第173話 盗撮

 武藤は早速仕掛けに入った。5組の教室の前を通過した際に盗撮魔法を設置した。これは通常の人には見えない魔力の球であり、それが見聞きしたものを武藤が直接知ることができるという魔法である。その映像をディスプレイのように映し出すこともできる為、それを直接スマホで撮影すれば、政治家の怪しい会合どころかアイドルの着替えも情事も盗撮し放題のとんでも魔法である。

 ちなみに武藤はこれを覗き等で女性につかったことはない。なぜなら武藤は女性に困ったことがないからだ。そうまでして裸が見たいと思った女性がいないどころか、むしろ相手から脱いで迫ってくることのほうが多いので、使う必要がないのである。

 

 この魔法は自由に移動できるだけでなく、対象となる人物に直接設置することもできる。対象の頭上に決して切れない紐でつながった風船が浮いているような状態になり、リアルタイムに武藤に情報を送り続けるのだ。

 

 

 昼休み。もはや日課となった屋上での恋人たちとの昼食。武藤は魔法でディスプレイのようなものを作り出し、机の上に設置した。

 

「なにこれすごっ!?」


「魔法ってこんなこともできるの!?」 

 

 唐突に空間に浮かび上がる映像にみんな驚く。

 

「これどこ?」


「静かに」


 武藤に言われて全員が小声になる。武藤の盗撮球は5組の教室のあらゆる声を拾ってきている。映像は教室忠臣の真上からなので、中心部しか映っていない。

 


『おい、竹山。お前アカ乗っ取られてね? お前のアカウントで盗撮犯って自分でつぶやいてるぞ』  

 

『はあ!? ……ホントだ。誰だこんなことしたやつは!!』


 色々と聞こえてくる中で武藤はそんな会話を聞き取った。すぐ様声のする方へ盗撮球を動かすと、4人ほどの男子生徒たちが固まって食事を摂っていた。

 


『まさか……だめだ、ログインできねえ』


 本アカは武藤は何もしていないので裏アカの方である。


『なに、お前盗撮犯なの?』


『んなわけねえだろ!!』


 竹山の裏アカはもちろん誰にも知られていない。竹山は裏アカをいくつも持っており、鍵のかかっていない外部に広めるようのアカウントが武藤に乗っ取られたアカウントである。今回の武藤達の盗撮も偶然を装って見つけた体にしてあるのだ。

 

「あいつか」


 武藤はターゲットを捕捉した。

 





「彼は一体誰何だい?」


 映像を消した武藤に香苗が興味深そうに尋ねる。

 

「朝、俺達のことを盗撮してネットにアップしたやつ」


「ええ!?」


「すぐに消してやったけど、あいつの端末にはまだ残ってるだろうからな。どうしてやろうかなあ」


「どんな映像なんだい?」


「俺と百合たちが腕くんで歩いてるとこ」


「……その映像に何か問題があるのかい?」 


「2人の顔が映ってる。百合も香苗も超絶美少女なんだから、話題になっちゃうだろ。それを狙ってアホどもが寄ってくる可能性がある以上、勝手にアップなんてマネは許せん」


「……」


 武藤の一言に無言になった二人はそのまま何も言わずに左右から武藤に抱きついた。

 

「私達の為に怒ってくれてるのね」 


「ああ、君はズルイなあ。そうやってちょくちょく惚れさせてくるんだからねえ」


 そういって2人は武藤の体に顔を擦り付け、まるで猫が匂いをつけてマーキングしているかのようにしがみついていた。

 

「昨日は朝陽に取られたから今日は私が……」


「私が取ったみたいにいうな!! あんたのせいでしょ!!」


 外野の朝陽の声が全く聞こえないように香苗は武藤の前に座り、そのズボンを下げた。

 

「いただきます」


 武藤は連日学校で美味しくいただかれた。

 

 

  

 

  

 その日の夜。武藤は恋人たちとの逢瀬もせず、異世界に行くこともせず、ただ竹山の行動を監視していた。盗撮球によるものだが、男の観察程つまらないものはない。武藤にとっては地獄の時間であった。


 そして次の日の朝。再び武藤は百合と香苗と3人で登校していた。案の定、後ろに竹山が来て撮影を始めたので、武藤は振り向いて竹山の前に移動する。

 

「盗撮野郎」


「な、なんだ一体?」


 武藤の言葉に周りの注目が集まる。 

 

「人を盗撮してネットにアップして楽しいか?」


「!? そ、そんなことしてない!!」


「じゃあスマホ見せろ」 


「ぷ、プライバシーの侵害だ!!」


「お前が侵害してるんだろうが」


「しょ、証拠でもあるのか!!」


「あるぞ」


「!?」


「タカ」


「ほーい」


 武藤が呼ぶと、スマホで撮影中の貝沼が竹山の後ろから現れた。

 

「絶対お前はまた盗撮すると思ってたからな。盗撮しているお前を盗撮してもらった」


「!?」


「ばっちり映ってるぞ。自分が撮影してるときはまさか自分が撮影されるなんて思わないからな。すぐ真後ろで盗撮し始めた瞬間から撮ってる。そっちのスマホに武達が映ってるところもバッチリ撮影したから言い逃れできんよ」


「で、盗撮犯。何かいうことは?」


「……」


「仕方ない。警察を呼ぶか」


「!?」


「証拠もあるからなあ」


「す、すまなかった」


「スマホ」


「え?」


「スマホ貸せよ」


 武藤にそういわれ、竹山は渋々とスマホを武藤へと渡す。

 

「おまえ……ホントの盗撮犯じゃねえか!!」


 武藤がスマホを確認すると、出るわ出るわ画像や動画は盗撮と思わしきものだらけだった。

 

「ん? おまえ……百合が多くないか?」


「え? 私?」


「!?」


 どうやって撮ったのかわからないが、体操服姿や廊下を歩いている姿等、百合の映像が多く保存されていた。さすがに着替えや家での映像はなかったので、ストーカーまではいっていないようだが、たとえ日常でも勝手に撮られた側からすれば恐怖でしかない。

 

「いつの間に!?」


 百合は全く撮られていた自覚がなかったようで、映像を見せると驚いていた。

 

「つまり昨日のおかずも百合だったってことか」


「!? な、なにを?」


 武藤が竹山を抱き寄せ、自分のスマホで動画を見せる。

 

「!?」


 それは竹山が昨日自宅でしていた自家発電の動画であった。

 

「お前みたいなタイプは絶対にパソコンとかにもバックアップとってるだろ? 実名入りでオナニー全国デビューしたくなかったらデータ全部消せ」


「ど、どうやってこれを……」


「本当の盗撮ってやつはこうやるんだ。お前みたいにSNSにアップしてやろうか?」


「や、やめてくれっ!! わかった!! 全部消すから!!」


「この動画を見てわかるようにお前に気づかれずにお前の部屋を調べることなんて簡単なんだ。ちゃんと消したかどうかなんてすぐわかるからな?」


「わ、わかった。全部消す。だから!!」


「あ? お前自分の立場わかってんの?」


「!? け、消させていただきます。だからお願いします!!」


「消すのは当たり前だろボケ。犯罪してんだからな。こっちは盗撮されてアップされてんだ。同じことしても文句ないよな?」


「す、すまなかった。もう2度とこんなことしないから」


「当たり前だろ馬鹿。そもそもなんでアップしたんだ?」


「その……山本さんに抱きつかれてて羨ましくて……」


「羨ましいと盗撮してアップすんのかお前は? 意味がわからんのだけど」


「ま、間瀬さんまで侍らせてるから炎上するかもって……」


「炎上させてどうすんだよ」


「や、山本さんが別れないかなあって」


「別れてお前にチャンスがあるの?」


「そ、それは……でも誰とも付き合ってなきゃチャンスが」


「あるわけねえだろ馬鹿。お前ただのストーカーじゃないか」


「ストーカーじゃない!! あくまで学校と登校中にしか撮ってない!!」


「十分なストーカーだバカタレ。変態という名の紳士と何が違うんだ」


 武藤は竹山の頭をひっぱたいだ。

 

「武、そろそろ行かないと」


「ちっちゃんと消しとけよ。ゴミ箱に入れるとかじゃないぞ。復元できないような完全な削除だからな。ちゃんと確認するから」


 そういって武藤達は学校へと急いだ。

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