第168話 モテる男

「えーダーリン達そんなことになってたの!?」


 昼休み。今日は恋人たちが全員屋上に集まっていた。武藤がテーブルと椅子を出し、全員で昼食である。本来なら曜日ごとに担当が決まっていたが、今日は報告もあったので急遽全員集合となったのだ。

 

「えーとそこで新しく彼女になった5人がこちら」


「武様と同じクラスの皇綺羅里ですわ。先輩方、これからよろしくお願いしますわね」


「同じく武くんと同じクラスの松井知美です」


「同じく、加賀美真凛だ。よろくしく」


「同じく東海林結愛です」


「私は百合と同じクラスの長谷川瑠美です。テニス部です」


「みんなよろしくー2年の吉永美紀、一応モデルやってまーす」


「同じく2年の猪瀬洋子よ。美紀のマネージャーもやってるわ」


「同じく2年の関谷真由です。ご主人様のメイドもやってます」


「私だけ3年ね。小鳥遊弥生よ」


 それぞれ知らない者どうしで自己紹介を行った。百合達はどちらにも面識があるので以下略である。

 

「えっとまさかだけど9女神って言われてる人たち全員武くんの恋人なの?」


「そうよ。すごいでしょ」


 瑠美の言葉に百合がドヤ顔で答える。瑠美もまだ他にもいるとは聞いていたが、まさか全員女神と呼ばれているメンバーとは思っていなかった。

 

「ひょっとして私って場違いなんじゃ……」


「何言ってるんだ。新しく入った5人は全員女神と変わらんくらい可愛いだろ」


 何の臆面もなく、自信満々にそう告げる武藤に5人は顔を赤くする。そしてこう思う。ああ、これが女ったらしというやつか……と。

 

「ちなみに武は嘘偽りなく、本気でそう思っているからね?」


 百合のその言葉を聞いて5人はますます顔を赤らめるのだった。

 

 

  




「え? じゃあ毎日抱かれてたの!?」

 

「ほぼ毎日2回は抱かれてたねえ」


「だからそんなに魔力が増えてたのね!! ずるい!!」


 食事も終わり、恋人たちでゆっくりとこれまでの話をしていると、夜の情事の話となった。そして百合達がほぼ毎晩抱かれていたという話になり、美紀が魔力を確認したところ、かなり増えていたのが確認され、美紀が憤慨したのが現在である。

 

「えっとつまり新しい子達もその……関係を?」


 弥生の言葉に戸惑いながらも新メンバー5人はうなづいた。

 

「まさか私だけ!? まさか後輩に先を越されるとは……」


 恋人たちの中で唯一武藤と肉体関係がない弥生は絶望した表情で落ち込んだ。

 

「えっと小鳥遊先輩はしないんですの?」


「弥生でいいよ。私はえっちなことより、もっとたっくんと学生らしくイチャイチャしたいんだよ。私だけ先に卒業しちゃうからね。残りの貴重な学生生活を楽しみたいんだ」

 

 熱くそう語る弥生に他の恋人たちは納得したという表情を見せる。

 

「そうだ。洋子」


「何? 旦那様」


「あのビルってもうできた?」


「もうほぼ出来てるって話だけど」


 あのビルとはこの学校の近くに建設中のビルであり、建設途中で猪瀬が買い取っている物件である。


「部屋確保できる?」


「最上階の1フロア丸ごと旦那様の部屋として確保してあるよ」


「マジで!? やるなあ社長」


 まさかの洋子の答えに隣りにいた美紀が驚いた。

 

「そこに防音室作れない?」


「え?」


「将来、弥生が配信するための部屋を先に作っておこうかなあって。代金は俺がだすから」


「たっくん!?」


「俺があそこに住めば、学校卒業しても家に帰れば一緒にいられるだろ?」


「!? たっくん大好き!!」


 弥生は思わず武藤に抱きついた。

 

「全くこういうところが武くんの武くんたる所以なんだろうねえ」


 香苗の言葉に全員が頷いていた。この男は無意識にこういうことをするから女がいくらでも落ちるんだろうな……と。

 

 

 

 

 

 

 


「どうしてこうなった」


 気がつけば武藤は教室で完全なリア充のようになっていた。休みのたびに吉田達と会話をすれば必ず周りの女子生徒達が集まってくる。もちろんカーストトップである綺羅里達もだ。故に武藤達陰キャグループが実質現在の2組カーストトップとなっていた。

 

「そりゃお前、あれだけ男前な行動とっておいて、女が惚れないわけないだろ」


「命がけで魔王を倒して無事に返してくれた存在だぞ? 俺が女でも惚れるわ」


「……そうなの?」


 吉田と光瀬の言葉に武藤は首をかしげる。武藤自身としては大したことはしていないつもりだったのだ。

 

「少なくとも俺はお前と同じ境遇になったとしても、絶対同じことはできん自信がある」

 

「そもそも何にもためらわず、熊相手に喧嘩は売れねえよ」 

 

 まず最初に命をかけて力をつけなければいけないのだ。大抵のものはそこで詰む。

 

「俺は今回1組と2組だけ転移されて良かったと思ってる」


「なんでだ?」


「全クラスいってたら1年の女子が全員お前の女になってた可能性が高い」


「そんなの同じ学年の男子生徒からしたら地獄だぞ」


 全女子生徒が1人の男の恋人になるのである。同学年の女子生徒が全員脈がゼロの状態だ。男子生徒達の学校生活は完全に男子校と同じものとなってしまうのである。

 

「それはさすがにないだろ……ないよね?」


 そういって武藤は辺りを見渡すが、女子生徒全員が武藤と顔を合わせることはなかった。

 

「じゃあ俺が強引に岩重さんを口説いたら俺の女になる?」


「ひえっ!? も、もちろんなびかないよ? だ、大ちゃんがいるし」


「えっ? 恵ちゃん?」


 なぜかどもる岩重に吉田は焦る。


「佐藤さんは?」


「えっ? も、もちろん私だって浩一がいるから……」


「奈美、こっちを見ていってくれるかな?」


 武藤からの言葉に陰キャグループの岩重と佐藤は顔をそらして顔を赤らめた。それに焦ったのは恋人である吉田と光瀬である。武藤に本気で迫られたら落ちない女はいない。自分達の恋人をきれいにしたのも武藤である。強引に行かれたら勝ち目はないのだ。

 

「武藤、他ではやめろよ」


「俺達だから冗談だってわかるけど」


 武藤が絶対に人の女に手を出さないのは2人には周知の事実である為、2人はもちろんそれが冗談だとわかっている。ちなみに岩重たちが焦っていたのは急に話を振られたからであり、自分たちの恋人を誂ういたずら心もあったための反応であり武藤に気があるというわけではなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「なあ」


「なんだ?」


「岩重と佐藤ってあんな可愛かったか?」


「もっと太ってたし、もっと顔も悪かった気がする」


「だよなあ。あっちにいってなんかあったのか?」


「見る限り吉田たちと仲良さそうだけど」


 2組の男子生徒たちは武藤達のやり取りを遠巻きに観察していた。男子は男子で会話をしているが、どうしても声が大きくなるのはカーストトップになっている武藤達である。どうしても気になってしまうのだ。

 

「越智の口車に乗らなけりゃ……」


「ああ? 俺が悪いってのかよ!! お前達だって賛成したから一緒に来たんだろうが!!」


「同調圧力だろうが!! 賛同しなきゃ孤立して生きていけないだろ!! そんなの脅迫と何が違うんだ!!」


 何の力もない男子生徒も女子と同じ立場である。そこで搾取される女子側にいたとしてもどうにもならない為、搾取する側の男子生徒についていくしかなかった。結局自分だけで食料の確保ができない以上、どうしても弱い立場になることは変えられなかったのだ。

 

「じゃあなんで高橋が女子を好きにできるって言ったときに反対しなかったんだ?」


「そこで俺1人が反対しても孤立するだろうが!!」


「そこが決定的な違いだろ」


「え?」


 男子生徒達の言い合いに何故か武藤が割り込んだ。

 

「同じ状況になったとしても、吉田と光瀬ならたとえ孤立しようが絶対反対したぞ。覚悟もなくただ流されるだけのやつは一番たちが悪いな。責任を全部人に押し付ける」


 武藤のその言葉に男子生徒達は押し黙った。反論の余地がないのである。

 

「この2人はな、助けても何の特もないのに命がけでただのクラスメートを救ったんだ。勝ち目のない狼相手に相打ちに持っていこうとしたんだぞ? それはつまり自分は死んでも相手を殺すっていう覚悟だ。恋人でもなんでもない赤の他人の為にだぞ? お前らにそれができるか? それが覚悟ってやつだ。覚悟もできん男が自分の不遇を嘆いてピーピー喚くな」


 武藤の言葉に一刀両断された男達はただただ黙るしかなかった。

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