第172話 SNS
「ふあああ、ねっむ」
「どうした武? また徹夜でゲームか?」
「あー特訓に付き合ってた」
「特訓? 何の?」
「素手での戦い」
「??」
長年武藤の幼馴染をしている貝沼は何故? とも誰の? ともいちいち聞かない。聞いても意味がないことを知っているからだ。
「おはようタカくん」
「!? 百合ちゃん?」
「おはようタカくん」
「香苗ちゃんも!? どうしたの? 朝会うの初めてじゃない?」
「いつもは1本早い電車なんだけど、武がこの時間って聞いたから」
「今日から一緒に通おうと思ってねえ」
そういって百合と香苗はいつもどおり武藤の左右を陣取る。だが電車の座席は2人用座席がメインの為、武藤は貝沼と、百合は香苗と座ることになった。
「おはよう山本さん」
「おはよう仁科さん」
武藤達が駅につくといつものように仁科が合流する。ちなみに仁科は同じ電車に乗っているが、後から乗ってくる為、一緒の車両で一緒にいることは難しい。なぜなら仁科が乗ってくる頃には電車は満員に近い状態になっているからそもそも移動ができないのだ。その為、降りた後で合流してくるのである。
「この時間に居るなんて珍しいね」
「武と一緒に登校しようと思って」
「相変わらず仲いいね」
「彼女ですから」
そう言って百合は武藤の腕に抱きつく。
「百合。目立つから駄目って武くん言ってなかったかねえ」
そう言いながら香苗も反対の腕に抱きつく。
「目立つからほんとにやめて」
「「はーい」」
二人はあっさりと離れた。ただ武藤をからかっていただけのようである。だが周りの反応、特に男子生徒たちの反応は凄まじかった。
「あいつ女神を2人も侍らせるなんて……一体誰だ?」
「あいつ昨日も女子生徒たちに囲まれてなかったか?」
「あんな眼鏡とマスクの地味なやつが一体なんで!?」
男子生徒達は視線だけで人が殺せるような殺気を武藤に放っていた。しかし武藤からしたらそよ風くらいにしか感じないので、武藤は全く反応することはなかった。
武藤は全く気にもとめていなかったが、この時間帯は一番登校する生徒数が多い時間帯であり、この件は大きな噂となって学校に広まっていった。
「知ってるか? なんでもこの学校に女神を2人侍らせてるやつがいるらしい」
「マジか!! そんな外道許せんよなあ?」
そういって武藤を見てニヤニヤと笑ってくる吉田と光瀬を見て、武藤はため息を付きながら答える。
「そんな外道なら人の恋人でも平気で奪うんだろうなあ。岩重さんとか佐藤さんとか」
「「すみませんでしたあああああ!!」」
2人は机に頭をぶつけて土下座した。
「で、どこ情報よそれ? 早すぎない?」
「さっき廊下で隣のクラスのやつが話してたぞ」
おそらく一緒の時間に登校してきた生徒だろうが、それにしても噂が広まるのが早すぎる。武藤は誰かの謀略じゃないかと疑いたくなるほど噂の広まりが早かった。
「武藤くん武藤くん、これって武藤くんでしょ?」
そういって教室に飛び込んで来たのは今朝一緒に登校した1組の仁科仁美であった。
「これは……」
仁科が見せてきたスマホには登校中の男の左右から百合と香苗が抱きついている動画が映されていた。顔は写っていないが間違いなく武藤である。
「盗撮か」
おそらく後ろを歩いていた誰かが撮影したのだろう。誰かの裏アカらしく、撮影者が誰かまではわからない。
「めんどくさいな」
そう言いながら武藤はスマホを取り出し、そのアカウントにログインし、動画を削除する。2段階ログインになっていなかった為、そのまま容易に乗っ取ることが出来た。ちなみに2段階ログインだったとしても、端末が違っていたとしても武藤の魔法はそれすらスキップしてしまう為、全く関係なく入れてしまったりする。まさに防御不能のチート魔法なのである。
「え? なんで? 武藤くんがアップしたの? って背中から撮れる訳ないよね。本人写ってるんだし……」
仁科は何が起こっているのか全く理解できなかった。
「アカウントを切り替えるっと。これか」
武藤は裏アカからつながっている本アカらしきものを見つけ、その投稿を確認する。
「男だな」
景色や食べ物のような投稿が全く無く、どちらかというと友人たちとアホみたいな投稿しかしていない、そして写っている手がゴツいことから男だと断定する。
「バンブーマウンテン。竹山ってことか? そんな生徒いる?」
「俺が知ってるのは3組と5組で、3組は女で5組は男だな」
「じゃあ5組の方だな。とりあえず報復しておくか」
武藤は動画が投稿された裏アカの方にネットで落とした卑猥な画像を貼りまくった後、パスワードを変更して入れないようにした。そして本アカに「私は盗撮犯です」という投稿をしておいた。
「えげつな!!」
「お前ほんとに容赦ないな」
「俺は手を出されなきゃ何もしない」
「まあ確かにそうだけどさあ」
「百合達の顔が出てるんだぞ? 変態が襲ってきたらどうするんだ」
「確かにそれはそうだな」
「さて、どうしてやろうか……」
「まだやるのか!?」
「だって動画はまだそいつのスマホにあるだろ? 消させないと」
「ああ、確かにそうかも。ちなみにどうするつもりだ?」
「そいつの親の会社に圧力をかけて親の仕事を無くして、家族が他にもいたらそっちからも攻めようかなと」
「おまえ……それはさすがに外道すぎるだろ」
「褒めるなよ」
「褒めてねえよ!! こっわ……盗撮で一家離散とかこいつこっわ」
「これで百合達が変質者に目をつけられて襲われたりしたらどうするんだ? 一家離散どころじゃないぞ?」
「確かにそうかもしれんけど、家族は完全なとばっちりじゃねえか」
「自分のせいで自分の家族もどんどん落ちていくのをみて、絶望する顔見てみたくない?」
「お前勇者じゃなくて魔王だろ」
「まあ冗談だ……半分」
「半分も本気だったのか!?」
「自分の女に危険が迫るようなことされて、許せると思う? お前、岩重さんが同じ目にあって、変態に目をつけられてストーカーされたあげくにレイプされて殺されたらどうするの?」
「殺す」
「犯人だけを? その情報をさらしたやつは?」
「……許せんなあ」
「だろ?」
「ああ、確かに俺も許せんわ」
武藤の意見に自分たちを重ね合わせた吉田と光瀬は武藤の苛烈な報復をしたいという衝動に納得する。
「まあ家族に罪はないからな。とりあえず犯人を捕まえてみよう」
そう宣言する武藤を吉田と光瀬はうわぁという声が聞こえてきそうな表情で見つめることしか出来ないのだった。
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