第149話 新拠点
「やってしまった……」
結局、百合達との寝室に綺羅里達のマットレスも持ってきて巨大マットレスにした後、綺羅里達3人を武藤は美味しく頂いてしまっていた。言わずとも分かるが、その場面はしっかりと香苗が撮影してある。アレだけ頑なに拒んでいたのが信じられないくらいにあっさりと落ちてしまった。結局男は欲望に勝てない生き物なのである。
「じゃあ準備するか」
時間的には朝5時といったところだろう。ちなみに時計がなくとも武藤はなんとなく時間がわかる。
倒れ込んでいる恋人達を置いて武藤は一人着替えて、恐らく最初に来た時以来つかったことのない正門ともいうべき最初につくった入口から崖下へと降りた。
「おおっおはよう武藤」
そこにいたのは女性グループ唯一の男性陣である中林、吉田、光瀬の3人組であった。ちなみに吉田達陰キャグループ4人は昨夜下で寝ている。勿論男女は別であったが、男性陣のところではなく、女性用の就寝場所の洞窟入口で男性陣3人は休んでいた。何故かといえば男性側で寝れば害される可能性が非常に高い為だ。
既に女性陣の出発準備はできているらしく、直ぐ様全員で出発することになった。ちなみに男性陣が寝ている場所は少し離れている為、女性陣の動きが気づかれていることはない。
そのまま一行は北東の方向へと進んだ。1時間毎に休憩を入れており、その都度武藤が冷たい水やなんたらメイトを食料として差し入れた為、およそ5時間を歩いたにしては女性陣はかなり元気な方であった。
「漸く半分か」
「半分!?」
「結構歩いてない!?」
およそ5時間あるいて半分である。ここからさらに5時間歩くというのは、現代の女子高生には到底厳しい距離である。みれば全員ぐったりとした表情をしていた。
「ふう。仕方ない。到着したら1回限りのご褒美をやろう」
「ご褒美!?」
「な、何をくれるの!?」
「俺が持ってるものならなんでも一つだけ食わせてやろう」
「え?」
「ハンバーガーでもピザでもラーメンでもいいぞ」
「なんでも!?」
「な、何があるの!?」
「マック、ケンタ、モス、各種ピザ屋、ファストフードなら大体網羅してるし、ケーキなんかもある」
「!?」
ちなみにケーキは恋人たちが好きなため、常時収納に保持しているのである。
「一人がナンを頼んでもう一人がカレーとか、色々組み合わせを考えると良い。ちなみにナンは焼き立てで大きさは俺の顔より大きいぞ」
「そんな手が!?」
「餃子とラーメンを頼んで分け合うっていう手もありかも?」
「天才か!?」
「ちなみにないものもあるから第5候補くらいは考えておいたほうがいいぞ」
女子生徒たちは望外なご褒美にそれまでの疲れを全く忘れ、何を頼むのか真剣に考え出した。何せ組み合わせで考えた場合、どれか1つ無かったことを考えるだけでパターンが一気に崩れるのだ。その選択肢の多さに女性陣はあーだこーだと相談しながら歩き続けた。
さすがにそれだけでは残り5時間は歩き切れないようで、おおよそ注文するメニューも決まった為か、次第に話し声が聞こえなくなった。
「ちなみにピザなら丸々1枚だから、シェアを考えたほうがいいぞ」
「!?」
「今頃いうの!?」
「考え直しじゃん!! でもこれなら多めに色々頼める!!」
2時間が過ぎる頃、休憩時に武藤がぼそっとつぶやいた言葉に女性陣は再び色めき出した。ピザは一欠片かと思えばまさかの1人1枚である。それなら一人だけピザを頼み後はお互いでシェアできるジュースを頼んだり、サラダを頼んだりすればより豊かな食卓になる。再び一行は騒然となった。
再び2時間が経過し、そろそろ女性陣も体力の限界が近い。再び静かになった女性陣に武藤はぼそっとつぶやいた。
「コーラとオレンジとグレープのジュースなら無料で提供するぞ」
「!?」
「また!? また考え直しじゃん!!」
そして再び騒然となりながら女性陣は最後の1時間を歩ききった。結局、一人もかけることなく、女性陣は目的地に到着することができたのである。人の欲望とは時に信じられない力を出すものだと適当に提案した武藤も驚く結果となった。
「……」
到着した女性陣が見たものはとんでもない拠点であった。
「すっご」
「なにこれ?」
「武藤くんがつくったの? あれから? 一人で?」
「武藤だから」
「ああーなるほど。こういう時に使うのね。ものすごく納得したわ」
新拠点を見た面々は一目みただけでそれがとんでもないものだとすぐに気が付いた。
「すっご!? 部屋ある!! いっぱいある!!」
「えっなにこれ竈!?」
「えっこれトイレ!? あっ私達がつくった便器をこの穴に設置するのね!!」
それまでの疲れを忘れたかのように女子生徒達はワイワイと新たな拠点を探索してはしゃいでいた。
「1日でこれだけ作れるなら元の拠点に作ってよかったんじゃないか?」
中林の言葉に武藤は溜息をついて答える。
「元々誰も助ける積りなんてなかったですから。ただ今回は女の子が危ない目に遭いそうだったんで特別です」
「そうか。お前は父親と一緒で女に甘いな。まあ時守は陽咲に教育された結果だったが……」
武藤はあまり記憶にないがどうやら武藤父は武藤母の尻にしかれていたらしい。
「武藤くんあの如何にもっていう岩の壁はなに?」
女子生徒が指さしたのは川のすぐとなりにある怪しい岩の壁である。何が怪しいかといえば、明らかに人工物であろうことがわかる直角の岩が部屋のように立っているのである。
「あーあれか。昨日ちょっとDIYに熱が入っちゃってな。作ってみたんだよ」
「何を?」
「風呂とシャワー」
「!?」
その瞬間、近くにいた女子生徒全員の目がギラッと光った。
「お風呂!?」
「シャワー!?」
「あーまだテストしてないけど水が溜まるだけは確認済みだ」
「!? いつ入れるの?」
「それより先に食事にしないか?」
「!? そ、そうね。あまりのショックに忘れてたわ」
そこで武藤は昨日と同じように立ったまま焼ける石のテーブルを出す。但し今度は火は起こさない為、ただの立食用テーブルとして使用される。
「ピザ!? すごいっあっつい!!」
「ハンバーガー……夢にまで見たてりやき……」
女子は5人で1グループを作っており、百合達10人を除く30人の集団は基本6グループに分かれている。クラスや出席番号に関係なく仲が良い者で汲んでいるため、一概に1組、2組というわけではないようだ。
それがグループ毎にテーブルに固まり、自薦の打ち合わせ通りに武藤から食料提供を受ける。
「こっちにあるのが左からコーラ、オレンジ、グレープだから。ここに紙コップ置いておくから好きに使ってくれ」
そういって武藤は台を置いた後その上にウォータージャグを3つ置き、それぞれにジュースと氷を入れていく。すると即座に女子生徒たちがジャグの前に綺麗に列を為していた。きっちり順番を守るところが日本人らしい。
「武藤くん挨拶をお願い」
「挨拶?」
ジュースが行き渡り、さて食事というときに長谷川が急によくわからないことを言ってきて武藤は困惑する。
「こんなすごい住むところと料理を提供してくれた貴方から何か一言貰いたいわ」
「あー気にしなくていいぞ。助けたのは偶々だし、こういうのは今日が最後だから。まあ今日は何も気にせず十分楽しむといい」
「じゃあ、みんなを代表してお礼を言わせてもらうわ。ありがとう武藤くん。私だけじゃなく女子全員を助けてくれて。それに中林先生もずっと助けてくれて感謝しています」
そういって長谷川が礼をすると他の女子生徒も合わせるように「ありがとうございます」と全員お辞儀をした。
「生徒を守るのは教師の努めだから、気にする必要はないぞ」
「じゃあ生徒を襲うもう一人は教師じゃないですね」
「……」
武藤がそういうと中林はなんとも言えない表情で苦笑した。
「じゃあみんな、武藤くんと中林先生に感謝をしていただきましょう。乾杯!!」
そういって長谷川が紙コップを掲げると女子全員が乾杯と同じように紙コップを掲げた。
「おいしいよう……おいしいよう……」
「……」
懐かしの味に涙を流すもの、一心不乱に食べるもの。場は混乱を極めた。
「で、吉田くん。貴方岩重さんと付き合ってるの?」
「!? えっあっその……」
「そうです!! 大ちゃんは私のです!!」
そういって岩重は吉田の腕にしがみつく。
「「おおーーー!!」」
「そして浩一は私のです」
そしてそれに負けじと佐藤が光瀬の腕にしがみついた。
「あーやっぱりかー」
周りの女子生徒達からは残念そうな声が響き渡った。
「吉田くん達、教室にいる時は如何にもオタクっていう感じだったのに、実際はすっごく頼りになるし、引っ張ってくれるし優しいし、超優良物件だよねえ」
「岩重さん達男を見る目あるよねえ」
あまりにもの高評価に吉田たち二人は驚くと同時に非常に照れくさく感じてしどろもどろとなった。
「それより私は岩重さん達がすっごいきれいになってることに驚いてるんだが?」
「そう!! それそれ!! なんでそんなすっごい綺麗になってんの!?」
「えっあっその……」
「光瀬さんほくろどうしたの!?」
「あっあははは」
女子生徒たちが問い詰める勢いで迫ってくるが、武藤のことの為、言っていいかわからない二人はただ言葉を濁した。
「で、馴れ初めは?」
「どうして付き合うことになったの?」
そういってジリジリと周囲を囲まれ逃げ場を失った二人。
「あれ? 大ちゃん??」
「浩一!?」
気がつけばしがみついていたはずの吉田と光瀬の姿は見えなく
「あの野郎!! 逃げやがったな!!」
「後で覚えてなさいよ浩一!!」
そして陰キャ女子二人は女子生徒たとに完全に周囲を包囲され質問の嵐を受けることとなった。
「危なかった」
「さすがにアレには入れねえよ」
危機感が強い二人は危険を感じた瞬間にその場を逃げ出していた。しがみつかれた腕をそっと抜いて抜け出すさまはまさに芸術的であった。
「はっはっは、さすがのお前らでも女性の群れは怖いか」
「強すぎでしょ!!」
「先生よく女子生徒達の間で平気ですね」
「まあ教師だからな。子どもたちの前で無様は晒せんよ」
「さすが先生。すげえわ」
「あの武藤が言うことを聞く数少ない男だけのことはある」
「おい。俺がまるで無法者みたいにいうんじゃない」
「男相手だと完全なアウトローだろうが」
「いや、そんなことないぞ。武藤は理不尽な相手に従わないだけで、ちゃんと道理が通ったことならしっかりと聞くはずだ。こいつの父親もそうだったからな」
「そういわれてみれば……確かにそうかもしれないな」
「確かに武藤側から喧嘩は売ってないな。ってことはあの天然煽りも本当に煽りと思ってない可能性が……」
同じクラスの越智に絡まれた時に向こうから絡んできている。武藤からは面倒なので基本自分から他人に絡みに行くことはないのだ。
「お前らが襲われてる時以外で俺が自分からお前らに声かけたことあるか?」
「……言われてみれば確かにないな」
「いつも俺等の方から声かけてるな」
「俺は自分からは絡みにいかん。精々タカくらいだな」
「誰だよ。急にしらんやつでてきたぞ」
「むしろ俺等以外に友達がいたことが驚愕なんだが」
「おまえがいうな」
明らかに交友関係が狭そうな陰キャグループ3人の底辺マウント合戦が始まっていた。
「全くおまえらは……」
中林はそれを呆れた顔で見つめていたが、その顔はこの世界に来てから一番笑顔に溢れていた。
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