第155話 追加

「香苗なんであんなこといったの?」


 入浴も終わり、全員が寝床に入る中、ベッドの上で百合が香苗に訪ねた。

 

「釘を指しておかないと収集つかなくなりそうだったからねえ」 

 

「それで全員来ちゃったらどうするつもりだったの?」


「今のクリスを見てこれに勝てると思ってくるやつは余程の自信家か、または……」


 香苗がそういったところで、最上階の武藤達の寝室入口に人が来ていることに気がつく。

 

「やっぱり来たねえ」


「予想通りというわけね」


「でもそういうことなんでしょ?」


 そこに現れたのは長谷川と東海林の2人だった。


「長谷川さん?」


「あら? 東海林さんも。こんな時間になんの御用かしら?」


「……わかってるくせに」


 既にこの2人とは恋人たちで事前に話し合っているのである。その時はみんなに話をした後に決定しようということになっていた。


「意地が悪いわね。そうよ。私達は武藤くんを諦めきれない2人よ。勿論クリスさんに勝てるとは思っていないけど、それでも諦めきれない馬鹿者よ」


「ふむ。合格だねえ」


「え? 何言ってるの香苗?」


「さっきのは篩にかけたってことでしょ。ミーハーな気分じゃなくて本気で武藤くんを思っているかどうか。いくら貴方達が全員美人だっていっても、ただ顔の良さだけで武藤くんが人を選んでいるとは思えないもの」


 東海林の言葉に香苗は嬉しそうに答える。


「ふむ、よく見ているね。でも君たちはそれほど武くんと関わりはなかったはずだが、何故そんなにもご執心なんだい?」


「私だってよくわからないわ。助けてもらったこともあるけど、私は別に間違ってないって肯定してくれて、何も言わないでも私のことをわかってくれてるって思ったら、その……よくわからないけどとても惹かれたの」


 そういって照れくさそうに長谷川は顔を真赤にして顔をそむけた。

 

「私は単純に強い男が好きだからよ。あっだからといって武藤くんより強い男が現れたらすぐに乗り換えるなんてことはしないから安心して。強くても非人道的なやつや、性格が悪いやつには興味ないから」


「なら武くんよりも強くて人道的で性格がいいやつがいたら乗り換えるのかい?」


「今この瞬間、私達を助けてくれるのなら可能性はあるわね。ただ私は男はいざって時に如何に頼りになるかが重要だと思ってるの。その一番のピンチになんの見返りも求めずに助けてくれた武藤くんに惚れるのはおかしいことじゃないでしょ?」 


「それは惚れたと言うよりはただの感謝じゃないかねえ?」


「その気持ももちろんあるわ。でも不思議なの」


「何がだい?」


「以前みたときは何も感じなかったのに、この前見た時はものすごくオーラと言うか圧力というか、そういうのを感じたの。うちのお祖父様よりもそれが強かった人は初めてよ」


「ああ、あの古武術の?」


「ええ。前も言った通り母方の祖父が古武術をしていて、私はそこの門下生なの。最も今は私ともう一人しか門下生いないけど」


「まさに文武両道なんだねえ」


「Oh!! 知ってますデス!! ヤマトシコシコデス!!」


「なんか一気に卑猥になったね」


「お姉ちゃん!!」


 東海林をみてはしゃぐクリスに朝陽がツッコミをいれ月夜がそれをたしなめる。いつもの光景であった。

 

「まあ、私も同じ感じだったからわかるけどねえ」


「どういうこと?」


「百合、私の性格からしてただかっこいいとか、顔がいいとか、スポーツ万能とかそれだけで惚れると思うかい? しかも既に百合の恋人になってる男を」


「確かにね。香苗はそういうものにこだわらないタイプだと思ってたから、少し不思議だったの」


「なにか武くんからは、特有のフェロモンみたいなものが出てるんじゃないかって思うときがあるんだ。それくらい武くんに惹かれてしまってねえ。バスケをしている姿を見た時にはもう武くんの子供を孕みたいと思ってしまったほどにねえ」


 これは魔力感知制度が高い者に起こる現象であった。なまじ感知能力が高い為に武藤の体からあふれる膨大な魔力を魅力と感じ取ってしまうのだ。

  

 実は長谷川、東海林の2人が武藤に惹かれたのは香苗よりも高い魔力感知能力のせいである。最初の頃は隠していた武藤だが、現在はその力を隠しておらず、その魔力が漏れ出ている為、最初に会った時の香苗のようにそれに惹かれてしまっているのだ。

 

「だからそのっむ、武藤くんさえ良ければ……は、初めてだけどがんばるから!!」


「そうね。ちゃんと責任を取ってくれるのなら体を許してもいいわ」


「!? ずるいですわ!! 私達はずっとお預けだったのに!!」


「まあ確かにそうだけど」


「ずっと舐めたり舐められたりで、貫通したのはつい昨日だったしね」


 綺羅里達3人は自分達がなかなか抱いてもらえなかったのに、来ていきなり抱いてもらおうとする2人になんとも言えない感情を抱いていた。

 

「私達も我慢したのですからあなっ!?」


 憤る綺羅里は唐突に武藤によって唇を塞がれた。

 

「もう駄目だ。綺羅里かわい過ぎる」


「え? 貴方様? ちょっまだ話はおわっあああん!!」


 綺羅里はそのままマットレスに倒され武藤に覆いかぶさられた。そしてそのままなし崩しにいただかれてしまい、結果、夜の宴が始まってしまったのだった。






 翌朝。案の定だれも起きてこないベッドを見て武藤は溜息をついた。勿論武藤は貫徹である。

 

 マットレスに倒れる美少女たちは勿論一糸まとわぬ姿で、その美しさも相まって非常に芸術的であった。

 

(やってしまった)


 武藤はまさかその日の内に手を出すとは思っていなかった長谷川、東海林の両名も流れに任せて美味しく頂いてしまっていた。場の雰囲気というかそういうもので流されることが多くなってきた武藤はさすがに自重しようと反省する。

 

「!? お、おはよう武藤くん」


 武藤が部屋から降りると下の部屋にいたらしき女子生徒達が挨拶をしてくる。何故か顔を真赤にしてすぐに走り去ってしまった。

 

「??」


 武藤としては理由が全くわからなかったが、武藤は気にせず風呂へと向かった。

  

「これでいいか」


 シャワーはもう水がなくなっているため、入浴用の浴槽を再度追い焚きし、武藤はゆっくりと湯船に浸かった。


「……」 

 

 ゆっくりと浸かりながら考える。これは女子生徒達の残り湯だ。オークションに出せばひょっとしたら売れるんじゃないかというアーティファクトである。まあ武藤や中林達も入っているので詐欺以外の何物でもないが、女子高生40人が入ったお湯ですという謳い文句なら間違ってはいないし、景品表示法にも引っかからないだろう。

 

 そんな馬鹿なことを考えながら武藤は今後のことについて考える。

 

(森に全く異常がなかったのは想定外だったな。今日は迷宮を調べてみるか。それが問題なかったらやっぱり……渡るしかないかあ)


 魔王がいたのは隣の大陸である。とはいってもそこまで離れているわけではないので、移動時間はそんなにかからない。故に後回しにしていたのだが、こうも他に問題がないと調べざるを得ないだろう。武藤としてはあまり行きたくない土地である。何せ両手の数では足りないほど死にかけている土地だからだ。

 

(野生のドラゴンとか普通に闊歩してるんだよなあ)


 ちなみに当時一緒についてきた騎士団は最初に遭遇した地竜(竜の中で最弱)に蹴散らされて全滅していた。そんな中を百合を守りながら進み、単独で魔王を倒した武藤が如何におかしい存在なのかは言わずとも理解できるだろう。 

 

 ちなみに現在の武藤は当時よりも遥かに強い。肉体的には弱くなっているが、精神的には継続している為、技量という面で見れば熟練の達人なのだ。それはオーラや魔力操作等についても同等であり、当時はできなかったことができるようになっている。その為、現在なら自爆特攻しなくても当時の魔王くらいなら余裕で倒せる強さになっていた。

 

(ドラゴンの死体とか持って帰ったら売れないかな? いや、未知のウィルスとかついてたりしたらやばいか)


 以前、地球に戻った時は恐らく魂や記憶だけが戻された状態であった為、疫病等の問題はなかった。今回もそうなるかどうかはわからないし、収納に入れてさえすれば取り出せてしまう。そうなるとドラゴンの死体とか普通に持って帰れてしまうのだ。さすがに未知の生物を持って帰るのは危険すぎる為、その辺りは慎重に行った方が良さそうだと武藤は考えていた。収納に生物は入らないが、ウィルスがどういう判定なのかわからないのだ。まずウィルスがいるかどうかもわからないので研究機関等以外には持っていかないほうがいいとは思っている。

 

(要らなかったらリイズにあげればいいしな)


 この世界でも竜は恐怖の象徴である。最弱の地竜ですら軍が総動員しても倒せないことが多く、討伐した場合の討伐者の称号、いわゆるドラゴンスレイヤーは全ての男の憧れであった。

 

(そういえば討伐の報酬としてなんか剣もらってたな)


 ドラゴンを討伐すると通常その死体は国に献上される。特に強制力はないが、普通は国から莫大な報酬が発生する為、献上することが多い。その報酬の中に竜の紋章をかたどった剣があり、それがドラゴンスレイヤーの証でもある。王国建国以来、3名しか受賞者がおらず、現存しているのは武藤ただ1人である。

 

(剣なんか使ったことないのに)


 武藤はドラゴンを素手で倒している。剣なんて使い方も知らないのでもらってもどうしようもないのだが、嬉々として渡してきたリイズを見て、武藤は素直に受け取ったのだ。ちなみにドラゴンは国というよりはリイズに献上している為、そこでもリイズの立場はかなりあがっていた。

 武藤としては狩りすぎて余ってるからほしい? という軽い感じでリイズにあげたのだが、その素材はリイズの立場を固めるのに大いに役立った。何せドラゴンの素材は無駄がないのである。特に魔石はかなり大きく、豊潤な魔力を内包しているため、献上されれば間違いなく国宝とされる一品である。

 

 それ以外にも魔法薬の効果を莫大に引き上げる竜の血や、柔らかいのに物理にも魔法にも強い鱗、極上の味とされる肉等、全てを売れば国が買えると言われるほどであった。それを丸々1匹あげたのだ。

 

 勇者という存在であり、ドラゴンを軽々と狩ってくる存在が後ろ盾。エリクサーのこともあり、リイズの立場は一気に王族筆頭とも言えるくらいに引き上がったのである。

 

(迷宮のドラゴンは死体が残らないからなあ)


 武藤は迷宮でドラゴンを数え切れないほど狩っている。だが死体が残らない為、ドラゴンの素材は地上で倒した分しか持っていないのだ。それでも地上で倒した数十匹分は死蔵されていたりするが。

 

(地球でドラゴンの死体だしたらどうなるんだろ)


 武藤はそんなことを考えながらのんびりとお湯に浸かるのだった。

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