第169話 異なる日常

 その日の放課後。武藤宅には何故か美紀達2年生組と弥生が来ていた。

 

「ダーリン久しぶりだし」


 武藤からしたら約1ヶ月ぶりだが、美紀達からしたらほんの数日振りである。しかし魔力保有量が百合達に大きく水を開けられており、美紀からしたらそれが面白くなかった。

 

「わ、私もその思うところがあってだな。い、今ならいける気がすると言うか……きゃっ!?」


 顔を真赤にしてそんなことをのたまう弥生を武藤は心底可愛いと思ってしまった。それで思わず気が変わらないうちにと寝室に弥生を運び、あっという間に頂いてしまった。もちろん美紀達が撮影済みである。

 

 

 

 その後、もちろん美紀達も全員気絶させられ、気がつけば全員一緒に夕食を摂っていた。

 

「お、男の人ってあ、あんなにすごいのか?」


「ダーリンだけが特別じゃない? ダーリン以外しらんけど」


「まあ私達は全員旦那様しか知らないしね。知る必要もないし」


 そこは小学生の幸次がいるにもかかわらず、赤裸々な会話が広げられていた。幸いにも幸次には全く理解できなかった為、事なきを得たがさすがにどうかと武藤は恋人たちを注意した。恋人たちはその忠告を素直に受け、そういう会話は幸次がいないところですることになった。

 



「すげえ!! 兄ちゃん魔王倒したの!!」


 異世界に行ってきたと話しても全く疑うことなく素直に信じる幸次に武藤は気分がよくなり、ついつい話しまくってしまった。元々幸次は家族も同然の為、隠すことはないのだ。

 

「で、子供ってどういうことかな?」


「……」


 それとは別に非常に強い圧が武藤を襲っていた。

 

「私達には避妊してるくせに!!」


「地球でこの歳で子供出来たらまずいだろが!! っていうか幸次がいるところでそういう話はすんな!!」


 子供が早く欲しいが我慢している美紀や洋子は、最初の子供を取られ、納得できずに憤っている。最初に子供を作るのは自分だと思っていたからだ。 

 

「むう、確かにそうだけど……なんか納得いかない」


「でも逆に考えれば旦那様が種無しじゃないことが証明されたってことじゃない?」


「!? そうね。これで子供について憂う必要はなくなったわね」


 あくまで2人はポジティブだった。

 

 

 

 

 

 

「おいっ」


「ああ、あいつか」


 翌日。武藤が電車に乗ると男子生徒たちが武藤をみてヒソヒソと話す声が聞こえる。武藤は視線を向けるも知らない顔であった。

 

「武、知り合いか?」 


「全然知らん」


 そんな男のことなど気にもせず、貝沼と会話をしつつ電車を降りると、やはり昨日のように女子生徒達が武藤に挨拶をしてきた。

 

「武藤くんおはよう」


「おはよう」


 ちなみに隣りにいる貝沼は視界に入っていないようである。

 

「そういえば昨日の話しだけど早速1組と2組でグループ作ったの。武藤くんの連絡先も教えてほしいな」


「いいぞ」


「!? 仁美ずるい!! 武藤くん私も!!」


 気がつけば武藤は囲んでいた女子生徒全員と連絡先を交換していた。 

 

「相変わらずモテるなお前は。百合ちゃんに怒られるぞ」


「大丈夫。山本さんには許可もらってるから」


「え? マジで!? 百合ちゃん心広すぎだろ」


「えーと貴方は武藤くんの友達?」


「6組の貝沼だ。武とは保育園に入る前からの幼馴染だな」


「そうなんだ。よろしくね」

 

「ちなみにタカはフリーだし、頭も良くて優しくて気配りできるすげえいい男だぞ」 

 

「!?」


「武藤くんの友達ならきっと有望株ね。連絡先交換しよっ」


 気がつけば貝沼も女性たち全員と連絡先を交換していた。



「武」


「なんだ?」


「俺スマホに母さん以外の女の連絡先入れたの初めてだ」


 ちなみに貝沼は百合達の連絡先どころか、稲村の妹の連絡先すら知らなかったりする。

 

「……良かったな」


「武……心の友よ」


「どこの映画版だお前は」

 

 貝沼と稲村、そして猪瀬の関係者以外、すべて女性の連絡先しか入っていない武藤はいたたまれなさからそっと貝沼から視線をそらすのだった。

 

 

 

 

 

 

 

「おはよう武藤くん」


 教室についてもやはり武藤の周りには女子生徒が集まってきた。昨日集まってきていたのは勘違いではなかったようだと武藤は内心ため息を付く。

 

「ねえねえ武藤くん昨日TVみた?」


「TVってほとんどみたことないな」


「そう……昨日MIKIがTVに出ててさ」


「え?」


「知ってる? MIKIってうちの学校にいるらしいよ?」


「……」


 よく知っています。なんなら昨日搾り取られてましたとはいえず、武藤は思わず黙り込む。

 

「モデルだけあってやっぱすっごいきれいだよねえ」


「あの髪の透き通った透明感に唇のみずみずしさ!! どうやったらあんなきれいになれるんだろ」 


 昨日その口に散々しゃぶられてましたとはいえず、武藤は沈黙を貫いた。

 

「でもMIKIのすごいのは人気なのに彼氏がいるって宣言してるのよね」


「すごいよね。普通は隠すのに全然隠さないし」


「事務所も全然公認の相手らしいよ。実は相手も芸能人なんじゃない?」


 気がつけば武藤の周りはその話題で女子達が大いに盛り上がっていた。

 

「それより武藤くん。ちょっと確認したいんだけど」


「……何?」


「なんか武藤くんと連絡先交換したって1組の仁科にめっちゃ自慢されたんだけどほんと?」


「仁科が誰かしらんけど今日結構な人数と交換したのは確かだな」


「!? ずるい!! 私とも交換して!!」


「私も!!」


 気づけば武藤はその場にいる全女子生徒と連絡先を交換していた。ちなみに吉田と光瀬は岩重と佐藤の圧により周りの女子生徒が怯えた為、交換することができなかった。

 






 本日の4限目は体育だった。男子と女子は基本的に一緒に授業はしないのだが、体育教師である高橋が居ない為、急遽中林が担当することになった。そして体育の授業は1組と2組合同で行われる為、1人で男女両方の面倒を見るのは非常に難しい。その為、今日は体育館で男女ともにバスケをすることになっていた。一緒とはいってもコートの1面づつでそれぞれ別で試合を行うだけで、男女混合というわけではない。

 

「よしっ!!」


「いけっ越智!!」


 だがそれでも男子生徒達は非常に気合が入っていた。なにせ落ちに落ちた女子達からの評価をあげるまたとない機会である。ここで活躍すればワンチャン信用を回復できる可能性があるのだ。故に男子生徒は必死である。これに勝ったら全国出場くらいには気合が入っていた。

 

「たけしー!! がんばってー!!」


「大ちゃんがんばって!!」


「浩一、武藤くんの足引っ張ったら駄目よ!!」


「なんで俺だけ!?」


 だが何故か応援されるのは武藤、吉田、光瀬の3人だけであった。  


「くそっなんであいつらばっかり!!」


 必死にシュートを決める越智は愚痴をこぼす。それもそのはず、武藤は全くやる気を見せずにぐーたらとコートを歩いているだけにもかかわらず、隣のコートからはひたすら黄色い声が武藤にかけられるからだ。

 

 だが教師である中林もそれを注意しない。なぜなら武藤がやる気を出してしまうと全く試合にならないことがわかっている為だ。

 

「こらあっ!! ちょっとはやる気だしなさいよ!!」


「それは酷というものだろう朝陽。武くんが本気を出したら試合にならないじゃないか」


「お姉ちゃんは武さんのかっこいいところを見たいんだと思いますよ」 

 

「!? 月夜!!」


「あーなるほどね。それは確かに私も見たいねえ」


 月夜の言葉に香苗は確かにと納得て思案する。

 

「武くん、今から10点取ったら朝陽からえっちなご褒美があるよ!!」


「!? ちょっと香苗何言ってんの!?」


「……」


 香苗の言葉を聞いた武藤はコートから歩いて出ていく。

 

「あれ? 武どうしたんだろ?」

  

 コートから出た武藤は外にメガネとマスクを置いてコートに帰ってくる。1組と2組の女子にはどうせもう自分の力は知られている為、既に自重の心はなくなっていた。

 

「あっ武ガチだ」


 ここに全国を制した戦神が帰ってきた。

 

 

 そこからの武藤は全く容赦がなかった。ボールを奪えばすぐにその場から3ポイントを決める為、わずか1分の間に既に3本決めて9得点である。

 

「くそっなんなんだあいつは!!」


 かつてのカーストトップの栄光もどこへやら。完全にモブとかした越智は武藤の理不尽さに憤る。

 

「!?」


 そしてドリブルすると同時に一瞬で武藤に奪われた。そして武藤は大きくボールをバウンドさせ、自らもジャンプし、豪快に1人アリウープを決めた。

 

「きゃあああああ武藤くーーーん!!」


 黄色い悲鳴のような絶叫が体育館に木霊した。ほとんどの女子生徒が自分たちの試合そっちのけで武藤の試合を見ていたのだ。

 

 ゴールを決めた後、武藤は試合を見ていた朝陽の元へと向かい、呆然とする朝陽の頬に手を当てた。

 

「かっこよかったか?」


「!?」


 朝陽は顔を真赤にし、腰が砕けたかのようにその場に座りこんでしまった。それをみて周りの女子生徒たちは再び黄色い悲鳴をあげる。

 

「斎藤さん羨ましい!! 私もそんなことされてみたい!!」


 周りは朝陽を羨ましがる声で溢れていた。

 

「ずるいですわ朝陽さん!! 貴方様!! 私にも!!」


「こらあっ武藤!! 試合中だぞ!!」


「羨ましいことしてんじゃねえ!!」


 綺羅里に足が向かいそうになった武藤だが、吉田と光瀬の声に足が止まる。そして苦笑しながら試合へと戻っていった。

 

 しかし、そのまま試合には戻らず、10点取ったから終わりとばかりにコートを出て、再びメガネとマスク姿に戻っていた。その頭には朝陽にどんなえっちなことをしてもらえるかの煩悩しかなかった。

 

 そこからの男子生徒たちは悲惨である。どんなにすごいプレイをしようにも先程の武藤のプレイと比べられるのである。当然勝てるはずもなく、インパクトも強すぎた為、女子達は武藤が出なくなると、男子の試合すら見なくなってしまったのだ。当然男子生徒達のモチベーションも下がりまくり、結局試合はグダグダになってしまうのだった。

 

 

「行くわよ百合さん!!」


「来なさい綺羅里!!」


 武藤は試合が終わると女子生徒たちに呼ばれ女子の試合を観戦していた。ちなみに1組対2組であるが、対峙している百合と綺羅里はボールを持っておらず、全く試合に関係ないところで睨み合っていた。

 

「こらっ綺羅里遊ぶな!!」


「百合!! 遊んでないで守りなさい!!」

 

「「ごめんなさい」」


 真凛と朝陽に叱られ2人はそれぞれのポジションに渋々と戻っていった。それをみて周りの女子生徒達も思わず笑ってしまう。1組と2組の女子は苦楽をともにしたせいか、非常に仲が良い。グループで固まってギスギスするようなこともなく、40人全員が1つのチームのように仲がいいのだ。

 

 細かくカーストを分ければ百合達がトップではあるが、ほぼ全員が武藤に惚れているという点からすると、全員がトップカーストといってもいい状態であり、誰が上とかいうギスギスした感じがないのである。なにせ何人でも面倒を見てくれる武藤という存在がいるおかげで、他人を蹴落とすというマネをする必要がないのだ。女の友情が壊れるのは基本男関係が多い。だがその対象の男の甲斐性が大きすぎる為、私のほうが好き等の不和がおきないのである。

 

 現在恋人でない彼女たちもまさか自分たち全員が恋人になれるとは思っていない。惚れてはいるが、アイドルというか目の保養のような感じである。もちろんワンチャン狙っていないわけではない。恋人に昇格した長谷川、東海林の2人を知っているからだ。その為隙あらばアピールをしている。

 今朝、武藤の連絡先を聞いた仁科という少女がまさにそれであり、朝連絡先をきいた際、それなりに豊満な胸を武藤に押し付けていた。武藤は名前は知らないが顔と胸は正確に脳内にインプットしている。武藤が女性の胸に弱いことは彼女たちからすれば周知の事実なのだ。有効な武器があれば使う。押せるときには押す。武藤はいつの間にか獰猛なハンター達に周りを包囲されていることにまだ気が付いていなかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る