第186話 芸能界
「ふふふっさすが武くん。よく気がついたねえ」
「え?」
「本当に作った学校紹介動画はこれじゃないんだ」
そういって香苗が動画を流すと、それは無難なBGMと生徒たちの生の授業中の声が組み合わさったまさに学校紹介といった動画であった。
ちなみに紹介動画に武藤の恋人たちは美紀がちょろっ出た以外、誰一人出ていない。
「さっきのは私が完全に悪ノリで作ったものだから、武くんがOKを出さない限りは公には出さないよ。一応頑張って撮ったからまとめて動画にはしておいたけど、まああっても文化祭で提示するくらいだねえ」
それを聞いて武藤は安堵した。さすがにこれだけの美少女達が一同に介する動画なんぞ公開したら、ストーカーホイホイどころではない。
「なーんだ、残念。折角全員猪瀬の所属にできると思ったのに」
「洋子絶対わかってて言ったでしょ?」
美紀の言葉に洋子は視線を反らした。もちろん洋子は武藤ならこんな動画を公開しないだろうとわかっていた。後ろからちょろっと撮られただけで、盗撮犯を潰しにいくくらいには武藤は恋人たちを過保護に守っているのだ。顔出しでこんな動画を公開した日にはどうなるのか、もはや想像ができないのである。
「でも所属の話は本当よ? 事務所に登録だけしておいて、仕事はしなくてもいいし、バイト感覚でモデルとかやるならやればいいし。ぶっちゃけ旦那様の稼ぎがあれば、仕事しないで登録だけしておいても猪瀬の事務所には何の負担にもならないのよ」
現在の猪瀬の事務所は金より何よりコネがすごいのである。下手したら放送局を単独で作れなそうな程には影響力があるのである。しかし、そんな権力を持っていても乱用、悪用の類は一切しない為、上の方も猪瀬を信用しており、もはや芸能界は完全な猪瀬無双状態になっているのだ。とはいえ所属タレントが少なすぎる上に、そこまで野心のあるタレントがいない為、芸能界には殆ど影響が出ていない。むしろ美紀に手を出そうとしていた害悪部分が淘汰され、現在の芸能界はかなり風通しのいい環境となっているほどであった。
「確かにバイトとしては良いかもしれないねえ。猪瀬がバックなら邪な考えの連中もそうそうこないだろうし、一般のバイトよりは男性と関わることがないだろうしねえ」
「確かに今までのデート代全部武ばっかり払ってたし、私達も偶には出したいよね」
「まあ絶対出させてくれないんだけどね」
武藤は絶対自分の女には払わせないタイプであった。もちろんどんなときも恋人たちは奢られれば必ずお礼は言うし、感謝を忘れたことがない。そんな当たり前のことを当たり前にできるだけで、武藤はその子達を決して蔑ろには扱わないのである。武藤からしたら端金なのは事実であるが、それでも奢られて当然みたいな子がいたらいくら武藤といえど、何かしら思うところが出来たことだろう。まあ武藤がそのような女性に心惹かれることはそもそもないのだが。
「でも武は私達が表に出るのは嫌みたいだからモデルは無しね」
「いや、モデルになるならなるで全然いいよ。やりたいなら止めないし応援する。美紀だってやってるんだし。俺が懸念してたのは芸能業をしてるわけじゃないのに目立ったときのリスクだから。芸能人なら目立つのが仕事みたいなものだから、一般的な生活はできなくなるかもしれないけど、やりたいのならやればいい。ただ承認欲求があるわけじゃないのに学校の紹介動画なんかで公に出るのはリスクしかないんじゃないの? って話」
「芸能人になることは反対しないんだ?」
「するわけないでしょ。それなら美紀をやめさせてるよ」
「あーしはダーリンが言うなら今すぐにでも辞めるよ?」
「やめて!? 貴方今、超がつく売れっ子なのよ? ただでさえ旦那様に会える時間が減るからって仕事制限してるのに、電撃引退とか関係各所に謝罪行脚しなきゃいけなるなるから!?」
現在、美紀はCM、バラエティーにと仕事がかなり多い。これは猪瀬の力ではなく、美紀の元からの美しさに加え、武藤と交わることで魅力がマシマシになったおかげである。そして男の存在を隠すことなく公にすることで、離反するファンは最初からいない為、女性を中心に増えることはあっても減ることがないファン層が構築されていた。
そして現在、秋から放送予定のドラマのにメインキャストとして撮影をしており、今引退されると違約金がものすごいことになるので、洋子としても必死である。
「ダーリンが良いっていうなら洋子の為にも続けるけど、そもそもあーしがモデル始めたのはお母さんの為に手っ取り早くお金が欲しかっただけで、今はもう特に続けるこだわりとかないからね」
現在では美紀の母親は完治しており、父親も怪しい宗教から抜けて、今では非常にラブラブなおしどり夫婦である。そして両親公認で武藤との交際を認めており、高校在学中にもかかわらず孫はまだかとせっつかれる程であった。
「美紀が嫌な思いしてるとかでもなきゃ止めたりしないよ」
「あー今のとこは無……ほとんど無いかな」
「あるんかい」
「今のドラマの共演者がさ。撮影終わると下心見え見えで毎回声かけてくるんよね。まあ無理やりどうこうはしてこないけど、鬱陶しくて」
「はあ!? あいつまだ声かけてきてんの!?」
それはドラマの主役である男であった。女癖が悪いことで有名なアイドルであり、やたらと週刊誌を賑わせてもいる男である。その男は当初から美紀と洋子に目をつけて色々とちょっかいをだしていたのだが、猪瀬の社長から直接相手事務所の社長に圧力がかかることで大人しくなっていた。それがまた最近悪化しつつあるのだ。
「前徹底的に潰してやればよかった……」
普段武藤には絶対見せないような冷酷な瞳で洋子は一人呟いた。
「前も何かあったのか?」
「元々ずっと悪い噂が耐えないやつでさ。美紀も私も現場行くたびにずっと声かけられてて、うちの親父と警備に脅されて漸く最近大人しくなってたと思ったら……」
「洋子の前ではおとなしいからねあいつ。洋子が居ない時にしか言って来ないし」
「なんで言ってくれないのよ?」
「まあ食事の誘いくらいは社交辞令かもしれないし、ついていかなきゃ言うだけはいいのかなあって。それが2回も3回も続くと流石にどうよって思ってたとこ」
「もっと早く言ってよ……」
「ごめんごめん」
「今の芸能界で猪瀬を敵に回すやつなんてどうしようもない馬鹿しかいないでしょ。そういう馬鹿は理屈が通じないから逆に怖いんだから、気をつけてよね。はあ、警備増やすかなあ」
「消す?」
「まだそこまではいいよ。でも偶には旦那様に撮影についてきてもらってもいいかもね」
「あっそれ良い!! 彼ぴアピールすればよってこなくなるかも!!」
「どう考えても逆効果にしかならない気がするねえ」
「え? なんで?」
「そういう男は常に自分が一番なのさ。だから誰を見ても自分のほうがいい男って判断する。必然的に俺のほうがいい男だから乗り換えろって余計鬱陶しくなると思うねえ」
香苗の指摘に美紀と洋子はその光景がありありと思い浮かび、2人そろってげんなりとするのであった。
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