現代無双編

第165話 帰還

「ここは……」


 武藤が辺りを見渡すと、そこはどこかの山の中であった。しかし異世界でないことは分かる。なにせ足元がアスファルトの地面だったからだ。

 

「あれ? ここは?」


「あれ? 確か充電してたはずなのに……」


「あっ女子が!!」


「あれ? 男子?」


 武藤の周りは騒然としていた。

 

「地球よ!! 私は帰ってきたああああああ!!」


 武藤が一人大声で叫ぶと、漸くその事実に気が付いたのか生徒たちが涙を流し、辺りには歓喜の声が広がった。

 

「やったあああ!!」


「戻れた……戻れたよおおお」


 女子生徒たちは抱き合いながら涙し、男子生徒達はハイタッチで近くの仲間と喜びあった。

 

「ふう」


 武藤は一つ溜息を付くとその場に腰を下ろした。

 

「さすがに3日も戦い続けたら疲れたな」


「え? む、武藤くん何と戦ってたの?」


「魔王」


「ええっ!?」


「倒したら女神様が元の世界に戻してくれた」


「!? や、やっぱり武藤くんが……ありがとう!!」


 武藤の周りにいた女子生徒達が武藤へと抱きついた。

 

 ちなみにここは1組のいる場所である。武藤が2組の最後部から百合達の元に移動中に召喚された為、その召喚された時点での位置がここであった。

 

「な、なんで? 誰だよこいつ?」


 その光景に周りの男子生徒達はただただ頭にクエスチョンマークが浮かび上がるのだった。

 

 

 

「百合!!」


「武!!」


 武藤は群がる女子生徒達をなだめ、百合達の元へと急いだ。そしてちゃんと無事に百合たちも戻ってきていることに武藤は安堵する。

 

「どうやら戻ってこれたようだねえ。これも武くんが?」


「魔王を倒したら戻してもらえた」


「魔王!? また復活してたの?」


「ああ。百合のあった女神様とやらにあったぞ」


「ほんとに!?」


「本当は俺だけ返されるところだったんだけど、女神様に全員返してもらえるようにしてもらった」


 その言葉を聞いて周りにいた女子生徒達の視線が一気に武藤へと注がれる。まるで飢えた狼のような瞳が。

 

「でも3日も留守にするなんて初めてだったから心配したよ」


「ごめん、三日三晩ずっと魔王と戦ってた」


「3日も!?」

  

 女子生徒達は武藤の言っていることが嘘ではないと、異世界にいったからこそ理解できた。この男は本当に魔王を倒してきたのだと。 


「あーだけど高橋だけは死んでたから帰ってこれないっていってた」


「高橋先生が!?」


 その言葉に周りの生徒達も動揺する。

 

「なんで死んだの?」


「なんか魔樹って木に取り込まれて新しい木にされるそうだ」


「!? やっぱり……」


「そういえば香苗はずっとあそこの木が怖いっていってたもんな。予想が大当たりだったみたいだ」


 その言葉に香苗は思わず体が震えた。 

 

「ずっと、襲われるかもしれないって警戒していたんだが、やっぱりそうだったんだねえ」


「まあ無事に帰ってこれたんでひとまずこのオリエンテーリングという名のトレッキングを終わらせようか」


 武藤の声に女子生徒達が賛同し、一行は山を登っていくのだった。

 

 

 


 生徒たちは旅館に戻り、片田舎ではあるが文明のある場所に約1ヶ月ぶりに戻ることができた。

 

「おいしいよう、おいしいよう」


「まあまあ、たんとお食べ」


 生徒たちが先を争うように食堂で出された食事をがっつく姿を見て、旅館の女将は嬉しそうに微笑む。こんな田舎料理をここまで美味しく食べて貰えるとは思っていなかったのだ。ちなみにがっついているのは1組と2組の生徒たちだけである。

 

 しかし、安堵している生徒たちとは裏腹に教師陣は騒然としていた。

 

「捜索願は?」


「既に出してあります」


「山岳救助隊が間もなく到着するそうです」


 1組の担任である高橋が行方不明になっているのである。

 

「……」 

 

 中林としては複雑な気持ちであった。既に武藤から死んでいると報告を受けているのだ。探しても無駄ということを知っているが、それを言うことが出来ない。そしてあの男は犯罪者でもあった。実直な男であるが、中林はあえて何も言わないことにした。世の中には言わなくてもいいことが往々にしてあるのだ。

 

  



「やっと帰れるな」


「お前のおかげで生き残れた。助かったぜ武藤」


 自然教室という名の異世界生活が終わり、武藤達は帰りのバスに乗っていた。となりに座っている吉田と後ろに座っている光瀬が武藤と会話をする。が、バス内の雰囲気は行きとは全く異なっていた。

 

「吉田くん席かわろっか? 岩重さんの隣のがいいでしょ?」


「え?」


「光瀬くんも変わるよ。佐藤さんの隣がいいでしょ?」


「ちょっと!! 武さんの隣は私に変わりなさいな!!」


「ずるいよ綺羅里ちゃん!!」


「そうよ。じゃんけんで決めましょう」


 武藤の隣を女子生徒たちが取り合う。しかし、おかしいのはこれだけではない。

 

「なあ皇。お前らは一体どこにいたんだ?」

 

「……」


「ま、松井はどうだ?」


「……」


 先程までの喧騒が嘘のように越智の言葉に対して女子生徒達は一切口を開かない。

 行きのバスとの決定的な違い。それは女子生徒が陰キャグループの男子生徒以外と全く会話をしないのである。これは1組のバスも同樣であり、しかもこちらはもっとひどく、誰一人女子生徒は男子生徒と会話をしない。

 

 異世界にいったことにより、1組と2組の男子生徒と女子生徒の間には決定的な亀裂が生まれた。武藤達3人以外は完全に女子生徒から嫌われたのである。女性は除外対象となった男性に対しては本当に辛辣である。皇達はまさにゴミを見るような瞳で越智達を見ており、その視線に男子生徒たちは恐怖にも似た感情が沸き起こるのだった。

 

 

 

 家に帰ると武藤はすぐさま自分の家に転移ポイントを作る。そして転移魔法を使う。転移魔法は転移ポイントに刻んだ情報と自身の魔力を転移魔法により探し出し、そこの空間と現在の空間を入れ替えることで転移される。

 

 転移魔法は地球に来てから開発した魔法の為、異世界にはポイントがなく、飛ぶことはできなかったが、今回それが出来たことにより飛べるかどうかのテストが可能となった。ちなみに異世界側からは試していない。なぜなら戻れた場合に百合達が終わってしまう為だ。地球にいれば百合たちが死ぬことはそうそうないだろうから、地球からなら万が一戻れなくても恋人たちが安全な為、試すことが可能なのだ。


 そもとも転移ポイントがあったとしても今までの武藤なら異世界に戻ろうとは思わなかっただろう。なにせ当時唯一の恋人も一緒に地球に来ていた為、全く異世界に未練がなかったからだ。

 だが今は現地に身重の恋人がいるのである。責任感の強い武藤からしたらどうしても異世界に戻りたかったのだ。

 



「……行けたか」


 気がつけば武藤は異世界の新しく作った拠点にいた。武藤は素早く発電機等を全部回収し、その場に腕時計を1つ置き、そのまま城へと転移する。

 

「お兄様!?」


 城では未だにパーティーが開かれていた。

 

「あれから何日たった?」


「お兄様が居なくなって4日程経っていますわ」


 つまり3日戦って翌日に転移してきた為、時間経過にそれほどずれがないことになる。以前は5年程経過していたことを考えると可能性として浮かび上がるのは……。


(女神の加護とかいうやつか)


 武藤の直感が異世界との転移が可能なのも時間のズレがないのも、これが影響していると感じ取っていた。

 

「ところでお兄様はどちらにいっていらしたのですか?」


「魔王がいた」


「はあ!?」


 その言葉にリイズだけでなく、ディケ達ですら驚愕していた。

 

「3日程戦い続けて倒したから大丈夫だ」


「ど、どういうことですの!? 召喚陣は起動していませんわ!?」


 通常は魔王が生まれると自動で召喚陣が起動するらしい。だが今回は全く反応していない。

 

「どうも今回の魔王は女神としても想定外だったらしい」


「え?」


 そこで武藤は女神との話を掻い摘んで説明した。

 

「あの腐れ勇者がああああ!!」


 リイズは最初に勇者としてきた吉田に激怒していた。吉田としてもとばっちりで召喚された為、完全に悪いわけではないのだが、呼ぶ側としてはいらない苦労をかけられただけである。

 

「あれ? でもお兄様、魔王を倒されたのなら元の世界に帰られたのでは?」


「ああ、おそらく女神の加護とやらのおかげで、向こうと行き来できるようになった」 


「ええええ!?」


 その一言でパーティー会場は騒然となった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る