第185話 完成

「ダーリンすごいことになってるね」


「??」


 その日の放課後。部室に集まった美紀にそう告げられ武藤は頭にクエスチョンマークが浮かび上がる。

 

「これみて」


 それは昼に撮ったリフティングの動画である。伝説の再現と題されて投稿されたそれは既に10万を超える程に反応があった。いわゆるバズったという状況である。

 

「なんで!?」


 ちなみに投稿者は不明である。おそらく周りで見学して撮影していたものだろう。

 

「肖像権も何もあったものじゃないな」


 ちなみに良心なのかはわからないが、顔だけは映らないようにされていた。

 

「しかもこれ1つじゃないんよね」


「え?」


 CGだとか色々と反応があったが、複数の視点からの映像もあり、事実だということが証明されている。ちなみにどの映像も顔はわからなくされていた。

 

「配慮するならそもそも投稿しないでくれよ」


 武藤は一人げんなりとしていた。これが対象が恋人達だったら武藤は容赦なく投稿者を処理していたかもしれないが、自分の映像である。そしてアカウント名からおそらく女子生徒達であろうことも想像がついている為、そこまで怒る気にはなれなかった。

 それからしばらくは1年の教室付近が大変なことになっていた。なにせ2,3年生の女子生徒がこぞって見に来るのである。それだけでなく1,2組以外の女子生徒達も武藤を探してあらゆる教室を巡回していた。ここで歓喜したのが1,2組の男子生徒達である。2,3年生のお姉様と自分たちと会話してくれる3組以降の女子生徒達が話しかけてくれるのである。延々と無視されつづけていた女子と絡めるとあって、1,2組男子たちはそれはもう燃えた。身だしなみを整え、精一杯カッコつけた。

 特に陽キャ組は容姿だけはいいのである。見た目に騙される女子生徒たちもいた……が……。

「あいつら人間のクズですよ?」

 1,2組の女子生徒たちから密告でその野望はあっという間に潰えた。女子生徒を襲おうとした前科があるとしれ渡れば寄っていく女子は居ない。女子生徒たちのネットワークは凄まじいものがあり、あっという間にその噂は全校女子生徒に広まり、名前のリストすら出回り、武藤たちを除いた1、2組男子は完全に詰んだ状態となったのである。

 その頃、武藤はといえばいつも通りマスクにメガネで気配を消していた。周りを女子生徒達が囲ってくれているため、外からその姿を見られることもなかった。傍からみれば逆に目立っていたが、気配がしないため、あまりその場所に関心を示す生徒たちが居なかったことも幸いした。

 

「クラスメイトにめっちゃダーリンのこと聞かれたし。PV撮影だっていったら協力してくれる人めっちゃ増えたよ」


「……それは良かった……のか?」


「いいにきまってんじゃん!! 校庭に絵文字つくってドローンで撮影とかしようよ!!」


「無茶言うねえ。まあできないこともないだろうけどそれなりの人数がいるだろうねえ。それより先にダンスシーンを撮ってしまおうか」


 そういって各自のダンスシーンを様々な場所でパートごとに撮っていき、1週間後、ついにPVが完成した。

 

 

 

「カナちゃん出来たの!? 見せて見せて!!」


 放課後。完成したということで香苗からPVのお披露目があった。

 

 軽快な音楽に合わせて、真由、洋子、美紀と順番にドアップで登場し、3人が同時に映ると同時にパンアップし、校舎を背景に中央高校の文字が浮かびあがる。

 

「どこのアニメやねん!!」


 武藤が思わずツッコんだ。

 

 場面は代わり、冒頭3人のダンスシーンが始まり、1組女神5人のダンス、2組メンバーに瑠美を加えた5人のダンスシーンがそれぞれ映る。その後、様々な部活シーンや授業シーン、そして楽しそうな休憩時間の映像が流れる。

 

「あっ結愛!! いつの間に!!」


 それは道場らしきところで袴姿で演舞する結愛の姿であった。

 

「あっ瑠美!!」


 一瞬ではあるが、サーブする瑠美の姿が映った。

 

「あっかわいい!!」


 それは朝陽と月夜が片手づつでハートをつくり、カメラがその中をくぐるような映像があり、その中からクリスの姿が見えてウィンクしながら投げキッスする映像であった。

 

 サビの前にくるとやや長めに噂の武藤のリフティングシーンがあり、その後、弥生のソロでのダンスシーンが入る。サビに入ると武藤の恋人たち全員によるダンスシーンが映った。

 

「うわあ、結構揃ってる」


「がんばった甲斐があったね」


 何度もNGを出して撮り直したシーンでもある為、メンバーの感動もひとしおである。 

   

 その後、男子生徒たちが騒いでるシーンや体育の授業で光瀬と吉田がハイタッチしているシーン等が挿入され、様々な人達が一瞬づつ切り替わる映像の後、校門でそろって決めポーズをしている武藤の恋人たちが映って終了となった。

 

「やばっ超いいよこれ!! さすがカナちゃん!!」


「いやあ大変だったよ。いろんなアニメを参考にしてねえ」


「やっぱりか!!」


「こういう映像っていうのはアニメのOPが一番記憶に残るんだよ。ドラマみたいなのはあんまり記憶に残らないんだよねえ」


「そうなの?」


「アニメのOPやEDは古くてもいつまでも覚えてるものなんだよ」


「……確かにそんな気はするな」


「後は映ってる人たちを呼んで見てもらって配信していいか確認を撮らないとねえ」


「2年は明日あーしが確認してくる」


「3年は私がいこう」


「1年は全員1組と2組しかいないからいいかな」


(どこが学校のPVなのか全くわからなかったのは言わないでおこう)


 武藤は恋人たちに対してだけは空気が読める男だった。

 

「えーと俺としてはすごく良く出来てるとは思うけど、公開はしてほしくないなあ」


「え? どうして?」


「君達は自分たちが超がつくほどの美少女だということをもっと自覚して欲しい。こんなの公開したらいらん男がわんさか寄ってくるに決まってる。絶対良からぬことを考える阿呆が出てくるから普通の生活できなくなるぞ?」


 つい先日の盗撮アップよりも露出が多い分、絶対ろくなことにはならないと武藤は思っている。


「美少女って……でも普通の生活ができなくなるのは嫌だね」


「でもそれだと美紀以外全員顔を隠す必要がでてくるねえ」


「編集でモザイクかけるか、被り物して撮り直すか……」


「もう1つ選択肢がある」


「何、洋子?」


「この際全員猪瀬からデビューする」


「えええ!?」


 その場にいた全員が絶叫した。

 

「それで将来食っていくってわけじゃないんだから別に仕事する必要はないし、ただ所属だけいれておけば経費で護衛も回せるから便利かなあって」


「ふむ、なるほど案外いい案かもしれないねえ」


「え?」


「万が一うるさいマスコミが来たとしても猪瀬所属と分かればすぐに引くだろうし、バックに猪瀬がいるというのを周知させるのはいい案かもしれないねえ」


「でもそれだとマスコミ以外は普通に寄ってきちゃうんじゃない?」


「それはまあそうだろうねえ。でもそれを気にしてたら学生で芸能人はいないんじゃないかねえ」


「まあ芸能人ならたしかにそうかもしれないけど、私達は一般人でしょ?」


「一般人のまま有象無象が寄ってくるよりは形だけでも芸能人になればある程度は防げるって話しでしょ?」


 喧々囂々と意見が飛び交う。


「そもそもメリットとデメリットを考えるとメリットがゼロでデメリットしかないように思えるんだけど?」


 最終的に武藤がそう言うとみんなが黙って考え出した。

 

 学校の紹介動画である。メリットとして考えれば承認欲求があるのならあるといえよう。だがそれがないのなら顔出しはデメリットしかない。なにせ有名になっても学校にしかメリットがないのである。そして有名税とも言うべきストーカー等が集まってくる可能性が高まるのだ。

 

 そもそも武藤がこの映像を見たのは今回が初めてである。美紀以外はもっとこっそり一瞬だけ映るくらいだと思っていたのだ。それが蓋を開けてみれば、恋人たち全員ががっつり登場しているのである。

 

「学校というよりも俺の彼女達のPVっていうか紹介動画みたいな気がする」


 思わず武藤は本音が漏れてしまったのであった。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る