第159話 パーティー

 その日の夜。城のパーティー会場は近年稀に見るほどの盛況さであった。まさに豪華絢爛といった感じの衣装を身にまとう貴族たちと各国の王族達。リイズの即位式以来、いやそれを上回る盛大な宴は各国の首脳陣も唸るほどであった。

 

「これほどの規模の宴とは、さすがはグランバルド王国ですな」


「ここまで集まったのはリイズ陛下の即位式以来ですな。しかも今回は各国の王が自ら来ている」


 通常式典等は、余程のことがない限り王の代理が出席する。しかし、今回においてはまさかの各国の王が直々に来ているのだ。

  

「まさか獣王自ら来るとはな……」


 話をする貴族の視線の先にいるのはどう見てもライオンにしか見えない巨大な男であった。

 

 獣王。その名の通り獣人と呼ばれる種族が住むグランバルド王国の隣国である獣王国の王だ。その姿は人の姿に獅子の顔を持つ為、その迫力から人が近寄ることができず、周りからかなり浮いていた。

 

「これは!? こんな美味い肉は初めてだ……一体なんの肉なんだ?」


「わかりません……しかも食べると力がみなぎってくるようです。余程の魔力を秘めているのでしょう」


 周りから浮いていることなんぞ全く気にもせず、獣王達は一心不乱に出された料理を貪っていた。ちなみに獣王と側近が食べている肉は武藤が提供した地竜の肉である。

 

「さすがはグランバルドといったところでしょうか。こういう部分ではさすがに勝てませんね」


 そういうのは獣王といっしょに肉を貪り食っている側近とは別のもう1人の側近であった。

 

「王。さすがにはしたないので直接大皿から食べるのはおやめください」


「なんだと!? 急いで食わねば他の者に食われるではないか!!」


 立食形式であるが故に誰が取るともわからないのである。獣王ガルガンドは巨大な皿に乗せられた竜の肉を自ら切り取って食べていた。通常は使用人が切り取って渡してくれるのだが、それでは拉致があかないと思っての行動である。

 

「直接かじりついてないだけマシですか……」


 側近は獣王を見て溜息をついた。

 

 

「全く、獣は浅ましくていけないのう」 

 

「む? ヒルデか」


 そこに現れたのは女帝ヒルデである。

 

「いい加減、我のものになる気になったか?」 

 

「ふざけろ。尻尾も生えていない女に興味なぞないわ」


 獣王国は強さこそ正義である。故に強いヒルデを獣王はかなり評価している。しかし美的感覚が違う為、絶世の美少女と呼ばれるヒルデでも全く相手にされていなかった。ヒルデはヒルデで才能のある人材に目がない。圧倒的な強さを誇る獣王を是非とも自分のものにしようと常日頃から声をかけている。2人はそんな関係であった。

 

「ところで噂の勇者殿は見たか?」


「いや、まだ見ていない。だがいるのはわかる」


「ほう。我は感じないが?」


「隠していてもわかる。圧倒的な強者の存在が近くにある。俺の勘は外れたことがない」


 そういいながらも肉を貪る獣王を見て、ヒルデは期待が高まっていくのが分かる。

 

(これはよもや当たりか? 期待はしていなかったがガルガンドが言うくらいなのだから、偽物ということはないじゃろう)  

 ヒルデは獣王が言う圧倒的な強者という言葉に胸を踊らせながら、リイズが降りてくるであろう階段の上をじっと見ていた。

 

 


「似合っていますわお兄様!!」


「……嘘やん」


 そんな期待をされているとは露知らず、武藤はうなだれていた。それもそのはず。武藤は用意されたパーティー用衣装を来させられたのだが、まさかの……金ピカである。まさに豪華絢爛というに相応しい金色の布地に宝石が散りばめられた、年末の歌番組終盤に出てきそうな衣装であった。

 

「こ、これで出るの? 嘘でしょ?」


「凛々しいですわお兄様。ねっ? エウノミア?」


「そう……です……ね。ぶふっ」


「笑ってるじゃん!! 絶対笑ってるじゃん!!」


 エウノミアはこらえきれず吹き出していた。

 

(吉田や光瀬に見られなくてよかった。見られたら渾名が百式になっていたかもしれん)


 最古の金色モビルスーツの名である。

 

「でも女王より目立ってないこれ?」


「お兄様の勇者としてのお披露目なんだから当然でしょ?」


「……そういうものなの?」


「そういうものです」


 武藤の疑問はディケに即答で返され、武藤はそれ以降何も言えなくなるのだった。

 

 

 




「ようやくか」


 一心不乱に食べる獣王を余所目にヒルデは階段の上が騒がしくなってきたのに気が付いた。

 

「女王陛下、ご入場です!!」


 階段近くにいる兵がそう叫ぶと階段の上に派手な服装のリイズと、そのリイズが腕に抱きついた武藤が現れた。

 

「アレが勇者か。随分と若いな」


「全然強そうじゃないな」


「なんと豪華な服装だ」


 階段下からは様々な感想が紡がれているが、武藤本人としては気が気ではない。

 

(なんでこんなことに……)


 以前こちらの世界で勇者としてお披露目された時は、まだ国内限定であった。故にパーティー時もこの国の貴族のみであったが、今回は各国の首脳陣である。武藤だけならどうでもよかったのだが、自由にしてしまうとリイズに迷惑がかかる。武藤は柄にもなく緊張していた。

 

「これはこれはリイズ殿。お久しぶりですのう」


「!?」


 通常パーティー開催時は主催者側の身分が上の者から話しかける。それが王ともなれば他者側から話しかけれることなどないのだ。だがヒルデはためらいなく声をかけた。それに周囲は驚いたのだ。

 

「……おひさしぶりですわヒルデ殿。まさか貴方が来られるとは思いませんでしたわ」

(なんで呼んでも居ないお前が来てんだボケ!!) 

  

「ふっふっふ、実は偶然すぐ近く迄来ておってのう。そこで偶然話を聞いたのじゃ。まさか勇者殿が来られるとは思いもせなんだわ」

(勇者様が来るって聞いたからに決まってんじゃろう? どうせお主のことだから余には連絡しとらんじゃろうが!!)


「ふっふっふ」


「はっはっは」


 楽しそうに会話するも全く目が笑っていない2人の会話に周囲は恐ろしくて全く動けなかった。

 

「そこまでにしておけ。周りが怖がっているだろうが」


「おや、肉はもういいのか?」


 2人に割り込んだのは獣王である。その結果、固まっていた場の空気が漸く溶けたようで、周りもほっと息をなでおろした。

 

「久しぶりだなリイズ殿」


「お久しぶりです獣王殿」


 2人は以前、即位式で会って以来である。各国が代理人が来る中、獣王国だけは王自らが即位式に出席していたのだ。

 

「して、そちらが勇者殿か?」


「ええ、私の夫となる世界を救った英雄ですわ」


「ふむ。若いな。いや若すぎる。これで5年前といえばまだほんの子供ではないか」


「そちらは事情がありますの。勇者とは異世界の者。故に勇者は魔王を倒すと、すぐに元の世界に戻されるのです」

 

「ほう。そういえば魔王を倒した後の勇者がどうなるのか、話にきいたことはなかったが、そういう訳だったのか」


「ならばなぜここに勇者殿がいるのじゃ? そういう話しならばもう帰っているはずではないか」


「ええ。つい先日、何者かによって再びこちらの世界に呼び寄せられたようなのです」


「なんじゃと!?」


「なんだと!?」


 獣王と女帝は同時に驚いた。

 

「女神に誓って私達は召喚しておりませんし、そもそも召喚できるだけの魔力もたまっておりませんから、グランバルド王国は一切この件に関与していないことを誓いますわ」


「ふむ。となればどうやって呼び出したのか……」


「世界をまたぐ召喚術なんぞ、そうそうできるものではあるまい。それこそ国中の魔力を集結しても足らんじゃろう」 

 

 ヒルデの言う通り勇者召喚の魔法は膨大な魔力を必要とする。グランバルド城地下にある勇者召喚の魔法陣は実は魔王の魔力を使用・・・・・・・・して起動する。その為、魔王が復活しなければ起動しないのだ。逆にいうと復活と同時に自動で起動しまうのである。つまり実際、召喚しているのはこの世界の人間という訳ではないのだ。その秘密はグランバルド王族にのみ伝わっており、誰も知ることがない。唯一他で知っているのはディケとエウノミアだけである。リイズもその2人から聞いて知っているのだ。

 

「異世界に戻った勇者様は召喚された時の姿に戻っていますので、当時の姿そのままに若がっているのです」 

 

「なるほど。それでこの姿か。納得がいった」


「つまり強くなる前の勇者殿という訳か。残念じゃのう。じゃがそうなると彼が本当に魔王を倒した勇者殿かどうか誰もわからんということじゃないか?」


「私がわかりますが?」


「リイズだけじゃろう? そんなもの証拠にはならんわい」


「あ?」


「ああ?」


 お互い顔をくっつけて睨み合っている。

 

「全く……この2人は変わらんな」


 獣王曰く、以前の即位式のときからこんな感じだと武藤は教えられた。よそ行きだったのは最初だけだったようだ。

 

「では余の連れてきたものと試合をさせよ。それで見極めてくれるわ」


「受けて立つわ!! お兄様は負けませんから!!」


「……え?」


 武藤を置き去りに何か勝手に話が進んでいた。

 

「お願いしますね、お兄様」


「……何を?」


 武藤は一人つぶやくもその言葉は誰にも聞いてはもらえなかった。

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