第184話 バレた

「まずはPVを撮ろう!!」


 月曜日の放課後。さっそく部室に集まった面々はどんな動画を撮ろうか相談していた。

 

「PV?」


「学校紹介の動画ってことだろうねえ」


「さっすがカナちゃん正解!! それの短編をTIKTAKにあげて人を本命の動画に呼び込むの!!」


「いろんな部活や生徒たちをBGMに合わせてどんどん切り替えていく感じはどうかな?」


「ありきたりだが、最初はそんなものでいいだろうねえ」


「いろんな部活を紹介しつつ、出たい子を募ってちょっとづつ楽しそうにしている普段の生活を見せていくってのはどう?」


「顔出しは慎重にしたほうがいいかもしれないねえ」


「美紀はいいのか? この学校に通ってるってバレるだろ?」


「ああ、もうバレてるから平気平気。っつーか今時、完全に秘匿するのは無理っしょ。あーしだって公開してるわけじゃないのにwikiに載ってたし」


 そう言われて香苗が美紀のwikiを調べてみると、年齢から本名から学校まですべて記載されていた。

 

「人の口に戸は立てられないとはいうけど、酷いものだねえ」


「まあ有名税ってやつ? あーしはまあ芸能人だからいいけど、一般生徒は微妙かなあ。ちゃんと確認だけはしとこっか」


「Good Ideaありますデス!! タケシがいろんなスポーツのスーパープレイするデス!!」


「ああっいいね!! それすっごい良い!! クリスナイス!!」


 いつもは大人しくあまり自分から意思を表示しないクリスが、珍しく手を上げて率先して提案した。


「最後は王子様と私のキスシーンデス!!」


「却下ああああああああ!! ずるいよクリス!!」


「学校の紹介動画でさすがにそんなところは映せないねえ」


「スーパープレイも部員じゃない武がやったら詐欺じゃない?」


「別に武くんがそこの部員だとは言ってないから詐欺ではないねえ。別に利益を求める為の広告ってわけでもないし」


「それはそうかもしれないけど……」


「それに武くんがこの学校の生徒というのは紛れもない事実なのだから、何の問題もないだろう?」


「……」


 朝陽はどうやっても屁理屈で香苗に勝てるとは思えなかった。

 

「PVにはぜひともこれを使いたいねえ」


 そういって香苗が見せてきたのは以前、体育の授業で武藤が見せたアリウープの映像だった。

 

「なんで!? 香苗どうやって撮ったの!?」


 実は隠し撮りをしていた女子生徒がおり、香苗はその子から動画を貰っていたのである。

 

「やばっ!? ダーリンマジかっけえ!!」


 はじめてそれを見たメンバーも大興奮であった。

 

「じゃあ脚本はカナちゃんに任せて、協力してくれるメンバーを募ってみよう。2年はあーし達が集めるね」


「1年は1組と2組の女子でいいんじゃないかな?」


「3年は弥生先輩お願いします」


「わかった。友達に聞いてみよう」


「男女は問わないけど、まあ男は最悪旦那様だけでもいいね」


「顔出しはNGでお願いします」


「ええー」


 武藤としては動画で残るのに、これ以上目立ちたくないのである。

 

「じゃあ武くんは後ろからの映像をメインにしようかねえ」


 こうして中央高校紹介動画の撮影が開始されたのだった。

 



 翌日からいろいろなところで撮影される光景が見られた。それは授業中であったり、休み時間であったり、部活中であったりと様々である。もちろんすべて許可をとった上での撮影だ。事後承諾もあるが。

 

「さて、後はメインとなるダンスシーンだが、それ以外にもう少しインパクトのある映像が欲しいねえ」


「はいはーい!!」


「はい、美紀くん」


「あーし見たいのがある!!」


 そういって美紀が提案したのは、かつて伝説とまで言われたCMの再現である。

 

「俺体育の授業でしかやったことないんだが」


 昼休みに武藤が連れてこられたのはグラウンドにあるサッカーのゴール前である。 

 

「なんか昔みたんだけどさ、ボールをバーにぶつけて返ってきたのをまた蹴ってぶつけるってのをやってたんよね。あれがもっかい見てたい!!」


「……ちょっと練習させて」


 そういって武藤はサッカーボールを蹴る。リフティングしてみるが、1回目、3回しか蹴られなかった。2回目、10回程蹴られた。3回目、気がつけばボールを落とすことがなくなった。次第になれてきたのか頭に乗せたり踵で蹴って頭上を後ろから戻したりとかなり高度なテクニックを使いだした。そして回転をかけたりしながら真上に蹴り上げ、感触を確かめる。

 

「ほっ」


 そしてゴールに向けて蹴ると、しっかりとゴールバーの上にボールは当たったが、跳ね返ったボールはかなり手前に落ちた。

 

「余程の威力かトップスピンをかけないとここまで戻ってこないか」


 距離が結構離れているため、重力に負けてしまうようである。次に武藤はトップスピンをかけてバーにあてると、ボールは武藤より若干遠くに跳ね返ってきた。武藤はそれをトラップしてそのままリフティングをするとすぐさままたボールを蹴った。今度は手前に跳ね返って来たが、武藤はそれを再びトラップしてリフティングを続ける。気がつけば全くボールを落とすことなく、延々とリフティングとバーに当てて跳ね返すという行為を繰り返していた。

 

「段々とわかってきた」


 慣れてきた武藤は、ついにはその場を全く動くことなくバーにボールを当ててそれをリフティングするという行為を左右交互の足で続けていた。

 

「ほいっ」


 ついには跳ね返ったボールを踵でトラップしたり、足を交差させたりと妙技を繰り出し始めるもボールはただの1度も地面につくことがない。

 

「ラストっ!!」


 ついには跳ね返ったボールをバク宙して両足で挟んで着地した。

 

「うおおおおおおおお!!」


「きゃあああああ武藤くーーーん!!」


「すげえ!! なんだあれ!?」


「?? え?」


 きれいに着地して満足した武藤が振り返ると、そこにはとんでもない数の生徒たちが周りで見学している姿があった。

 

「なんで!?」


 撮影開始前は恋人達しかいなかったはずである。

 

 武藤は気が付かなかったが、真剣に練習している間に1人増え、2人増え、気がついた女子達がどんどん人を呼び、ついには数十人の群れが囲っていたのである。武藤はサッカーが楽しくなり、全くそれに気がついていなかった。

 

「いやあ、いい画が撮れたよ。さすが武くんだねえ」


 ちなみに現在の武藤は邪魔になる為、マスクもメガネもしていない。そのため非常に目立っていた。

 

「かっこいい」


「誰あのイケメン!? 1年!?」


「やっぱ武藤くんかっこいい」


 知っているメンバーは1年の1組と2組の女子生徒達である。だがここには美紀達につられてきた2年生と弥生の友人である3年生もいた。

 

(どうしよう……)


 もちろん撮影していた生徒も多くいた為、ついに武藤武の存在は学校中に知れ渡ることになった。

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