第151話 できないとはいっていない
「お前は父親に似てモテるな。まああっちは嫁が追っ払ってたけどな」
つまり武藤の母親は父に対して女性に優しくと言っておきながら、いざ女性が近づくと追っ払うという理不尽な行動をしていたわけだ。
「山本さん達は呼ばないの?」
長谷川の言葉に固まっていた武藤は再起動した。そして考える。電気と寝具以外は完全にこちらの拠点のほうが手が入っているのである。そして地球に帰れることになった時、このまま別れて生活をしていた場合、クラスメイトと百合達との間に亀裂が生じる可能性がある。亀裂というよりかはこちらのメンバー間に団結力がうまれるというか、そんな感じになりそうだと思っている。とはいえ百合達5人も綺羅里達3人も他者が入る必要がないくらいには仲が良いし結束力も高い。無理に入れる必要性も感じないのだが、まだ高校1年である。よく接しない他者とのコミュニケーションは必要であるし、それがどんな影響を彼女たちに与えるのかもわからない為、安易に選択肢から外すのも危険と武藤は考えている。だが合流した場合、安易に毎日城に行くということも憚られる。
「1回聞いてみるか」
そのまま一旦主要メンバーでの打ち合わせは終了し、女子生徒達は意気揚々と風呂へと走っていった。武藤はそれを見送ると拠点へと転移する。飛ぶとそこにはチーズナンを美味しそうに頬張る恋人達がいた。
「おかえり武」
「移動はどうだったんだい?」
真っ先に武藤に気づいた百合と香苗が武藤を出迎える。魔力機敏な二人なので、すぐにの感知して気がつくのだ。
「めっちゃ大変だった。歩いてついてったから無駄に十時間も歩いちゃったよ」
「十時間も女子生徒を歩かせたのかい!?」
「よく歩けたね」
険しい森の中を十時間歩くとか普通はかなり厳しい。例え餌があったとしても到底無理だろう。だが普段の生活で森に入り浸っていた女子生徒たちは、森で発生する魔力を極少量づつながら体に吸収していた。それに伴い自然と体力や肉体が強化されていたのである。ちなみに男は吸収できないので女性のみの特性であり、それも武藤から直接接種する何百分の1以下の効果である為、香苗達にはあまり効果がないと、あえて武藤も言っていなかった。
「それでみんなどうする? 合流する?」
「合流することにあまりメリットを感じませんが……武と、貴方様は帰った後のことを考えていますのね?」
「貴方様ってなに?」
「もう契を結んだ以上、武藤くんではおかしいでしょう? だって私も武藤になるのですから。なら夫として貴方と呼ぶべきではないかしら?」
「ふむ。確かに綺羅里のいうことも一理あるねえ」
「じゃあ私も武藤くんじゃなくて武くんでいいかな?」
「いいぞ」
知美の言葉に武藤は当然とばかりに返す。
「じゃあ私はどうしよう……たっちゃん?」
「甲子園に連れて行くことになりそうだなあ」
「なんで!?」
陰キャグループが誰もいない為、武藤のネタにはだれもついて来られなかった。
「話を戻そう。武くんは地球に戻った後にクラスメイトから私達が浮くことを懸念しているってことでいいのかい?」
「ああ」
「まあとはいえ、ここにいるメンバーはここだけで関係が完結しているといっても過言ではないから、このままでも全く問題ないといえばないのだがねえ。合流した場合としない場合のメリット、デメリットを上げてみようか」
「まず向こうの拠点が知りたいな」
「正直言って規模は向こうの方が大きい。こっちの利点は電気が使えるのと、寝具があるのと、風呂が俺なしでも24時間いつでも入れるってことだな」
「食料はどうなんだい?」
「ある程度渡してきた。でもこっちほどじゃないから食糧事情もこっちのほうがいいかもしれん」
「と、なるとクラスメイト達との関係以外に全くメリットが感じられないねえ」
「どうせ2年になったらクラス替えするんだし、関係を良くしたところで対して変わらないんじゃない?」
「まあ確かにそうだけど俺としては多少なら関係を持ってもいいんじゃないかと思ってる」
「まあ? 貴方様がいうなら何か深い理由があるのかしら?」
「クリスだよ」
「ワタシ?」
「男がほぼいない状態でいつものメンバー以外との関わり合いができるだろ? コミュニケーションの練習にもってこいじゃないか」
「ほう。確かにそれは思いもつかなかったねえ」
「俺としては別にクリスは一生俺の側にいるんだから、俺や百合達と仲良ければ全く問題ないんだけど、アレックスの関連で他の俳優たちと交友を持つ可能性があるだろ? だったら少しでも他人に慣れておいた方がいい経験になるんじゃないかと思ってな」
「それは確かにそうだねえ。関係が悪くなったところで殆ど関わり合いのないクラスメイトが相手なら痛くもないだろうしねえ」
「寝具と発電機も持っていくけど、夜はどうする? 城にいくか?」
「私達だけ夕食を摂らないとなれば、逆になにか感づかれないかねえ」
「しばらくみんなと同じ生活してみる?」
「そうだね。耐えられるかわからないけど、みんなと同じ場所にいってみようか。吉田くん達はあっちにいってるんでしょ?」
「ああ。戻ってきてもいいっていってるんだけど、一応先生以外に女しかいない場所なんで番犬代わりになるって」
「彼らは武くんと一緒にで責任感が強いからねえ。赤の他人なのに」
「そんなところに岩重さん達は惚れたんじゃない?」
「そうだねお姉ちゃん。私達と変わらないね」
「耐えられなくなったら戻ってきてもいいのでしょう? 貴方様?」
「全然いいぞ。あくまで嫁が優先だから。向こうでも最上階で特別扱いにする。異論は認めない」
「まあ武くんが全部用意してる以上、その決定には誰も逆らえないよねえ」
「じゃあ今日はもう夜になるから、明日移動するってことで、手荷物だけは集めといてね。他の荷物は後から俺が取りに来るから」
「わかりましたわ」
「じゃあ昨日行ってないから城に連絡してくる」
そういって武藤は1人城へと転移した。
「お兄様!?」
転移していつもの寝室に向かうと、そこには既に着替えて寛ぐリイズの姿があった。
「向こうでの用事はすみましたの?」
「ああ、概ね問題ない。それで相談なんだが百合達はしばらくあっちで生活することになった」
「そうなんですのね。でもお兄様はこちらに来られるのでしょ?」
「多分交互になるかな」
「そうですの。まあ仕方ありませんわね。それよりエドが帰ってきましたわ」
「ずいぶん遅かったな」
「けが人が多くて移動が遅くなってみたい」
確かにかなり被害は大きかったように見える。特に魔法部隊以外は何もできなかったから、無抵抗に近い感じでやられていたからな。空を飛ぶ敵はそれだけ強いということだろう。
「明日からちょっと魔物について調べてくる」
「わかりましたわ」
「それで姫様と勇者様にお話があります」
珍しくディケがかしこまった様子で語りだしたので、武藤も思わず訝しげにする。
「実は想定外のことが起こりました」
「……なに?」
「あの……ですね」
なにやら煮えきらない様子のディケ。少し間をおいた後、意を決したようにその一言を告げた。
「孕みました」
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