第166話 クラスチェンジ
「またもや魔王を倒されるとは、さすがは勇者様!!」
「是非お話をお聞かせください!!」
気がつけば武藤は自然教室から帰ったジャージ姿のままで見目麗しいパーティー参加者の女性達に囲まれていた。
それは魔導国の女王であったり、魔導国最強と呼ばれる6杖と呼ばれる存在であったり、女帝と呼ばれるとんでも美人であったり、果ては獣王が紹介してきた娘であったりと様々だ。
こんなとんでも美少女達、しかもそれぞれの国のトップ層の面々に囲まれてチヤホヤされるなんてことは、武藤のこれまでの人生でありえなかった為、さしもの武藤も同樣を隠せなかった。
(誰を選んでも絶対碌なことにならない)
いくら武藤といえどもそれくらいは気づいていた。
「あっそういえば、次回も魔王は早く復活する可能性が高いぞ」
「えっ!? どういうことです?」
「今回も前回と同じく魔王が迷宮の外で死んだから、迷宮暴走はしなくなるかわりに弱体化されずにしかも復活が早くなるらしい。だから各国で色々と争ってる時間はないぞ。倒せる戦力を育てておいたほうがいい。次も俺がすぐに来られるとは限らないから」
勇者召喚の魔法陣が発動するには桁違いの魔力が必要となる。時間をかけて魔石を集めなければならないのだ。実際は武藤がつくる魔力球が1つあれば十分なのだが、それを渡した場合に再び武藤と百合が呼ばれる可能性が高い。ならば各国で対魔王戦力を育ててもらったほうが武藤には都合が良いのだ
「しかし、迷宮が暴走しないのなら魔王を倒す必要があるのか?」
ヒルデの言葉に周りも確かにと賛同する声があがる。
「いつこっちに来るかわからんやつを放置してもいいのなら別にいいけど。しかも外にいる分、無尽蔵に高速で強くなっていくから、放置すればあっという間に勇者ですら倒せない強さになりかねないぞ」
「!?」
その言葉にさしものヒルデも言葉に詰まった。
「むう、それならなおのこと勇者殿の血筋を多く残す必要があるのでは?」
「たとえ今仕込んでも5年後じゃ戦力にならんだろ」
「それは重々承知しておる。じゃから魔大陸に毎年でも調査を向かわせ、魔王復活と同時に勇者殿に頼むということになるじゃろう。まあ勇者殿が間に合わねば全滅じゃろうがな」
「なら意味ないだろ」
「じゃが間に合った場合、我らは今後も生き残ることができる。そうなれば今は無理でも10年後、20年後にその血筋は無駄にはならんじゃろう。我らはたとえ先が暗くとも未来を諦めるわけにはいかんのじゃ」
現時点で武藤に頼らざるを得ない状況ではあるが、武藤がいなくなったとしても大丈夫な状態を作りたいという気持ちは武藤にもわかった。それが自分の子供というのがいただけなかったが。
「別に勇者殿の子供を無理矢理戦場に立たせようというわけじゃない。ただ、魔王という脅威が来た時に少しでも勝てる可能性を残しておきたいだけじゃ」
本来なら生涯に1度現れるかどうかという魔王が、今回は大盤振る舞いでオリンピック並に短い期間で現れるという地獄。武藤がその状況を作ったと攻めることもできるだろうが、武藤としては勝手に誘拐してきたあげく、すぐに外にほっぽりだして、そのくせ勇者が死ぬと命をかけて魔王を倒せとか言われ、苦労の末倒したのにこうなったのはお前のせいだ、と言われてもさすがに無茶いうなとしか言えない。
魔王討伐を個人に押し付けておいて、なおかつ責任までをも押し付けるのはさすがに為政者として以前に人として終わっている。その為か、周りの女性陣達が武藤を攻めることは一切なかった。
「一応言っておくと、リイズが認めてない相手には手を出さないから。そのへんの話はリイズに通しておいて。また何日かしたらくるから」
そういって武藤は周りの女性達が止めるまもなく、地球の自分の部屋へと戻っていった。
地球に戻ると既に日付を跨いでおり、深夜と呼ばれる時間であった。スマホを見れば恋人たちか凄まじいまでのメッセージが入っていた。さすがに異世界では受信できない為、こちらに来た瞬間に音が鳴り止まない程に連絡が来たのである。
武藤はそれを確認せずにそのまま眠りについた。なぜ確認しなかったかといえば、既読無視すると恋人達が非常に面倒くさい反応をするからである。疲れて眠って気が付かなかったといえば、そこまでにならない為、武藤はあえて見なかったことにした。
翌朝。いつも通り武藤が登校すると明らかに雰囲気がおかしかった。
「おはよう武藤くん」
「またマスクと眼鏡したの?」
電車から降りると同じ学校に向かう生徒たちの中から一部の女子生徒が武藤に声をかけてくるようになったのだ。
「おはよう。久しぶりの家はどうだった?」
異世界で見た覚えがある為、名前は知らないが無視するのもなにかと思い武藤は無難に返答した。
「恥ずかしいけど、お母さんにあった時に泣いちゃった」
「私も私も!! もう会えないと思ってたからつい……ね」
「なにもない平和な日常ってのが如何に幸せかわかったか?」
「わかったわかった。もうめっちゃわかった」
「親のありがたみとか、食べ物のありがたみがすっごくわかったわ」
「私なんて、ずっとうざがってたお父さんに思わず抱きついちゃったし」
「わかる。私なんて弟に抱きついて姉ちゃんうざいって言われたし」
みんな色々とあったようで話は付きず、気がつけば武藤の周りには女子生徒たちが群がったまま学校までの道のりを歩くことになっていた。もちろん周りからは不審な目で見られていた。
「おはよう武藤くん」
「あれ? またメガネにマスク?」
教室に入っても同じで、武藤が教室に入ると女子生徒たちがほぼ全員武藤に声をかけてきた。
「……なんだあれ?」
「なんであいつに?」
なぜかひたすらモテている武藤に対し、男子生徒達はそれを訝しげに見つめることしかできなかった。
「おっす武藤。久々の格ゲーはおもしろかったぜ」
「お前は久々じゃなくても一緒だろ」
「まあそうだけどな」
「で、光瀬はどうしたんだ?」
既に来ていた吉田と挨拶代わりに会話をするが、机に倒れ込んでいる光瀬が気になり問いかける。
「あーなんか推しの放送が朝6時までやってたらしくて……」
「あー」
それを徹夜で見ていたのだろう。異世界から帰ってすぐでもこいつは相変わらずだと武藤は逆に安心する。
「Vチューバーの放送って見たことないんだけど、どんなことしてるの?」
なぜか武藤達の席の周りには女子生徒達がほぼ全員集まっており、普通に武藤達の会話に入ってきた。
「えっと昨日見てたのはゲーム配信で、恐竜を捕まえたり拠点を発展させたりするゲームで、それをVチューバーグループの人たちが協力して10日間プレイするって企画配信だったんだ」
「へえー」
「すごくおもしろくてさ。本当なら0時にとじるサーバーが延長しまくって結局6時までやってたせいで寝られなかったんだ」
「おもしろそう。私も見てみようかな」
「是非見て!! 絶対面白いから!!」
何故か陰キャグループがいつの間にか陽キャグループにクラスチェンジしていた。傍から見ていた武藤はそう感じていた。
「おはようございます貴方様」
「おはよう武くん」
「おはようたっちゃん」
「たっちゃんはやめろ」
そうこうしていると2組の陽キャグループ女子である皇一派が登校してきた。そして教室に入るなりいの一番に武藤の元へとやってくる。
「えーたっちゃん可愛くない?」
「死んじゃうかっちゃんよりはいいけど、たっちゃんて顔じゃないだろ俺」
「えー結構可愛いと思うけどなあ。ねえ?」
真凛が周りに賛同を求めるとなぜかみんながうんうんとうなづいていた。これが同調圧力というやつか。武藤はそんなことを考えていた。
「で、みんな久々に家に帰れてどうだった?」
武藤が話をそらすとやはりみんな似たりよったりだったようで、涙した女子生徒が多かったようだ。
「私もついついお母様に抱きついてしまいましたわ」
「私も」
「何気ない日常が如何に大切かわかった気がするわ」
知美の言葉に全員がうなづいていた。
「これで俺が平和な日常をすごく大事にしてる意味がわかってもらえたかな」
「そりゃいきなりあんな世界に呼び出されりゃそうなるわな。お前はマジですげえよ」
武藤の言葉に吉田が答える。そして周りは当然とばかりに吉田の意見に賛同する。
「武藤くんがいなかったらこんな風に笑っていられなかったものね」
「向こうでの生活も武藤くんがいなかったらもっと悲惨だったろうし」
「本当にありがとうね、武藤くん」
「偶々気まぐれで助けただけだ。……まあお前らが無事でなによりだ」
武藤がぶっきらぼうにそう答えると、何故かほとんどの女子生徒達が赤面していた。
「……貴方様? そうやって女をどんどん落とさないでくれます?」
「……落としてないよ?」
「落ちまくってますわよ!! 少なくともここにいるほとんどの女子生徒が今まさに落下中ですわ!!」
「……解せぬ」
武藤が女心を理解できる日は遠いようだった。
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