予定通り明日行われるから俺達は連闘になる。今日はすぐかえって休んで明日に備えてくれ。後、明日からは会場が違うから注意な」


 試合後。部室に集まったメンバーにキャプテンである真壁がミーティング前に予定と注意事項を述べる。

 

「正直に言おう。俺は今日勝てると思ってなかった」


「うぉい!?」


「キャプテン!?」


「まあ、俺達もそうなんだが」


 実質、武藤も含めて誰も勝てると思っていなかった。武藤は勝つではなく、負けないとは思っていた。

 

「地区予選ベスト4は我が校始まって以来だ。後2つ勝てば夢のインターハイだ」


「国立?」


「国立は冬の全国高校サッカーだよ」


 武藤の知識といえば高校サッカーは国立というイメージであったのだが、それは冬の大会だと小林が教えてくれた。

 

「できるなら俺達も国立に行きたいところではあるが、うちはこれでも進学校だからな。万が一代表になれたとしても本番がセンター直前だからさすがに無理だ」


 そういって真壁達3年生は笑った。

 

「と、言うわけで負けた瞬間、俺達3年生は引退となる。だからお前たちの力でなるべく引退を伸ばしてくれ」


「任してくださいよキャプテン」


「夏休みまで引退させませんよ」


 インターハイの本大会は夏休みに入ってからである。つまり必然的に本大会出場するということは引退が夏休みまで伸びるということでもあった。

 

「……夏休みとかクソ忙しいんだけど?」


「!?」


 武藤のぼそっと呟いた一言で部室は静まり帰った。

 

「い、1週間!! 7月の終わりから8月頭までの1週間だけ!! 頼む武藤!!」


「俺は全治2,3ヶ月って言われてるから間に合わんぞ。すまんな」


 武藤は視線を木下に向けるとそう謝られた。 

  

(まあ国立でもないし、夏なら目立たないだろ)


 武藤は高校サッカーと言えば国立という認識であり、しかも普段からTVを全くみない為、知らなかった。既に予選からTV中継されているということに。特に本大会はもちろん1回戦からすべての試合が全国放送でTV中継されるという事実をこのときの武藤は全く知らなかったのである。

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