第167話 異世界キャンプ

「あっそうだ」


 武藤は唐突に思い出し、収納からスマホを取り出した。その数10台。

 

「あっ私のスマホ!!」 


「向こうで充電しっぱなしになってたやつがあったから持って帰ってきた。自分のがあったら持っていって」


「ありがとう武藤くん!! もうどうしようもないと思って諦めてたの!!」 


 あまりに急に地球に戻されたため、充電したままだった生徒が10人もいたらしく、昨日武藤が拠点に戻ったときに放置されているスマホを回収していたのだ。

 

「残りの6台は1組ってことか。まだ時間あるから百合のとこいってくる」


 そういって武藤はスマホを持って1組へと移動した。

  

「あっ武藤くん!?」 


「え? 武?」


 学校ではかかわらないと言っていたはずの武藤が1組に現れ、百合達は驚いた。

 

「もう学校ではかかわらないってのは無しってことかねえ?」


「忘れ物を届けに来ました」


「OH!! トトロ!!」


「クリスよくそんなキャッチコピー知ってるな。まさかこんなネタに気づかれるとは思わなかったわ」


 クリスが思いの外、日本のアニメに詳しいことに驚きつつ、武藤は6台のスマホを百合の机の上に置いた。

 

「これ充電しっぱなしだったから持ってきた。2組のものじゃないらしい。該当いないやつがあったら俺が一旦預かるんでまた持ってきて」


「わかったわ。それはそうと昨日なんで連絡返してくれなかったの?」


「それを取りに向こうに行ってて、帰ってきてからは疲れてすぐ寝ちゃったんだよ」


「ということは向こうと行き来できるようになったっていうことかねえ」


「すげえ魔力使うけど可能だな」


「!? それじゃいつでもリイズちゃんに会えるね!!」


「会いたかったらいつでも連れて行くぞ」


 武藤もエドの様子を見たり、女王たちの話し合いがどうなったのかを確認したりと頻繁に行くつもりではある。

 

「やった!! 武の子供も見たいしね」


「それはそうとここって担任どうなるの?」 


 武藤の言葉にさすがに騒がしい教室も静まり返る。

 

「どうなるんだろうねえ」


「あっそういえば聞いた? 武くん」


「ん? 何を?」


 いつの間にか自分の隣りにいた長谷川瑠美が武藤に訪ねてきた。

 

「後半組の自然教室中止らしいよ」


「え?」


「そりゃあさすがに担任が一人行方不明になった場所で、呑気にトレッキングなんてできるはずないよねえ」


 自然教室は3クラスづつ前後半に別れて行われる。武藤達1から3組が前半で事件がおきた為、後半クラスは中止になったのだ。

 

「でもみんな喜んでたよ。自然教室は悪名高かったし」


 代々先輩から地獄だと言われて続けてきた催しである。行きたくないと言っているものも多数いた。その為、急遽の中止であるが生徒たちからは不平不満はあまり出ていないらしい。

 

「でも私達より自然で暮らしたやつはいないと思うよ」


「それはそう!!」


 百合の言葉に瑠美も同意する。なにせサバイバル生活までしていたのだ。同年代でこんな生活をしたことがあるやつが果たして何人いることか。

 

「でも不思議だよね。1ヶ月はいたはずなのにこっちでは全然時間が経ってないなんて」


 武藤達が異世界から戻ったのは、転移させられた直後の時間軸であった。抱き合って喜ぶ面々が後ろからくる3組に訝しげに見られたのも仕方がない。

 

「私達だけ3組以降のクラスの人より1ヶ月歳をとってしまったというのは悲しいねえ」


「あっ!! そっか!!」


 香苗の指摘に他の面々が驚く。 

 

「それは大丈夫と思うぞ」


「なぜだい?」


「女子生徒はあの森で若干だけど魔力を吸収してるみたいだから。魔力が体内にあると肉体が活性化するから見た目歳をとりにくくなるんだ」


「!? それほんと武藤くん!!」


「ああ。だから1ヶ月歳とるよりもプラスになってると思うぞ」


「!!」


 武藤の指摘にその場にいた全女子生徒が歓喜の声をあげた。まだ女子高生であるが、それでも女である。若さを保てるなんて言われれば喜ばずにはいられないのだ。


「武藤くんまた異世界に連れて行ってくれない?」


「あっずるい!! 私も!!」


 気がつけば百合と武藤の周りには1組の全女子生徒が集まっており、完全に囲まれて武藤は逃げ場がなかった。

 

「ただ過ごすだけなら最低でも1週間は過ごさないと意味がないぞ? しかも今度は地球でも時間がしっかりと同じだけ経過するからな」


「あーそっか。なら夏休みとかでいくしかないか」


「武藤くんがいるならまた異世界に行ってもいいね」


「武藤くんが来てくれてからは結構楽しかったし」


「ねー。キャンプみたいで楽しかったよね」


 食料も拠点どころか風呂まで用意されているのである。武藤が来てからの女子生徒たちの異世界生活はそれまでと比べてまさに至れり尽くせりの状態だった。しかも今回は戻れることがわかっているのだ。そうなれば異世界はただ大自然に囲まれたキャンプ生活となんら変わらないのである。それに付け加え若さを保てるようになるのだ。女性からしたら行かない理由がなかった。

 

「各自準備万端で食料とかタオルとか全部持っていくんなら、使ってた拠点そのままにしてあるんで行ってもいいぞ」


「!? ほんと!!」


「みんなで時間合わせて行かない?」


「1週間は必要なんでしょ? 夏休みの予定立てようよ」


 武藤の言葉に女子達はワイワイと騒ぎ出した。

 

「あー言わなくても分かると思うけど、向こうに行ったことがあるやつだけな。俺は送り迎えと風呂を沸かすだけで後は全部自分たちでやるんだぞ? それでもいいなら連れてってもいい。まだ夏休みまで時間あるし、ゆっくり相談しとけ」


 そういって武藤は自分の教室へと戻っていった。

 

 






「――という話をしたんだよ」

  

「なにそれずるいですわ!!」


「私も行きたい!!」


 教室に戻り、さきほどの話をすると案の定2組の女子生徒達も行きたいと騒ぎ出した。

 

「あんなに帰りたいっていってたのになんで行きたがるのか……」


「何言ってるの吉田くん。帰れるのかわからない状態と絶対帰れる保証があるのじゃ全然違うでしょ」 

 

「それはまあ確かに」


 東海林結愛に言われて吉田も納得する。確かに精神状態によって生活は左右されるだろう。精神的に余裕があれば、それだけ快適に楽しく過ごせるはずだ。吉田も東海林の言葉に賛同せざるを得なかった。

 

「じゃあ1組の子達とメッセグループ作って話そう」


 気がつけば武藤を置き去りに異世界キャンプが決定という前提で話が進んでいたのだった。

 

(あんな何もないところで何したいんだ)


 武藤は若さを保てるということが、女性にとってどれだけ重要なのかわかっていなかった。

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