第154話 篩

「武藤くんに聞きたいことがあるの」


 その後、みんなで夕食を摂り一息ついていると、長谷川が声を上げた。

 

「なに?」


「まず1点。マスクとメガネは取ってほしいなあって」 

  

「……なんで?」


「よくよく考えたら私達、恩人の顔すら知らないのよ。それっておかしくない?」


 武藤としては別におかしくないと思っていたが、周りを見るとうんうんと頷いている女子生徒のほうが多い。

 

 百合達に視線を向ければ香苗が頷いていた。

 

「……まあいいけど」


 そういってメガネとマスクをはずす。

 

「!?」


「イケメンだ……」


「……いい」


 ほそぼそと聞こえてくる声は概ね好感触である。


「それで?」


「かっこい――んっんっありがとう。後は貴方が何者かってことね」


 武藤の顔に見とれるも長谷川は気を取り直して本命の質問をする。

 

「何者かって言われてもなあ」


「ラノベを読まない人に説明できるか?」


「難しいだろうけど一応説明してみたら?」


 悩む武藤に吉田と光瀬が口を出す。ここまできて今更隠す必要もないかと武藤はこれまであったことを渋々と説明した。

 


「そっか。それでいろんなことができるんだ」


「帰ってきてからその死ぬかもしれない修行をしたってこと? すごすぎない?」


「じゃあ地球でならオリンピックも余裕ってこと?」


「絶対どんなスポーツでもプロ選手に慣れるよね」


 武藤が説明を終えると生徒たちは騒然としだした。

 

「それであのバスケの試合か」


 中林がどこか納得する。

 

「バスケにはオーラも魔力も使ってないですよ?」


「なに!? あれ素の能力なのか!?」


「素の能力というか鍛えた結果ですね」


「ってことはまだ上があると?」


「オーラや魔法つかったら試合になりませんよ」


 その場から投げれば絶対ゴールできるし、相手の行動は完全に防げる。もはやチートどころではないのだ。

 

「武藤くんてあのバスケの武藤くん!?」


「そんな有名人が同じクラスにいたの!?」


「同じ名前でなんで気がつかなかったのかしら」


 勿論武藤が姿を変えて認識阻害をしていたためである。

 

「なんでそんな格好してたの?」


「それは私達のせいだねえ。彼がそのままでいたらどうしても目立ってしまうし、女が群がってくることがわかっていたからねえ。だからライバルが増えないように目立たなくしてもらっていたのさ。今では彼の自由を理不尽に奪ってしまったと後悔している」


 その言葉に百合も顔を曇らせた。何せ目立つなと言ったくせに自分はそれをないがしろにしてクラスメートを優先していたのだから。操られていたために仕方がなかったとはいえ、その事実がなくなるわけではない。なんだかんだといいつつも優しい武藤はそれを攻めてくることがない為、百合は余計に罪悪感にかられていた。

 

「だからもう武の自由にしていいって言ってたんだけどね。陰キャ生活が快適だからってずっと隠したままだったの。どうして今取ったの?」


「ここだけでなら別にいいかなって」


「もうずっと外しちゃいなよ。それに学校に戻れたとしても綺羅里達が放っておかないでしょ。そうなると絶対目立つからあってもなくてもいっしょだよ」


「勿論毎日どころか休み時間のたびにくっつきにいきますわ!!」


「それはさすがにくっつきすぎでしょ綺羅里ちゃん」


「あら? じゃあ知美はくっつかなくてもいいってことでよろしいかしら?」

  

「!? それはずるいよ綺羅里ちゃん!! ただ武くんに迷惑じゃないかなって」

 

「この私がくっついて喜ばない男なんていませんわ!! 貴方様には私を女にした責任を取ってもらいませんと」


「!?」


 その言葉に場の女子生徒たちが騒然となった。それはつまり皇綺羅里は武藤とそういう関係であるということが確定したからだ。ちなみに今回は事実である為、武藤は何も言えなかった。

 

「そ、それをいったら私だってそうだもん!!」 

 

「私だってそうだよ」


「!?」


 綺羅里達3グループが全員武藤のお手つきである。女子生徒全員にその事実が伝わった。

 

「え? 山本さん達だけじゃなくて皇さん達も?」


「え!? 8人ってこと?」


「女にしたってそういうことだよね?」 


 女子生徒たちの言葉に武藤は言葉を発せなかった。何せ事実である。それどころか撮影までして初体験の相手の中に出している鬼畜の所業を行っているのだ。下手なことは言えない。

 

「8人どころじゃありませんわ!! 学校へ戻れば後4人はいますし、この世界でも十人以上と関係を持っていますわ!!」


「鬼畜王」


「絶倫王」


「ハーレム王」


「孕ませ王」


「王から離れろよ!!」


 周りから発せられる2つ名に武藤もさすがに突っ込んだ。ちなみに最後の2つは吉田と光瀬である。

 

「ってことはまだ増えても大丈夫?」


「全然だいじょうぶですわ!! 武様は100人でも養える甲斐性がありますもの!!」


 その言葉に一部女子生徒達の目が光った。特に長谷川と東海林の目はビームが打てるほどに輝いていた。

 

「この歳で何百億と稼いでいるし、政治家にもパイプがあって各国の有名人達にもつながりがある。そして芸能界にも顔が効くんだ。すごいだろう?」


「!?」


 その言葉に目が光っていなかった女性生徒の目も輝き出した。

 

「そ、それで武藤くんの彼女になるにはどうしたらいいの?」


「気に入られればいい。武くんは顔よりも性格を見る。一途に武くんだけを愛し続けるのなら安心した未来につながると思うねえ」


「例えば?」


「生涯ずっと遊んで暮らしていても、武くんだけを常に愛し続けるのなら許してもらえるだろうねえ」


「だ、大学とか留学とかは?」


「武くんを裏切らない限り自由だねえ。私達も大学は行くつもりだし」


「えっと親の介護とかは……」


「武くんは母親は居ないし、父親は海外から帰ってこないからなにかする必要はない。自分の親の介護なら資金はだしてもらえるだろうし好きにしていいと思うよ」


「!? 武藤くん結婚して!!」


「あっずるい!? 私が先よ!!」


 気がつけば全女子生徒たちが武藤に群がっていた。

 

「香苗ええええええお前なんてこ――こらっ!! 服を脱がすな!!」


「くっふっふっふ」


「香苗は相変わらず酷いね。なんであんなこといったの?」


「面白そうだったから」


「……貴方ねえ」


 香苗の言葉にさすがの綺羅里でさえも閉口していた。一方武藤はといえば強く手を動かせば怪我をさせてしまうかもしれない為、女子生徒達にもみくちゃにされながらその身を流れに任せていた。たまに触れる柔らかない感触を楽しみながら。

 

「はい、はい、そこまで」


 香苗が手を叩きながら女性陣を止める。自分で煽っておいて……である。

 

「無理矢理襲ったりすると武くんに嫌われ……いや、喜ばれるか?」


「うおい!?」


「ああ、ごめんごめん。嬉しそうな顔をしてたからつい……ね」


「……そんな顔してないよ?」


「にやけてたけど?」


「……すみません」


 武藤は素直に謝った。ニヤけていたとは思っていないけどしていない自信がなかったのだ。

 

「まあ同級生とイチャイチャなんて大人になってからでは得られない快感だろうからねえ。過去にもどって同級生とえっちができる装置なんて開発されたら、それこそいくら払ってでもその装置を使いたいって人が出てくるだろうねえ。まあ武くんには無用のものだろうけどねえ」


 既に同級生の中でトップ3を頂いているのである。これ以上を望めば罰が当たるだろう。まあ武藤が望めば全員だっていけるのだが。

 

「で、武くん」


「なに?」


「ここにいる残り30人……いけるかい?」


「いけるか!!」

 

 さすがに隣のクラスと自分のクラスの全女子生徒を餌食は、さすがに武藤からしても頭がおかしいとしか思えない所業である。

 

「まあさすがにそれだと私達の順番が回ってこなくなるからねえ。今でも10人以上いるっていうのに地球に戻ったら大変なことになってしまうねえ」


 ただエッチなことをするだけなら武藤は100人いようが問題ない。問題はその後である。自分の女は一生面倒をみるのが普通と思っている武藤は彼女たちだけでなく、生まれた子供もその両親含めた家族も面倒をみるつもりでいた。今でも全員の家族を把握しきれていないのにこれで30人も追加された日には子供だけで50人以上は確実に追加されることになる。

 異世界なら何の問題もないがさすがに地球では大問題になるだろう。

 

「一応言っておこうかねえ。私達8人が今ここにいる武くんの恋人だ。彼の恋人になるということは私達と彼の寵を競い合うということでもある。その自信があるものだけ言い寄り給え」


 香苗のその言葉に女子生徒たちは全員引き下がった。特にクリスを見て絶望した顔をしたものが多いようだ。それもそのはずで、クリスは子供から大人になる途中の人生の中でもほんの一瞬、今だけしか見られないような儚げで繊細な美を醸し出している。しかも武藤により女にされたことで、男を惑わす妖艶さのようなものも現れてきており、並の男なら見て数秒で虜にできる程の美しさを醸し出していた。これと寵を競う。一般の女子高生では到底無理である。むしろクリスは全女子生徒の憧れの存在といっても過言ではない存在になっていた。

 

「??」


 当の本人は何故みんなに見られているのか全く理解していなかった。

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