第152話 おめでた

「……は?」


 武藤はしばらくディケの言っている言葉が理解できなかった。いや、脳内に言葉は入ってきたが、正しく受け取れなかったのである。

 

「……ディケ? 貴方達は確か孕めないと言っていなかった?」


「ええ。私としても想定外なのです。できるはずがないのですが……」


「お姉ちゃんやっぱり勘違いしてるね」


「え?」


 エウノミアの言葉にディケは思わず声をあげる。

 

「お母様は正確にはこう言ってたよ。貴方達は余程魔力が高い相手でなければ、子供は難しいでしょう……って。できないなんて一言も言ってないの」


「!? まさか……」


「そう。つまり勇者様はその余程高い魔力ってこと」


「!? え……ということは本当に……?」


「そうだね。おめでとうお姉ちゃん。後、もう1つ重要なことがあるんだけど」


「何かしら? ちょっと聞くのが怖いわ」


「大丈夫だよ、いいことだから。実は……姫様もできてる」


 そういってエウノミアはグッジョブと言わんばかりに親指を立てた。

 

「「えええええええ!?」」


 エウノミアのその言葉にディケとリイズは同時に叫んだ。それと同時に周りにいる1花の侍女達も全員叫んだ。

 

「おめでとうございます陛下!!」


「お世継ぎが!! これでこの国は安泰ね!!」


 あまりの出来事に場は騒然とした。

 

「わ、私も……できてるの?」


「判明できるギリギリだけど間違いない。だからこれからは姫様とお姉ちゃんはえっちするのは控えて貰う必要がある。少なくとも安定期までは」


「「!?」」

  

 万が一にも流産なんてさせるわけにはいかないのだ。何せ現在世界を統べる国の王太子になる子供なのだから。

 

「お、おむつを用意しなければ!!」


「子供用のベッドも!!」


「おもちゃはどうしましょう!?」


 侍従達はあまりにことに既にパニック状態となっていた。

 

「はいはい、みんな落ち着きなさい」 


 それを手を叩いて落ち着けたのは侍従長でもあるメリッサである。

 

「生まれるのは少なくとも来年よ。おもちゃもおむつも用意するには早すぎます。まずは姫様とディケ様が快適に過ごせるような環境を用意するべきです」


「さすがはメリッサ。でもそんなこといってられるのかな」


「……なんでしょうエウノミア様」


「メリッサもできてるよ?」


「!? わ、わたしが……ゆ、勇者様の子供を?」


「おめでとうメリッサ。とりあえず今のところこの3人だけだね」


 エウノミアの言葉にその場の全員が思わず叫んだ。

 

「メリッサおめでとう!!」


「侍従長おめでとうございます」


「あ、ありがとう……」 


 次々にかかる祝福の声にメリッサも戸惑う。何が起こったのか理解できていないのだ。

 

「ちょーっとまった!!」


 そこでリイズの叫び声が響き渡る。

 

「おめでたいのはわかる。だけどディケとメリッサ同時はまずい!! いや不味くはないんだけど、これ以上1花の面々とエウノミアが立て続けに孕むと仕事が回らないわ。だからしばらくお兄様は城での行為禁止!!」


「「「えええーーーー」」」


「ええじゃなーい!! どうすんの!! ディケ動けないだけでも大変なのに侍従長のメリッサまで動けないなんて大変じゃない!!」


「動けないわけではありませんから」


「それでも流れたら困るからディケとメリッサは軽い業務、もしくは書類みたいな動かないでいい業務しかしてはダメ。これは王命よ!!」


「「わかりました」」


 真剣なリイズの声に2人は大人しく従った。

 

「ですがそれは姫様もですよ」


「え?」


「まだ発表はしませんが、極力書類業務だけにしていただきます」


「……仕方ないわね。貴方達だけに強制はできないもの」


「え? ってことは殆どの仕事が私にこない?」


 そういって青い顔をしているのは先程までどや顔をしていたエウノミアである。

 

「……大変だけどがんばって?」


「!? ずるいお姉ちゃん!!」


「面倒な書類は全部こっちでやるから」


「まあしょうがないか。来年は絶対私のばんだから」


 そう宣言したエウノミアは武藤を妖艶な瞳で見つめていた。

 

 

 

「ただいま」


「おや、早かったねえ」 

 

 結局。避妊魔法についてはみんな知っていたが、私達だけができないのは納得できないという女王とディケの強い意志のおかげで、武藤は城ですることは禁止された。その結果城に泊まる意味があまりなくなった為、こちらに戻ってくることになった。

 

「ええーー!? リイズちゃんとディケさんが!?」


 まさかの懐妊報告に百合は思わず叫んだ。

 

「それはおめでたいことですわ。お祝いを持っていったほうがよろしいかしら?」


「でもこっちじゃ私達だけじゃ大したもの用意できなくない?」


「お姉ちゃんの言う通り、こっちの世界じゃお金もないし、王族にお祝いとか無理な気がします」


 単純におめでたいと喜ぶ綺羅里にお祝いが用意できないと朝陽と月夜が悩む。

 

「こういうのはやっぱり気持ちが大事でしょ。赤ちゃん用のよだれかけとか作ってみる?」


「いいねそれ。武?」


「さすがにリリアンとか編物用品は持ってないな」


 さすがの武藤も編み物をする予定はなかった。そして嫁達でそんな趣味を持っている者もいなかった。

 

「でもまだ生まれるかどうかはわからないから、実際生まれるまではやめておいた方がいい気がするねえ」


 受精卵になんらかの異常が見られて、最初から生まれないことも考えられる為、確定以前に安易なお祝いなどは危険をはらんでいる。香苗の危惧も当然であった。

 

「しかも相手が異世界人と人を超えた存在なんだろ? あまり先走っておめでたいと騒ぐのは危険だと思うよ」


「そうね。一応おめでとうと伝えるけど祝いの品とかはまた後の方がいいかもね」


 結局その香苗と百合の意見が採用され、祝福はしにいくがお祝い品は生まれてからということになった。

 

「しかし最初の子供とられちゃったかー。まあリイズちゃんなら全然いいんだけど」


「さすがに地球での生活を完全に諦めきれてない状態では難しいだろうねえ」

 

 もし地球に帰れた場合、女子高生で妊娠した状態で帰ることになる。さすがにそれは隠すこともできないだろうし、今後の生活にも多大な影響が出てくるだろう。なにより現役の学生では子供の面倒を見るのが両親の助け為しではほぼほぼ不可能である。そして武藤側の両親が居ない為、どうしても負担が母親側の両親に偏ってしまうのだ。まあベビーシッターを雇えばいい話ではあるが、さすがに恋人8人の子供を全員預けるかといえば難しいだろう。

 

 金銭的には全く問題ないが、法的な問題がてんこ盛りの為、周りに知られるわけにも行かないのでかなり厳しい状況となるのは間違いない。まあ現在の武藤ならそれら全てを平然ともみ消せるのだが。

 

「それで地球へは戻れますの貴方様?」


「転移された原因がさっぱりだけど戻れると思う」


「その根拠は?」


「んー前の時は戻れないって直感してたんだけど、百合の手伝いをしだしてから戻れるんじゃないかって思えだしたんよ。結局百合がいなきゃ戻れなかった訳なんだけど、そういう戻れる手段というかそういうのがなんとなく分かるんよね。それで今の魔王の調査を始めようとしてから戻れるってなんとなく感じてるから、それを解決したら多分戻れると思う」


 結局のところ根拠は武藤の勘である。但しその正解率は100%だ。そういう勘を武藤は外したことがない。

 

「なら妊娠しなかったことは正解だね。但し……」


「!?」

 

 気がつけば武藤はベッドで全方位を恋人たちに囲まれていた。

 

「魔力は補充して欲しいから……わかってるよね?」


「……はい」


 結局、武藤は朝まで延々と恋人たちを抱き潰すこととなった。

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