第191話 仲間(サッカー3 )
「ぶっちゃけディフェンダーいらないんで4人とも攻めていいですよ」
「……」
ディフェンス陣との打ち合わせとのことで、武藤はディフェンダーの4人と打ち合わせを行っていた。が、開口一番の武藤の言葉にディフェンダー4人は言葉を失っていた。
「中央高校の誇る4壁をいらないとは……」
「4壁?」
「ああ、うちは3年生4人のディフェンス力で勝ち残って来たんだ」
「へー」
「キャプテンの真壁を筆頭に面壁、折壁、長宗我部と4人の壁が「ちょっと待てい!!」」
「長宗我部だけ漢字違わない?」
読みは全員かべだからとっさに気が付きにくいが、明らかにおかしいところに武藤はすぐに気がついた。
「ちっ気づいたか」
「ほらっだから4壁は無理があるって言ったんだよ」
「でも4壁のがかっこいいだろ?」
「3壁プラス1はさすがにかっこ悪いよな」
武藤的にはどうでもいいことで3年生4人は盛り上がっていた。
「んーまあディフェンスやりたいならやってもいいけど、意味ないよ?」
「どういうこと?」
「どうせ全部俺が止めるから」
「……」
あまりにも自信満々に言い放つ武藤にさすがの4人も空いた口が塞がらなかった。
「大言壮語も甚だしいと怒るべきなのか」
「それとも自信満々なことを褒めるべきなのか」
「まあ昨日の武藤くんのセービングを見ると自信過剰とは言い切れないのがなあ」
自信満々の1年生の言葉に3年生達は苦笑するしかなかった。
とりあえず武藤は好きに動くということで話は決まった。どうせ今からやったところでまともな連携なんぞできないからだ。
「ちょっと聞きたいんだけど」
「ん? 何かな?」
「サッカー部って典型的な体育会系かと思ってたんだけど違うの?」
「何故だい?」
「1年生がこんな大口聞いてタメ口聞いてるのに激怒しないからさ」
「ああ、入部してきた1年がいきなりそんなことを言ったらさすがに注意するけどね。君の場合は特別だから」
「特別?」
「そもそも君は無理を聞いて頼んで来てもらっている存在だ。しかも君になんの特もないのに多くのリスクを背負って……だ。その上実力も遥かに上とあったら特別扱いしないほうがおかしいよ」
「そうそう、それに口が悪いといってもあれは菅野が悪い。君がサッカー部に呆れるのも無理はない」
「運動部は実力主義みたいなところがあるからな。年齢だけで敬えとか言わねえよ」
3年生達の大人の対応に武藤は困惑した。体育会系とは思えないまともな反応だったのである。
「あなた達だけはまともなようだ。あなた達は先輩として認めましょう」
武藤は3年生4人だけはサッカー部の先輩として認識した。
「君に認められるとは嬉しいね。実力を認められたわけじゃないのがアレだけど」
そういって3年生達は笑って武藤を歓迎した。
「とりあえず、チームの内訳を紹介すると、俺達3年4人がディフェンダー(DF)で2年3人がミッドフィルダー(MF)、で、最後に2年2人に1年の小林がフォワード(FW)で4-3-3だな」
「小林は唯一の1年レギュラーなのか」
「そうだ。人数的にどうしても1人足りないからな」
全部で13人と聞いていたので武藤はすぐさま3年4人、2年6人、1年3人と内訳を把握した。そのうち2年のキーパー1人が脱落の為、1年の残り2人が補欠というのは変わっていないということだろう。
「今から誰かをキーパーにコンバートさせるにも時間がないし、そもそも人数がギリギリなのに正キーパーが居るチームで予備キーパーなんて育てる余裕なんかあるわけがないからな」
わざわざレギュラーをとれないポジションに行く理由なんてないのだ。
「3年卒業したら新入生が入るまで試合すら出られないってこと?」
「そうだな。去年もそうだったし」
「そもそもうちはこれでも進学校だからな。スポーツはそれほど力を入れてないし、サッカー部は代々弱小だ。むしろ野球部がなんであんなに強いのかが理解できない」
この学校はスポーツの特待生等は存在していない。そもそも公立校であるから当然だ。にもかかわらず去年野球部が地区予選決勝まで進んだのは奇跡という他なかった。
「それでも今年は初めて地区ベスト8までこれたんだ。別にプロ選手を目指してるわけじゃないが、悔いのない試合をしたいんだ」
このままいけば
キーパー素人で試合
⇓
誰がキーパーでも戦犯でトラウマ
という図式がなりたってしまう。選手たちはキーパーに責任を押し付けることはないだろうが、それでも悔いが残ることになるだろう。
「武藤には本当に感謝している。このままじゃ木下は責任で潰れてしまいそうだったから」
「そもそもなんで怪我したんだ?」
「駅で階段から落ちそうな子どもを助けて、代わりに落ちたらしい」
「……」
武藤は後悔していた。話を先に聞いていたら内緒で腕を治してやっていたのに……と。ここまで話が進んでしまってはもうどうしようもない。多少早く怪我を治させて本戦に出られたら木下に出させてやろう。武藤はそう思うのだった。
そしてあっという間に試合当日がやってきた。3年生達だけは気に入った武藤は、律儀に平日の練習に付き合ってかなり仲が良くなった。問題は他の2年生である。木下は妹のこともあるが当事者ということもあり、かなり武藤に気を使ってくれるが、残りの2年生は態度から武藤を認めていないことが丸わかりであった。まあ完全な外様である武藤を快く思わないことは武藤も理解しているが、なんの利益もなく、しかも請われて来ているのだ。それでその態度はさすがの武藤でもどうかと思うが、興味のない相手を気にしても仕方がないし、関わることもないだろうことから相手にしないことにした。
「今日は頼むぜ武藤!!」
そんな中、唯一の1年生レギュラーであった小林は普通にフレンドリーに武藤に接していた。
「なんでそんな馴れ馴れしいんだ?」
「俺とお前の仲だろう!! 親友と言っても過言じゃ「捏造すんな」」
キャプテンに紹介されてから小林は妙に武藤に対して馴れ馴れしかった。
「俺と仲いいふりしても女子は許してくれんぞ」
「ぐっ!?」
こうかはばつぐんだ!!
ド直球で図星が急所に刺さり、小林は崩れ落ちた。
「俺だってあんなことしたくなかったさ……でも俺一人反対したところで、俺が孤立するだけでなんの解決もできなかった。あんな世界で武器もなしに1人で生きていくなんてできるわけないだろ。俺はお前みたいに強くないんだ」
「それは女子側だって同じ気持ちだろうが。誰か男が1人でも女子側に付けば、あそこまでこじれることもなかったんじゃないか?」
「……そうかもしれない。でもそうじゃなかったかもしれない。結局そこで踏み出せるのがお前や吉田達なんだろうな。弱肉強食の世界で、たった1人になる危険性があろうともためらわずに進める。少なくとも俺にはそんな覚悟はなかった」
イケメンと言われていようが、小林は何の力もないただの高校生である。むしろ武藤や吉田達陰キャグループの方がマイノリティなのは間違いない。
「それで女を奴隷扱いしようとすればそりゃ嫌われるさ」
「そんなことはしてない!! いや、止めれなかったのなら一緒か。やめさせようとは思ってたが、結局止める勇気がでなかった。あそこで一生を過ごすなら仕方がない。そう思っちまったんだ」
結局女子生徒奴隷化計画は武藤のせいで頓挫した。だがそれがなければ女子生徒たちはひどい目にあっていただろう。
「1、2組の女子達に嫌われるのはしょうがないと思ってる。俺達の自業自得だからな。でも大多数の男子生徒はただ生き残る為に主要な奴らに従っただけの奴らだ。許せとはいわんし許されるとも思ってない。けど周りに流されるだけの弱い奴らだが、自ら女子達を襲おうなんてやつは殆ど居なかった。結局自分たちだけじゃ何もできない子どもばっかりだったんだよ俺達は」
「それに気づけただけでも成長だな。まあ許されるとは思えんが」
「ああ。お前が居なかったら大変なことになっていただろう。その意味でもお前には感謝している」
「恨んでるんじゃなく?」
「男子の大半は感謝してるぞ。そりゃ羨ましいとは思ってるが、聞いた話じゃ帰ってこられたのもお前のおかげって話しじゃないか。だから男子生徒たちの殆どはお前に感謝してるぞ。少なくとも1組はな」
意外にも陽キャグループである小林が武藤に感謝しているとの言葉に武藤は小林の瞳を見つめる。その奥からは嘘や虚偽の気配を一切感じない。どうやら言っていることは本当のようである。
「カーストトップの陽キャグループとは思えない言葉だな」
「俺はそんなつもりはないぞ。ただつるんでる佐久間がいつの間にか山本さんたちと仲良くなってたから結果そんな感じになってたってだけで、カーストとかそんなこと考えたこともない」
嘘偽りなくそう思っている小林を見て武藤は知美の顔が頭に浮かんだ。抜群の容姿とは裏腹に非常におとなしい性格なのだが、つるんでいる親友の皇綺羅里のせいで気がつけばいつもカーストトップグループに入ってしまうと愚痴っていたことを思い出したのだ。
「自分がどう思おうが関係ない。そういうのは周りがどう思うかだからな」
そういいつつも武藤は未だに自身は陰キャのつもりであった。
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