第150話 モテ期

「もう駄目。もうこれ以上はさすがに食べれない」


 女子生徒達が全員これ以上ないくらいにまでお腹に食料を詰め終わった頃、武藤から待望の声がかかった。

 

「各班のリーダー。動けるようになったら風呂の説明するからついてきて」


「!?」


「いくっ!!」


 6班のリーダー達6人が武藤について、怪しい岩壁の向こう側へと移動する。

 

「この岩は何?」


「一応女子だからさ。衝立の代わりに立てた」


「あーなるほどね」


 岩の板はハリボテのように本当にただの巨大な岩の板で垂直に立って部屋を三方から囲んでいるだけだ。

 

「ここから土足禁止で」


 岩壁の向こうは石畳だったが、すのこのようなものが置かれており、そこには部屋を区切るように大きな棚が置かれていた。

 

「棚なのになんで手前にでてないの?」


 部屋を仕切るような棚は木の段がこちら側に出ておらず、こちらからみると棚はタンスの裏側のように垂直な木の壁に穴が開いており、そこから板が穴の奥へと伸びている感じである。

 

「本来は奥に服を入れる予定。下は靴ね」


 棚は上中下3段と一番下の足元に1段の計4つあった。

 

「で、こっち」


 そういって武藤が指さした先には階段が2つあった。 

 

「右が管理用。左がシャワー室」


 そういってまず管理用の部屋へと入っていく。

 

「わあああ」


「すっご!!」


 そこには巨大な浴槽が2つあり、1つは水が溢れんばかりに入っており、もう1つはそこと繋がっている空の浴槽だった。

 

「この仕切り板を外すとこっちの浴槽にお湯が流れる。こっちの浴槽は下をみるとわかるけど底に細かい穴が沢山開いてる。で、さっきの所に戻ってもう一つの階段を降りよう」


 そういって先程とは違う階段を降りるとその先には今度は何もない部屋があった。但し武藤が取り付けた証明があるために階段やこの部屋の中はそれなりに明るかったりする。

 

「天井みて」


 そういわれ女子生徒たちが天井を見上げる。

 

「穴?」


「さっきの空の浴槽の穴」


「!? シャワー!?」


「正解」


 武藤は水を上に上げる労力よりも位置を変えずにそのまま自分達が下にいくことでシャワーを再現したのだ。普通なら穴をこれだけのレベルで掘るほうが大変なのだが、武藤からすると水を上にあげる機構を作るほうが面倒だった為にこのような方式にした。

 

「で、ここである程度体をあらったら奥の階段からあがる」


 そう言って武藤が先へ歩いていくと、シャワー室の奥にある通路から階段が続いていた。

 

「ほあああああ!!」


「川が見える!!」


「っていうか丸見えじゃん!!」


 そこは左右を壁に挟まれているが、かなり拾い露天風呂だった。ちなみに川の方からは丸見えであるし、天井もない。シャワー室は地下なので天井があるだけで、武藤はそもそも天井を作っていない。 


「いくつか底に石があるけど、それ栓だから。それを抜くとお湯が抜けるんで注意ね」


「わかったわ。みんなに言っておく」


「で、でたらあそこが出口」


「ああーなるほど。入口の棚が奥にあったのはこういうことね」


 入口で入れた服が出口の棚になっているのだ。こうして自分で入れた服をここで再び着るということである。

 

「で、川べりを通って反対から出ていく」


 そういって武藤は川べりを歩いていく。勿論女子生徒たちはそれについていく。

 

「これが川の水を引き込む用水路であそこの板がそれを仕切る板。外すと川の水を引き込む」 


 武藤は水の入れ替えが女子生徒では無理と判断し、川から直接水を引き入れる方法にした。勿論フィルターのように細かい網の目で用水路の入口は塞がれており、不純物や魚を入れないようには対策済みだ。

 

「ちなみにお湯にするには俺がやらないといけないから、俺がいる時に頼んでくれ。但しいつでもできるとは限らんからな」


 ちなみに武藤はこちらの風呂では魔道具等は使用せず、魔法で直接お湯を作っていた。女子生徒達が絶対に魔道具をいじらないという保証がなかった為だ。


「わかったわ。これだけしてもらってるんだから、文句はないわよ」


「えーっとちなみに今日は……」


「もうお湯にしてあるからすぐ入れるぞ。順番はお前らで決めて入ると良い」


「!?」


「リーダーでじゃんけんよ!!」


「受けて立つわ!!」


 そういってお風呂の順番を決める凄絶なじゃんけん大会が始まった。

 

「大きいから2班か3班づつ入れそうね」


「じゃあ、前半3班と後半3班で分けましょうか」


 順番を決めた後、各リーダーと中林をよんで拠点の上の階へと行く。


「じゃあこれも渡しておく」


 そういって武藤が取り出したのは人数分のバスタオルとハンドタオル。そしてトイレットペーパーであった。

 

「!? トイレットペーパーあるの!?」


「ああ、武藤様!!」


 何故か食事のときより喜ばれて武藤も困惑した。

 

「一応生理用品もあるから。使い方わからんから箱で渡しておくから争わないように……先生と長谷川と東海林」


「なんだ?」


「はいっ」


「なに?」


「共通の物は3人で管理しておいて」


「わかった」


「わかったわ」


「まかせて」


 そういって武藤は次々といろいろなものを取り出していく。

 

「でかいペットボトルにはいった醤油等各種調味料、小麦粉、じゃがいも、大豆、出汁用の乾燥昆布に塩、胡椒。じゃがいもの皮むき器をいくつかと……包丁いる?」


「いる!!」


「ちゃんと管理してくれよ」


 そういって武藤は東海林に包丁を渡す。ちなみにこれだけの量の物資を渡しても武藤の収納の中は殆ど減っていなかったりする。それほど大量に保持しているのだ。元々不意を突かれて誘拐されてサバイバルしてきた為、次はどんな場所であっても生きていけるように買い物するたびに余計に、そして大量に買って常に備えてきたのである。それはまさに今この時の為と言っても過言ではなかった。

 

 そして食料を放出したのにはもう一つ理由があり、こちらの世界で王族との結びつきという安全な衣食住が確保できた為だ。生活に余裕ができた為、武藤はある程度は女子生徒だけは補助してやってもいいかと考えていた時に先の事件である。その結果が今の状況であり、武藤としてはある程度の期間くらいは面倒を見てやってもいいと思っていた。

 

「何か足りんものがあったらいってくれ。吉田みたいにプレステとかいったら援助打ち切って全部回収していくから」


「あの馬鹿そんなこといったのか!?」


「!? 吉田くんそんなこといったの!?」


「さすがにそれはないわ」


 さすがに全員ドン引きである。勿論冗談で言ったことは全員わかっているが、それでもこの環境でそれはないだろうと。

 

「後、化粧品とかも持ってないからやめてね」


 さすがに武藤もよく知らない化粧品までは保持していない。美紀達は自前のを持っているが、仕事以外ではあまり使っていない。武藤の彼女達は普段殆ど化粧なぞしていないのだ。つまりすっぴんで芸能人クラスの美貌なのである。

 

「さすがに今欲しいとか言わないと思うわ。正直日焼け止めは欲しいと思うときもあるけど」 

  

 炎天下での作業も日常的である為、どうしても女性は日焼けを気にする。

 

「日焼け止めならいくつかあるから渡しておく」


「ほんと!? やった!!」


 これは以前、百合達と泳ぎにいった時に買ったものである。どれがいいかわからないので全種類買ってあり、それも1回か2回しか使ってないので少し減っただけのほぼ新品である。

 

「至れり尽くせりだな。こんなに渡してお前は大丈夫なのか?」


「俺はどうとでもなりますから。ただ常に助けられるわけじゃないのは理解して欲しいです」


「それは当然だ。お前にも生活があるだろうしな」


「こんなにしてもらって、なんてお礼をいっていいかわからないわ。ありがとう武藤くん」


「クラスのみんなに変わってお礼を言わせてもらうわ。ありがとう」


 長谷川と東海林の2人にお礼を言われる。が……。

 

「あの……」


「「何?」」


「なんでくっついてくるのかな?」


 そう。この2人が何故か武藤へと抱きついているのである。

 

「お礼のつもりだったんだけど……嫌だった?」


 長谷川のそれはもう柔らかいアレが武藤の腕に当たり、フニンフニンと形を変えている。

 

「わ、私はそんなに大きくないから気持ちよくないかもしれないけど……」


 そういって恥ずかしそうにくっついている東海林だが、長谷川ほどではないにしろ、しっかりと膨らみと分かるくらいには立派なものをお持ちなようで、武藤の顔が崩れるのも無理はない。打算からくるハニートラップなんぞに引っかかるつもりはない武藤だったが、何故かこの二人からはその気配が一切感じられないことに武藤は戸惑っていた。

 

 それもそのはずで、この2人はなんの説明せずに長谷川の行動とその理由を理解し、そして長谷川を助けただけでなくクラスの女子生徒全員を助けてくれた武藤に惹かれているのである。その心と能力に単純に雌として優秀なオスを求めてしまっているのだ。もちろん本人達にも打算のつもりは全くなく、自身達ですら戸惑うほどに武藤に惹かれているのである。

 これは周りが幼稚、もしくは敵になりそうな男達に囲まれた状態から抜け出せた安心感を得た瞬間、それを為してくれた大人な対応をする未知と魅力に溢れた男を初めて見てしまったことによる白馬の王子現象とでも呼ぶべき現象であった。

 つまり自分をピンチから助けてくれた理想の王子様が現れたのである。ちなみにこれはこの2人だけでなく、ここにいる全女子生徒の大半が近い状態であった。勿論武藤はそんなことになっているとは夢にも思っていなかった。


 ちなみに現在のタガが外れている武藤としてはこの2人に言い寄られて悪い気はしていない。中古に興味がないといっていたのは、そう言えばこちらに興味がなくなると思ったからで、自分から男を食い漁っているわけでなく、不可抗力で体を許すハメになったような場合、この男はさして気にしないのである。逆に知美ほどでないものの長谷川はかなり胸部装甲が厚く、テニス部なことからか腰も引き締まっており、まさにスタイル抜群であり、尚且つ人のために犠牲になろうとする優しさも相まって武藤の好みドストライクであった。その為、意識しないようにしていたのだが、ここまで密着されては意識しないわけにも行かず、武藤は困惑していた。


 そしてもう一方の東海林の方も出るとこはでており、長い黒髪の正統派純和風美人といった感じである。男子からのターゲットになろうと矢面に立ち、憎まれ役になろうとも女子生徒たちを守ろうとしていたことは武藤にはお見通しであった為、こちらも武藤の好みのタイプであった。そして現在、普段絶対男にひっつくようなことがないであろう彼女がくっついてきており、武藤の混乱に拍車をかけていた。


(これはどうすればいいんだ……)


 美紀達以外にここまでのアプローチを受けたことがない武藤は焦っていた。そもそも以前アプローチを受けていた時は聖女の呪いにかかっていた為、さほど他の女性が気にならなかったので、特に気にする必要もなかったのだが、現在の武藤は肉体的には年相応の少年である。あれだけ毎日盛っていてもやはり性欲が有り余るお年頃の少年。スタイルの良い同学年の女子高生に迫られ、密着されれば意識もしてしまうのだ。


(どうしよう)


 離れたくても本能が喜んでいるため離れられず、武藤はその場で固まり続けるしかなかった。

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