第153話 合流
翌朝。身だしなみを整えた恋人たちを武藤は転移で新拠点まで連れて行った。
「あっ!? 皇さん!?」
「山本さんも!?」
拠点にいくと、俺の用意した食材で食事の用意をする女子生徒たちが、朝から頑張っていた。
「武藤くんお風呂ありがとう」
「ちゃんと使えた?」
「すごかったよ!! 一流の温泉旅館並にすごかった!!」
「シャワーもすごかったし、まさか露天風呂に入れるなんて!! もう生き返った気分だよ!!」
会う生徒会う生徒、みんなが武藤に感謝をする為、武藤は朝からいい気分になっていた。
「あらっうちの主人はずいぶんとおモテになるようで」
「さすがは私達の旦那様というべきですわねえ」
「一体この中の何人が新たな嫁になるのかしら?」
「全員かもしれませんわねえ」
「……」
いい気になっていた武藤は一瞬で絶対零度まで体が冷える錯覚に陥った。恐る恐る後ろを振り向くと、そこには目が笑っていない笑顔の恋人たちの姿があった。
「……ちゃうねん」
別に何も悪いことはしていないのに武藤はつい反射的に言い訳をしようとしてしまった。まるで浮気が見つかったかのように。
「山本さん!!」
「皇さん!!」
「長谷川さん!!」
「あらっ東海林さんじゃありませんの」
その緊迫した空気を壊したのは長谷川と東海林だった。久しぶりにあうカーストトップの面々を見つけ、思わず駆けつけたのだ。
「武から聞いてるわ。無事で良かったわ、長谷川さん」
「ありがとう山本さん。みんなも無事でよかった」
「皇さんも元気そうでなによりね」
「今の私は向こうに居た頃よりも充実していますわ!!」
「そ、そう。それは良かったわね」
地球に居た頃よりも十分にお嬢様度がパワーアップしている皇に東海林は若干顔をひきつらせた。
「ごめんね東海林さん。綺羅里ちょっと今調子に乗ってて」
「絶好調なんだよね。昨日アレだけされたのによく元気が持つよね」
「……貴方達二人も大変ね」
そう呆れた顔で東海林は知美と真凛をねぎらった。
「みんなこっちに合流するってことでいいのね?」
その言葉に百合達は全員頷いた。グループは元々こっちで組んでいたままに百合達5人と綺羅里達3人+陰キャ女子2名となった。
その後、武藤は2階の開いている部屋に発電機と貯水タンク、そして机と椅子を設置した。もちろん40人分なんて無理なので、あくまで向こうで設置していたものだ。説明は吉田達にまかせ、武藤は最上階へと向かう。
そこで今朝まで寝ていたマットレスを設置し、部屋の隅に冷蔵をも設置した。ここに設置してのは盗難防止も兼ねている。
ちなみにここは入口から結構離れているため不人気で、だれも使用してはいなかった。
その後、百合達といっしょにリーダー格の長谷川と東海林に最上階をつかうことを告げ、武藤はエドに最初に会った草原へと向かった。
草原につくと、既に死体等はなくなっていたが焼け焦げた後等はそのままであり、凄惨な戦いがあったことはすぐに分かる状態であった。
「たしかあっちの方から来てたよな」
武藤は飛竜が飛んできた方向に向かって空を飛んだ。
「……普通だよな」
多少獣が減っているが魔物がいるわけでもなく、森があれているわけでもない。いわゆる普通の森だった。周囲の気配を探知するも不自然な場所も見当たらない。
結局その日一日探してみたが、特に異変となるようなものは見つからなかった。
その後も武藤は朝から晩まで調査を続けていたが、特に目新しい発見はないまま拠点へと戻った。
「あっおかえり武くん」
帰った武藤に真っ先に気が付いたのは案の定香苗だった。魔力を探知できるようになってきている為、察知が早いのである。
「疲れてるとこ悪いのだがお風呂を沸かして貰えないかねえ。掃除をして入れ替えはしたんだが、ここでは君に沸かしてもらわなければお湯が作れないからねえ」
香苗に抱きつかれながら頼まれた武藤はそのまま腕にしがみついた香苗を引きずるように風呂場へと向かう。ちなみに掃除道具はデッキブラシと洗剤を前日に風呂場に設置済みだ。なぜデッキブラシを武藤が持っていたのかは謎である。
「あっおかえりなさい武藤くん」
「武藤くんおつかれ!!」
拠点内を歩けば誰もが声をかけてくる。その所業は完全なリア充である。百合達以外素顔すらさらしたことがないのに何故こうも声をかけられるのか武藤には理解できなかった。
「これだけ目立っちゃったらもうマスクもメガネも外してしまっても変わらないんじゃないかねえ。そもそも男4人しかいないからどうしても目立つし、何より全部のものを用意してる君なんだから、狙われるのも今更って感じだねえ」
拠点、食事、風呂、電気と現状全てのものを武藤が用意しているのは全員わかっている。つまりどうなろうとも武藤と仲良くしてさえすればこの世界での安全は保証されるのである。女子達が狙わないわけがなかった。
「いいのか?」
「1組と2組しかいないんだしいいと思うよ。私達もそれなりに自信がついてきたしねえ。まあ学校や街中みたいなところだとさすがにまずいと思うけどねえ」
武藤が元々イケメンだと思っている香苗からすれば、百合に固執しなくなり、尚且つ元々女性に優しくて強い武藤が顔を隠さなくなれば、それは猛獣の檻に肉を入れるのと変わらないと思っているからだ。誰彼構わず助けてしまうだろうし、好みのタイプに言い寄られれば、今の武藤なら平気で食べてしまうことだって考えられるのだ。さすがに初対面の相手にホイホイ手を出さないとは思うが、百合達の知り合いとかなら手を出しかねない。
(さしあたっては長谷川さんと東海林さんかねえ)
2人が武藤を意識しているのは知っているし、本人達からアプローチしていると報告も受けている。それを受けて武藤さえ良ければ2人をハーレムに入れてもいいと、武藤の恋人グループ内では既に承認されていた。
(間違いなく2人とも武くんに惚れているし、武くんもまんざらではなさそうだ)
的確に武藤の好みを把握している香苗は武藤が2人に好意を抱いているのは既に気づいている。
(みんなを引っ張れて責任感が強い長谷川さんと文武両道で優秀な東海林さんは是非とも仲間に欲しい)
優秀な人材はいればいるほどいいと思っている香苗は、どうやって2人に手を出させようかと考えていた。
(そのまま据え膳すれば今の武くんなら容赦なく頂くだろうから、あとは2人をその気にさせるだけかな)
香苗のハーレム増強計画は着々と進行していた。
「これでいいか」
武藤は入浴用の浴槽とシャワー用の浴槽それぞれを温めた。ちなみに魔法により電子レンジのように水分子を振動させることにより熱を発生させている。何故かと言われれば以前、温度を間違えた炎の球を放り込んで爆発したことがあるためだ。
それからはこの方式をとっている。温度を温めた後はやや温めの熱を持つ魔力球を設置して置く。そうすることで温度を適温に保つことができるのだ。ちなみに普通の人はその球を見ることも触ることもできないため、魔道具より安全である。ただし、ある程度の時間経過で消えてしまうので、翌日は使えないのが欠点だが、現在の環境ならかえって安全であるため、この方式に落ち着いたのだ。
「ねえ武くん」
「ん?」
一緒についてきていた香苗が、シャワー用浴槽のある管理室ないで武藤にしなだれかかる。
「恋人以外の人が近くにいる状況って興奮しないかい?」
そういってかな香苗は武藤に胸を押し付けるように抱きつく。
「さすがにこんなとこ――!?」
「ん……ねえ、欲しいな」
「……」
激しく唇を奪われ、珍しく香苗におねだりされた武藤は興奮してしまい、欲望のまま管理室で香苗を襲ってしまったのだった。
小一時間後、管理室を出ると何故かぐったりとした長谷川と東海林がいた。
「興奮したかい?」
香苗がそういうと2人は顔を真赤にさせて走り去っていった。
「気づいてたのか?」
「勿論。2人に聞かせるためにしたからねえ」
香苗は2人の欲望を刺激するために武藤を誘惑したのである。そのうち我慢できなくなるだろうとわかってのことだ。
「私達はみんな了承してるから、2人を受け入れてあげてくれるかい?」
「え? そうなの!? てっきり手を出したら怒られるかと」
「例え私達に無断で増やしても私達は何も言わないよ。あくまで武くんが気の向くままに増やしたらいい。ただ悪女に引っかかるかもしれないから、できれば相談はして欲しいねえ」
「すまん。くっつかれたけど、手を出すって感じじゃなかったし悪い気配も感じなかったから」
「2人は間違いなく本気で君を狙ってるよ。しかもハーレムも容認してるから何の問題もないねえ」
「容認してるの!? あのお硬そうな委員長が!?」
東海林結愛は誰がどう見ても頭のお硬い委員長である。見た目からまさに大和撫子を地で行く感じであり、如何にも潔癖症といった感じである。手を出そうものなら「ふしだらな!!」と殴られる可能性すら武藤は感じていた。
「どうやら母方の祖父が古武術の道場をやっているらしくてね。そこに通っているそうなんだ。そこでその祖父から強い男には女が引き寄せられるものと教えられてきたらしいからその影響だろうねえ」
「……それ洗脳されてない?」
「幼い頃からの教育だから、刷り込みみたいなものさ。怖いねえ」
「それだと東海林さん結婚したら浮気されまくりじゃない?」
「容認はするだろうねえ。けどそれと自分が愛するかどうかは別だろうねえ」
「どういうこと?」
「愛する男がモテても全く気にしないが、愛が続くとは限らないってことさ」
要するに愛想が尽きるというやつである。
「じゃあ俺駄目じゃない?」
「大丈夫さ。彼女は強い男に惹かれるタイプだ。だから愛する男よりも強い男が現れたらすぐに乗り換える可能性がある。つまり誰より強くて自分を愛してくれさえすれば、浮気も容認するし愛も無くならないってことだねえ」
「誰よりも強いはさすがに無理だなあ」
「地球で君より強いやつがいてたまるか!! それに異世界だって最強だろうに」
「いや、師匠とか勝てないぞ?」
「じゃあ師匠と戦って負けたら嫁達が全員師匠にとられるってなったとしても勝てない?」
「そうなったら勝つよ。手段を選ばないから」
「じゃあ勝てるじゃないか。無用の心配だねえ」
なんでもありなら武藤は誰にも負けるつもりはない。そうなったら卑怯だろうがなんだろうが手段を選ばないのだ。
「でも強いかどうかの判断をするのは東海林さんの方だろう?」
「そこまで見る目がないのなら捨てたらいいんじゃないかねえ。まあ彼女はそこまで愚かではないよ。判断に迷った時は武くんにその相手と戦ってみてとか言ってくるだろうしねえ」
「めんどくさっ!! それならお断りしたいなあ」
「そこは武くん次第だねえ。私が今言ったこともただの予想にすぎないから、直接聞いたほうがいいかもねえ」
そういって香苗はいつものように妖艶に微笑むのだった。
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