第148話 計画どおり
一方その頃、武藤はといえば、今日は城にはいかず、拠点で過ごしていた。明日の早朝に移動する必要がある為、さすがに夜通しの酒池肉林はまずいとの判断である。
「お城に居ないのは久しぶりだねえ」
「そうだね。毎日来てるのにここで寝るのは何か懐かしい感じがするね」
そういって湯船に浸かりながら香苗と百合が語り合う。
「でも長谷川さんが最悪のことになってなくてよかったわ」
「彼女はキツイ性格と思われてるが、実際は誰より思いやりがあるからねえ」
「彼女が女王様になって男子生徒たちを侍らせてるって話しだっけど、結局は女子生徒達を守るために単独で男子達を手球にとっていただけっていう話しだったわけね。長谷川さんらしいわ」
「面倒見がいいですからね。長谷川さん」
百合と香苗の言葉に朝陽と月夜も長谷川がいい人だという認識をしていることを告げる。
「長谷川さんといえば、確かテニス部のホープと言われてる方でしたわね」
「綺羅里ちゃんしってるの?」
「話を聞いたことがあるだけですわ」
1組の長谷川と2組の綺羅里では基本的に接点がない。そもそも百合達とも接点が無かったくらいである。
「確か中学で結構有名な選手でしたかしら?」
「全中で2位だか3位だかって聞いたなあ」
「真凛ちゃんなんでそんなこと知ってるの?」
「ああ、知り合いがテニス部にいてさ。偶々聞いたことがあったんだよ」
知美に真凛はそう答えだ。
「普通そこまで強かったらもっと強豪校に行かない?」
「一応誘いはあったらしいよ。でも一番近くでも県外の私立で、しかも今テニスにそこまで力を入れてないらしくて、特待生枠がなかったんだって。だから費用が全額免除ってわけでもないから断ったって聞いた」
「あーたしかに私立だと半額でもかなり費用かかるよね。でも遠いとこならもっといい条件あったんじゃない?」
「さあ? そこまでは聞いてないからわかんないや」
「それもそっか」
「それより高橋ってやっぱりやばかったのね」
「最初からだろう? 私達を見る目が入学式からずっと卑猥だったじゃないか」
百合の言葉に香苗も辛辣に返す。女性は男性の視線にかなり敏感である。その視線に含まれている劣情を正確に嗅ぎ分けることができるのだ。
「名簿で隠していたけどクリスの体操着を見たときなんて、大きくしていたからねえ」
「ええっ!?」
「やばすぎでしょ」
「特に私達5人は狙われていただろうねえ」
仮にも女神と呼ばれている面々である。女子高生大好きな高橋からすれば垂涎の獲物だ。
「でもまさか私達が既に一人の男のモノになっているとは夢にも思っていないだろうねえ」
その言葉にまだ手を出されていない綺羅里達3人が顔を赤らめる。
「ずるいですわ!! 香苗さん達ばっかり!!」
「大丈夫さ綺羅里」
「え?」
「既に君たちは武くんの身内扱いだから。武くんは身内に対する愛情が凄いからね。今かなり我慢してるよ」
「本当ですの?」
「ああ。でもああ見えて凄い頑固だからね。弥生先輩に対する愛情も凄いんだ。だからこっちで手をだすかどうかは微妙といったところだねえ」
「くううう、負けませんわ!! 絶対手を出して貰いますわ!!」
「私は綺羅里ちゃんの後でいいよー」
「私は知美の後でいいかな」
綺羅里の友人二人はといえば、別段焦っていない。順番に拘っていないし、何より武藤が自分達を捨てないと信頼しているからだ。だが実際は……怖いのである。それは抱かれる恐怖というよりは依存してしまう恐怖である。一度抱かれたら最後、武藤の体に溺れてしまうことを二人は懸念しているのだ。しかも二人は百合たちと違い同じ教室である。下手したら教室で武藤を襲ってしまいかねないのだ。挿入されていないのに既に綺羅里達3人はそこまで武藤に快楽を与えられていた。ほぼ半分以上武藤沼に溺れた状態といえよう。ちなみに他の恋人は全員頭の天辺まで溺れている。それは抱かれていない弥生も同じであった。
「そういうのは俺がいないところで話してほしいなあ」
無言ではあったが、武藤も同じ湯船に浸かっていた。そして桃源郷のような光景を見つめながら一人冷静になれと自身を鼓舞していたのである。ちなみに勿論臨戦態勢は整っている。何せ目の前で綺羅里が立ち上がって力説しているのである。誰も奥へといざなったことのない神秘が目の前にあるのだ。興奮するなという方が無理だろう。
「!? あっ立ち眩みが……」
そういって綺羅里はわざとらしく武藤の方へと倒れる。
「!?」
武藤の顔が綺羅里の胸に埋もれたが、武藤はそんなご褒美に目もくれない程の危機感をつのらせた。
「きらっ入っ――」
武藤が焦るのも仕方がない。なぜなら立ち眩みのふりをしながら綺羅里は一生懸命腰を動かし、武藤の猛り狂った暴れん坊を入れようとしているのだ。
「大丈夫、さきっちょだけ、さきっちょだけですわ!!」
「お前がいうんかーい!!」
男が絶対守らない台詞第一位である。それを平然とのたまう辺りが皇の暴走姫の真骨頂の暴走だ。綺羅里は見てしまったのである。猛り狂ったように雄々しくそそり立つ武藤のそれを。そして今ならばいけると踏んで、ドサクサに紛れて突っ込んでしまおうという暴挙に出たのだ。
「ずるいですわ!! 私を女にしたというのに!!」
「いいかたああ!! それあの王冠の時のことだろ!!」
「今ですわ!! あっ!? もうすこしで……」
「いけないっ綺羅里!!」
「えっ? 香苗さん?」
ずっと応援してくれており、むしろやることを推奨してきている香苗からのストップである。綺羅里は戸惑いながら香苗に視線を向ける。
「まだ撮影していない」
「あっそうでしたわ」
「そっちかよ!!」
止める理由が武藤の予想と全く異なっていた。
「あっ」
その一瞬の隙で武藤は綺羅里から脱出した。
「危なかった」
「もう少しでしたのにー」
「今度からはスマホを用意しておくことだねえ」
「そうしますわ!!」
「そういう問題じゃないだろ」
まさかの逆レイプみたいなことになりかけてさすがの武藤も焦った。だが基本恋人には甘い武藤はそんなことで腹を立てたりはしない。残念だったねえくらいの感じでお咎めなしである。そもそも武藤としてもしたいのである。それを弥生への義理立てから鋼の精神で抑え込んでいるのだ。
「武くんは何か勘違いしてないかい?」
「何を?」
「えっちの順番は別に恋人になった順番である必要はないんだよ?」
「……そうなのか?」
「そうさ。愛を育むスピードにも個人差がある。弥生先輩がいい例じゃないか」
小鳥遊弥生は恋人になったのはつい最近とはいえ、他の恋人に比べるとそこまで武藤と接触があるわけではない。いやイチャイチャしている度合いは他の恋人たちと変わらないレベルであるが、肉体関係的なものはほぼ皆無である。それは弥生が恥ずかしがっていることもあるが、おおよそ一般的なレベルで正常である。むしろ即肉体関係になっていたそれまでの恋人たちの距離感がおかしいのである。
「肉体的な関係を持つのは、その人個人個人でのタイミングというものがある。弥生先輩は最高学年であるが故に、残り少ない学生生活を武君との学生らしいイチャイチャ生活で過ごしたいのだろう」
そう言われればと武藤も考える。確かに弥生とはお弁当を食べさせ合ったり、手を繋いで歩いたりと健全な高校生らしい交際をしている気がする。
「どうせ一生一緒にいるのだから、今しかできないことを優先するのは何もおかしなことではない」
「なるほど……」
「故に弥生先輩に合わせた場合、綺羅里達はどうなると思う?」
「!?」
恋人たちが混じり合うなか、弥生がしない限りはそれに加わることができない。万が一卒業まで弥生がしないと判断した場合は、それまで綺羅里達もおあずけとなってしまうのだ。
「義理堅い君の考えもわかる。だが同じ恋人である綺羅里達もしっかりと見て欲しい。恋人に優劣はない。同じ恋人なのだから」
「そうか……すまなかったな綺羅里」
「!? それじゃ!?」
「今晩しよう」
「うれしいですわ!!」
そういって綺羅里は武藤に抱きつく。何故かそれを見てニヤリと笑ったのは香苗である。その姿はまるであの死のノートを拾った新世界の神のようであった。
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